三十七話
気持ちをすり減らしながらも登校し、やっと学校に着いた。お陰で凛花と別れることができたよ。
「おはよう、委員長。」
教室に入るとなぜか委員長が駆け寄ってきたので、反射的に挨拶をしてしまった。
そして、委員長はいつものはもっと冷めた目で見てくるのに、今日は興味津々と言った様子だ。
もしかして女装の件、美咲様から聞いたのだろうか?嫌だぁ〜っ、アレは別に俺の趣味じゃねぇのに。
「おはよう、橋本君、その可愛い女の子は誰なの?他校の娘だよね?というか小学生に見えるけど、妹さん?」
しかし、委員長の一言は全くの予想外のものだった。
「えっ?」
振り返ると莉奈がそこに立っている。
そういえば、カバンを持ってくれていたんだったっけ?凛花の機嫌をとるのに必死ですっかり忘れていた。
「あっ、悪い。莉奈、カバンココに置いてくれ。ほら、早く戻らないと遅刻するぞ」
俺ってば、女子小学生に荷物を持たせて、、クラスメイトにどんな目で見られるか全く想像が出来ていなかったよ。
「先輩、安心してください。学校には親戚の介護で休むって許可を取りました。」
莉奈は両腕の拳を握ってニコリと笑う。というか、ただ口の端を上げただけで目は笑っていない。
きっと、ヤル気アピールのつもりなのだろう。
ハッキリ言ってあんまりやる気があるように見えない。
「アホだろ?休んでしまって勉強はどうするんだ?」
「ぜんぜん大丈夫です。成績は学年1位ですし、先輩の手の代わりしなきゃ、私の気が済まない」
莉奈は心から心配そうに、ではなくて無表情に俺の手を見つめた。
「いや、そんなに気にする必要はないって。それに、うちの学校もそんなの認めないだろ?」
そうだよ、女子小学生をクラスに連れてきて教室に一緒にいるなんて非常識。 追い出されるだろう。
俺は学年1位じゃないけど、莉奈と違って世の中の常識くらいはさすがに分かっているつもりだ。というか俺がロリコンなんて根も葉もない噂が出てくるのも時間の問題ということも。
「あっ、心配しなくても学校の許可なら姉がとりました。」
しかし、学年1位の女の子もさすがにそんなことは分かっていたようだ。ただ、ロリコン疑惑は払拭出来そうにない。
「家族まで巻き込むなよ。というか許可とれたのか、すごいな。でも別に1人でやれるから」
「何言ってるんですか?そんな手で無理して、酷くなったら困ります。じっくり介護されてください。」
しかし、俺の意見はスルーされたみたいだ。
それからしばらく説明を試みたが、全く会話が噛み合わない。というか、合わせる気がないようだ。
結局、俺は諦めて彼女の介護をうけることになった。
1時間目は英語の時間だ。
なぜだか、莉奈は何処からか椅子だけ持ってきて、俺と一つの机を一緒に使っている。
「それじゃ、前回の未来進行形のおさらいだ。I’ll be seeing him soon.これを、、橋本、和訳してみろ。」
完全に油断していたが、先生にあてられてしまった。
あれ?
どうだったっけ。
えーと、、、。
「先輩。『近いうちに彼に会うことになるでしょう』です。」
ヒソッと教えてくれたのは莉奈だった。
「先生、近いうちに彼に会うことになるでしょうです。」
「正解。すごいぞ、橋本‥‥の従姉妹さん。」
教室内にドッと割れるような笑いが溢れた。
トモヤなんて笑い過ぎて脇腹を押さえていた。
俺だってあんな問題わかって‥なかったけどな。
なぜ、小学生の女の子がこんな簡単に英語の和訳が出来るんだ?
「それじゃあ、橋本。今度はコレを訳してくれ。」
またも、先生は俺を指名した。
「ここは俺に任せてお前は先に行け‥です。」
莉奈に答えを聞いて、俺は即答する。
なんだか自分が頭が良くなった気がするから不思議なものだ。もちろん、気のせいなのだけど。
「正解。」
こんどはクスクスと笑いが起こる。
「それじゃあ、コレは訳せるか?どうだ?」
もはや先生が半笑いなんだが、なんなんだよ。
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。」
結局、また莉奈に答えを聞いて答えようとしたが、今度は莉奈が直接回答してしまった。
みんなも予想外だったのか、またドッと笑いの渦が巻き起こる。
「正解、やるじゃないか?小学生らしいけど、橋本の代わりにウチに来るか?」
「先輩と一緒なら考えておきます。っ、その問題の答えは『ヤツは四天王の中でも最弱』です。」
莉奈は淡々とした口調でまた正解を言い当てる
そんなこんなで、今日のクラスの主役は宮下莉奈に決定してしまったのだった。




