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二.五話


人気アイドルグループ、レイヤード


3ヶ月前に武道館ライブを開催して、人気は更に急上昇。

赤丸印の五人組アイドルユニット

なのです。



私は宮下雪菜、彼女たちのマネージャーなの。



レイヤードのみんなからは親しみを込めて、『ユッキー』って呼ばれているんだよ。

羨ましいでしょ〜?



平均年齢16歳の彼女達より年上、28歳の私は彼女達のマネージャーをちょうど1年前からつとめているんだよね。



本当に、ほんとうにこの1年早かったぁ〜っ。



出演番組の選定から、レッスン、イベントのスケジュール管理。


それに彼女達の寮の管理人役、悩みの相談役、体調管理など、やる事は多い。多すぎる。


それに休みは殆ど無いし、正直言って彼女達よりブラックな待遇だよぅ〜っ。


そのせいで、しばらく彼氏も出来てないし、友達はどんどん結婚していくし、子供も出来るし、、、、羨ましくなんてないんだから‥



だって、スターの階段を駆け上がっていく最近の彼女達を見ていると、疲れとか嫌なことがぜ〜〜んぶっ、吹っ飛ぶんだよね。



彼女達は私の自慢の宝石達であり、可愛い妹分でもあるの。



レイヤードのメンバーは結成時から変わらない。


最年少の結衣。

元気で明るい苺。

クールで毒舌キャラの朱音。

天然キャラの葵。


そして、この個性的な4人をまとめているのが、リーダーの美咲だったりする。



美咲はストイックで、トレーニングにもレッスンにも勉強にも手を抜く事を知らない努力家。


そして、絶え間なく努力するその姿はファンどころかメンバーの心すら魅了して止まない。

ちょ〜っと、塩対応って評判もあるけど、それも彼女の個性なんです。



そんな完全無欠なアイドルである彼女に1つ変わったルーティーンがあるんだよね。


あっ、ルーティーンってわかる?


【一定の手順で行われる仕事。】

【手順、様式が決まった行動。】

など、どちらかと言えば惰性と隣り合わせのマイナスな意味で使われることが多かった言葉だよ。



しかし、最近はアスリートなどがよく取り入れるようになったので良い意味で使われることも多くなったんだよね。



例えば、フィギュアスケートの有名選手なんて、必ず右足からリンクに入るとか。


ある選手は必ず試合前は同じものを食べるとか。


また、ある選手は勝ってるうちはずっと同じパンツを履き続けるとか色々あるんだよね。



彼女の場合は、ライブ前に楽屋に1人で篭り、10分ほど精神統一をするというものなの。


そして、それを終えて出てきた彼女の目は毎回キラキラ輝いてる。



どんな精神統一をしているのか本当に気になる所なのだけど、問いただしてみても美咲は無言でニッコリ笑ってしまうだけで、どんな事をしているか一切教えてくれないんだよね。



そして今日も


「マネージャーさん。決して中をのぞかないでくださいね。」

まるで昔話の鶴みたいな事を言って、彼女は楽屋に引きこもってしまった。



気になるぅ〜っ。



大体、『決して中をのぞかないでくださいね』なんてフリとしか思えないんだけど。



きっと押すな押すな的なヤツだよね?



