二十七話
その夜、仕事を終えて家で寛いでいた。
仕事はかなりアクティブだけど、俺は割とインドア派なのだ。
「お兄。チャンネル変えるね。LCCの新曲みたかったんだ。」
弥生はご機嫌にチャンネルを変える。
すると、歌の前のトークの映像が現れた。
確か、今話しているのはたぶんセンターの霧崎マナだ。彼女の人気は凄まじく、『キングオブアイドル』なんて異名を持っているらしい。
らしい、、というのはトモヤがあまりLCCに興味がないので、俺もよくわからない。
「マナちゃん。新曲の出来栄えは何点なの?」
「そうですねぇ、3点くらいです。」
「3点満点の?」
「あれ?茂木さんも知っててくれてるんですね?嬉しい。もちろん、3点満点の3点です。」
「なんなんだ?これ?」
「あれっ?もしかしてしら兄の?」
「【知らないの?】と【兄】をまぜるなよ。知らないよ」
『混ぜるな危険』という言葉をしらないのか?
「3点。。3点満点のね。というのがマナちゃんの決めゼリフなんだよ。」
「それって流行ってるのか?」
「たまにクラスでも使う娘いるよ。」
「居るのか?あれ?」
ということは眞姫那は???
このセリフを知ってたのだろうか?
翌日、昼休み。
俺は屋上に居た。
もちろん眞姫那に話しかける為だった。
『もしかして、かなり好かれてるのかもしれない』なんて思ったら居ても立っても居られなくなったのだ。
それなのに流れで、また4人でご飯を食べる羽目になってしまった。人生ままならない。
「なぁ、なんか今日は朝から木下がシンヤに全然目線をあわせなくなったけど、何かあったのか?」
トモヤはピラフのグリーンピースを避けながらそんなことを口にした。
「‥‥、ううん。なんでもないよ。」
しかし、美咲さまがそう答えるとトモヤは一気に興味をなくした。ホントにリアル女に興味ないヤツだ。
「それより、もうすぐ体育祭だよな?シンヤは何に出るつもりなんだ?」
早速話を変えて体育祭の話を始めた。
全然興味ないくせにだ。
トモヤってば、唯我独尊に見えてこういうところは意外と気がつかえる奴なんだよな。
「障害物競走だな。おれの能力を生かせるのはこれしかないからな。」
そう、意外かもしれないが、単純な100メートル走りだと、俺はギリギリ五本の指に入るくらいなのだ。
「そうね、橋本君ってば小回りいいもんね。」
委員長は変な褒め方をしてくれるが、これって喜んでいいのか?
「俺を軽自動車みたいな褒め方するな。」
「ちなみに俺は二人三脚だぜ。」
「うわぁ、下心が透けて見えちゃう。」
トモヤの発言に委員長がどんびいていた。
どうせ透けて見えちゃうなら女の子の下着の方がいいが、委員長に軽蔑されるからそんなこと言わずトモヤの援護に回る。
「いや、トモヤのこと庇う訳じゃねえけど、こいつ、リアルな女の子は興味ないぞ」
これは本当だ。
「でも、アイドルの追っかけしてなかった?」
「いや、何をバカなことをいってるんだ?アイドルはリアル女子じゃないぜ。」
トモヤはまるで子供でも知ってる事を委員長が知らなかったかのように軽蔑した目でみた。
「ごめん、山川の言ってることわからないんだけど。通訳してくれないかな?」
委員長はその視線に耐えられず俺に助けを求めてくる。不謹慎かもしれないが、こういう形でも女の子に頼られるってのはちょっと嬉しい。
「あぁっ、つまり、トモヤにとってアイドルは2次元ってことだ。」
俺は明瞭簡潔に誤解のないように答えた。
しかし、俺の溢れる知性のおかげで委員長が納得してくれる‥なんてことはなかった。
「ごめんなさい、橋本。意味がわからないんだけど。詳しく教えてくれない?」
委員長はますます困惑した様子だ。
「まぁ、アイドル=偶像。『会いに行けるアイドル。』なんて言ってもやっぱりステージの中の人だからな。現実の女の子じゃないんだよ」
「うん?つまり、アイドルは現実の女の子枠じゃないってことなのかな?それって橋本もそうなの?」
「そりゃ、そうだよ。アイドルに恋するなんてバカらしいだろ?」
そう、色んな意見があるかもしれないが、俺は報われない恋はしたくはない。
「そ、そ、そんなことっ」
「まさきさん、どうしたの?」
「ううん。なんでもない。」
美咲さまは目線をそらしてしまった。
何々?
もしかして、女の子の前でアイドル話とかひかれたのか?
アイドル好きな女の子も居るし、油断したけどそういうものなのかもしれないな。
俺も熱烈なジャニオタとか見たらちょっとひいてしまうかもしれない。
ちなみに、委員長はアイドルの話ではひいたりはしない。それどころか家で勉強するときはLCCのadvanceを聞きながらだと捗るらしい。
それを恥ずかしそうにいう姿は普段のキリッとした姿からは想像もつかない様子で、思わず俺まで照れてしまった。
飯が終わって1人になっても俺は屋上に居た。
もちろん、屋上に来た目的は忘れてはいない。
「眞姫那〜。居るんだろ?」
俺がやや大きな声で呼びかける。
しばらく待ってみても返事がない。
あれ?
