三十九話
「おはよ。あの娘、なんなの?」
朝起きるとエプロンを外した弥生がまるで苦い物でも食べたような不機嫌そうな顔をしていた。
「おいおいっ、なんだかヒロインを虐める悪役女みたいな発言だな。」
ウチの弥生は大天使の筈なのに。
「もうっ、バカなんだから。あの女の所為で」
言いながら俺の腕を見る。
そうか?
莉奈か?
俺が怒らないから、怪我をさせたリナのこと、代わりに怒ってくれているんだな。
「弥生、いつもありがとうな。」
本当に弥生は可愛い妹だ。
「もうっ、、そんなお人好しだから心配」
「俺の心配してくれてるの?」
「心配‥‥なんてしてあげないっ」
あっかんべ〜をしたと思ったらトイレに逃げこまれてしまった。
どうも、最近、思春期の女の子との接し方がわからないんだよな。ほんと娘に対するパパの気持ちがちょっとだけわかる。
その内、「最近、学校ではどうだ?」とかなんとも答えづらい質問をしてしまいそうだ。
ピンポーン。
インターフォンの音が聞こえて、扉を開けると、莉奈が制服姿で立っていた。
艶やかな髪といい、整っている容姿といい、小学生にしておくのは勿体ないくらい可愛いんだけど、なぜモテないなんて言うんだろうか?
「あの、、いくら先輩でも、そんなに舐め回すように見られると、、、」
莉奈は身体を隠すような仕草を見せる。
いや、さすがに舐め回すようには見ていないんだけど。
「わ、悪いな。」
「いえ、私なんか身体だけですから」
手も首もブンブン振って否定する。
いや、身体も全然発達してないぞ。
いや、まぁ、舐め回すように見ていると思われているのは心外だが。彼女の容姿は整い過ぎているくらいだと思う。
だから、そこまで自分を卑下する事はないと思うんだけどな。
「いや、全然興奮はしないけど、本当に、か、、可愛いと思うぞ。」
「本当ですか?同情‥?」
眉を下げた様子だが、なんだか無表情にも見える。
「いや、ほ、本当だぞ。」
「また、、、冗談?」
莉奈の翡翠の瞳から目を離せない。
「いや、本当に可愛いっ「なに家の前でイチャイチャしてんの?」
突き刺すような視線に気づいて玄関を見ると、弥生がゴキブリでもみるような目で俺を見つめていた。
小学生を口説いているようにでも見えたのか?
「あっ、学校行かないと遅れるな。莉奈、早く行こう」
俺が先に歩くと莉奈はヤマトナデシコのように三歩下がって付いてくる。
昨日もたぶんそうだったのだろう。
だから、前回一緒についてきているのを忘れてしまったんだよな。
「なぁ、莉奈。荷物持ってくれるのはありがたいけど、俺と並んで歩かないか?」
側から見ると俺がすごく偉そうにしているように見えるんだが、たぶん莉奈には悪意はない。
「そんな。滅相もないです。」
莉奈は高速で手が見えないくらい早く横に振って否定する。
なんなんだろうな?
一応、命の恩人だからなのだろうか?
しかし、目の前に命を落としそうな女の子が居て手をのばさない選択肢なんてないだろう?
助ける前と後であまりに関係が変わってしまい、戸惑うばかりでいい方法が浮かばない。
思考の海に潜っていたからだろう。
危機に対処するのが遅れてしまった。
「シンシ〜ン、ハァハァ、今日はハァ、なぜ、いつもハァ、より早くハァ、家を出たのハァ、かな?」
凛花が息を弾ませて現れた。
もちろん、ハァハァ言っているのは変態だからではないよ。
わざと早目に出て凛花と莉奈の遭遇を避けたというのに、どうやら凛花は走って追いかけてきたらしい。
「あのさ、莉奈にバイト、配達関連の勉強を教えてもらおうと思って‥‥そうだよなぁ、莉奈?」
俺は肩を掴んで彼女と目を合わせる。
肩を掴んだ瞬間彼女がビクッとしたが、もしかしてセクハラだったのか?
心なし顔も赤い気がするし、そんなに気安く触るべきじゃなかったのかもしれない。
一歩大きく踏み出して、逃げようとしたが、そのまま莉奈と目を合わせてアイコンタクトを試みると、莉奈がウインクした。
どうやら俺の意図が伝わったらしい。
小学生とはいえ学年一位は伊達じゃないようだ。
「先輩の言う通りです。早朝の誰も居ない教室で保健体育の勉強をするつもりでした。」
莉奈はこちらに視線をよこし、少しドヤ顔でまたもウインクする。
イヤイヤイヤイヤイヤ、ちょっと待て。
ち、違う、違うだろ?
わ、ワザと、、、じゃないよな?
俺は非難の眼差しを向けようとしたところで、肩に手を置かれた。俺は先ほどの莉奈よりももっとビクッとしてしまう。
そして、恐る恐る凛花をみたところまでは覚えている。気付くと教室の角で震えながら体育座りしているところをトモヤに発見される事となった。