今日は屋上に居ないのか?
念の為屋上塔の上を覗き見ると、足が見えた。
返事がないとはいえ、ただのしかばねと呼ぶには綺麗な足で、俺は思わず生唾を飲み込んでしまう。
きっとあれが眞姫那だよな?
俺は眞姫那に呼びかける。
「ま〜きなちゃ〜ん。あ〜そ〜ぼっ」
「んっ‥‥あれ?寝ちゃってたわぁ。。。
えっ?えっ?もしかして、顔見たん?」
少しすると、眞姫那からリアクションがあったが、やけにあせっている。
そんなに顔がコンプレックスなのだろうか?
「見くびるな。人が嫌がってるのに無理矢理みたりなんてしない。」
俺は『嫌よ嫌よも好きのうち』なんて信じたりしないからな。
「うわぁ、ほんま紳士やったんやなぁ。今までエセ紳士のムッツリ野郎なんて思っててごめんなぁ」
「いや、ドサクサに紛れて俺をディスってるけど、俺ってば何言われても怒らない訳じゃないからな。」
そう。いくら本音でも、そこは黙っててほしいところだった。
「そうなんかなぁ?ウチの見立てではハッシーは友達や妹ちゃんがディスられないかぎり怒らへんはず。きっと、母親のような深い愛をもってはるんやろなぁ。」
「ははっ、なんだよそれ?」
俺はそうそう怒ったりは出来ないが、別に母性が強い訳じゃない。
人生は感情を逆だてるより、感情の波を消した方が楽に進んでいける事を知っているからだ。
「‥‥うわぁ、0点。」
しかし、なぜかこのタイミングで0点を貰ってしまった。0点は何点満点でも最低評価に違いないよな?
「あれ?3点じゃなくて?」
「親父ギャグに3点もつけられへんよ。」
オヤジギャグ?
なんのことだ?
「ちょっと待て。意味がわからん。」
頭の中がハテナマークでいっぱいになった。
「母親だけに、『ははっ』って笑わはったんやろ?ハッシーと話すのはたのしいけど、これはあかんと思うよぉ。」
ち、違う。
誤解だ。
「か、か、勘違いしないでよねっ。オヤジギャグなんて、全然っ好きじゃないんだからね。」
俺はそう言い訳するのが精一杯だった。
「オヤジギャグ‥からの〜っ、ツンデレ。ハッシーもいつの間にか大きくなったんやねぇ」
「たまに会う、親戚のおじさんみたいにシミジミ言うのはヤメろ。」
「あはっ、やっぱりハッシーをいじめ‥ハッシーと話すのは楽しいわぁ。」
「待て待て、今さり気なく『いじめるの楽しい』とか言いかけた?なになに、俺を泣かせたいの?」
「なぁ〜かしたぁ、なぁかしたぁ♪」
「いや、まだ泣いてないし、先生にも言うな。」
「あはっ、ところで、お弁当。冷食使ってないんよなぁ。お母さん、頑張ってるよねぇ?ちゃんとありがとうって言ってるん?」
性格破綻者かと思いきや、ときどきいい事を言うからタチが悪い。子犬を可愛がる不良みたいにやたらと評価が上がりやすいんだからな。
しかし、今回は的外れだった。
だって、弁当は‥
「いや」
「ちゃんと言わなきゃあかんよ。」
「そうじゃなくて、俺が作ってるから。」
「へっ??ホントに?すっ‥‥‥ごいねっ。」
純粋に褒められて、俺は思わず戸惑ってしまう。何しろ、トモヤ以外にあまり褒められた記憶がない。
「ま、まぁな。」
「こ、今度さ。材料費と手間賃だすから作ってきてくれへん?」
「はぁ?なんで?眞姫那、料理作れないの?」
「あ〜っ、私だって作れるよ。フ◯ーチェ」
あ〜っ、あのミルクと混ぜるやつかぁ。
あれは果たして料理と呼べるのだろうか?
「あ〜っ、もしかしてバカにしてはるん?あれは奥が深いんやからなぁ。とにかく、お弁当作って来て。」
「いや、そんなに食いたいなら作ってきでも良いけどな。」
「ありがとう。あっ、ちょっとあっち向いててね。」
ごそごそっ、という音が聞こえたと思ったら今度は衣擦れの音が聞こえた。
えっ?もしかして、、
なぜか着替えてるのか?
もちろん、覗き込みたい衝動に駆られたが、そんなことをすると変態以外の何者でもなくなってしまう。
「もう大丈夫だよ。はいっ」
なんだか浅葱色のクシャクシャした布の塊を渡された。
あれ?
もしかして、下着?なのか?
思わず凝視して気付いた。
これ、巾着袋か?
「ん?なんでそんなに袋見てるん?ウチが渡したいのは中身やねんけど。」
呆れたような声を出すが、あれ?
よりにもよって下着と間違えて巾着を凝視してたところをみられてたのか?
「あれ?千円札?」
「あれ?足りひんかった?」
「もしかして、弁当代?」
ハードルが高すぎる。
こいつ、、どんな弁当を求めてるんだ?
「やっぱり足らへんかったんや?」
「いや、普通のお弁当だから千円なんて高すぎるからな。」
「そうなんやぁ?じゃあ、2回分ってことで。」
正直、それでも高いと思ったが、俺は黙って頷いた。