私は勝手にそう解釈して、後で扉を開けようと考えていると、、、『もし、のぞいたら、私、アイドル辞めますから』なんて言い出した。



普段、辞めるなんてことは絶対に言わない彼女だから余計に気になる。


だけど、この儀式が彼女をアイドル足らしめる儀式なら、、、、私はしぶしぶ黙認することにした。








私の名前は結衣。


アイドルグループ、レイヤードの最年少12歳。

グループ内では妹担当なんだけど、実際には私は4人姉妹の長女で、世話焼き体質なんです。


だから、妹キャラは演じているという感覚に近いのかもしれません。そんな長女体質な私でも付いていきたい先輩が1人だけ居ます。



それは、、、美咲先輩です。



彼女は周りのみんなに気を配れるかと言えばそうでもなく、マイペースな態度を崩さないし、融通も利かないタイプなのです。


あっ、ディスってる訳じゃないですからね。


美咲先輩は勉強もスポーツも歌もダンスもMCも手を抜かないし、皆んなが休憩にお菓子を食べたり、スマホをいじっている中、1人、練習を続けているんです。



少し。

いいえ、随分とストイックな先輩。



初対面の時の先輩の印象はクソ真面目で、酷く要領の悪い先輩。


見た目も今と違って黒縁眼鏡で三つ編み。

『絶対、クラスでのあだ名は委員長』だなんて思っていた。


ダンスも、歌も並み以下。


【なんで、この人アイドルなんて目指しているんだろ?】

なんて思ったことも一度や二度ではなくて、正直‥‥見ていられなかったんだぁ。



それでも、彼女は諦めなかったし、手を抜くこともしなかった。本当に毎晩遅くまで飽きもせずに一心不乱に練習を続けていたの。



【努力は必ず報われる】

訳じゃないのに‥‥なんでそんなに努力できるんだろ?



「美咲お姉ちゃん。知ってる?【努力は必ず報われる】なんて幻想だから。こんな弱小の運営がやってるアイドルなんて絶対売れないし、努力も無駄になるよ。」

ハッキリとそう言ってあげたこともある。



だって、当時の私達の活動先と言えば、公民館かスーパーマーケットか近くの商店街くらいのものだったから。



「うん、そうかもしれないね。でも、ダンスを頑張る。歌を頑張る。握手会を頑張る。そういったことだって、ファンや、運営さん、メンバーのみんな、ユッキーさん。そういった人達が協力してくれるから出来ることなんだと思うけど。そう考えると、皆んなに、恩返ししたいと思わない?」


なんて笑顔で答えた美咲先輩は、なぜか、磨き上げた刀身のように輝いて見えた。



それからも、彼女は懸命に走り続けた。



私はその頃には、アインシュタインの名言

【人生とは自転車のようなものだ。たおれないようにするには走らなければならない】

を連想するくらいには美咲先輩がただの要領の悪い女の子ではないことがわかっていた。



きっと、美咲先輩にはアイドルの道を走り続ける才能があったんだと思う。



美咲先輩にもう一つ才能があった事に気付いたのは、その少し後のことでした。



それは背中で語る才能です。

なんて男らしい才能なんでしょう?



美咲先輩の頑張る背中に触発されるかのように苺が、、そして、葵さんが、、、気付くと私までちゃんとアイドルするようになってしまったんだよね。



それからのレイヤードの快進撃は古参のファンからは【氷上の奇跡】と呼ばれている。



元ネタは1980年2月22日に行われたレークプラシッドオリンピックのアイスホッケー競技。


学生だけの地元アメリカチーム対、国家の養成機関で鍛えられたソ連チームの試合で、アメリカチームが奇跡的に勝利したという逸話が【氷上の奇跡】と呼ばれているのです。



それになぞらえて弱小運営が率いるレイヤードの新曲が大手運営率いるL C Cの新曲のダウンロード数を上回ったから氷上の奇跡と呼ばれた‥‥なんて知ったかぶりするバカもいるけど、実は元ネタは別にある。



【氷上】に率いられたアイドルグループがバズったから、氷上の奇跡なんて呼ばれただけなんだよね。



そう。



美咲先輩の本名、、フルネーム【氷上 美咲】が本当の由来なのはファンの間では有名な話。




だから数日前、美咲先輩に「美咲先輩、今までありがとうございました、これからも御指導御鞭撻の程宜しくお願いします。」

なんて、感謝の気持ちを表してみたけど、



「えっと、、、なんのことか分からないけど、初めて先輩って言ってくれたね。もっとそう言われるように頑張らなくっちゃ」

なんて言われる始末です。


これ以上頑張られると私達がその背中に追いつけなくなるから本当に困るんですけど。



しかし、私はそんな美咲先輩の最大の秘密を知っています。



それは、彼女が瞑想と称して楽屋に引き篭もって何をしているかです。



先日、美咲先輩がどんな瞑想で集中力を高めているか気になって覗き見して、とんでもないものを見てしまったんです。


今まで私の見たことのない美咲先輩のウットリした表情がそこにありました。


そして、美咲先輩の前には冴えない男の子が、、、


そう、美咲先輩は殿方と密会していたのです。

たぶん握手会にも来たことがないし、全然見たことのない人でした。



恋愛禁止のアイドルにとっては完全にルール違反なので、私は誰にも打ち明けられませんが、ショックでした。


私の憧れの先輩が、夢半ばで男なんかに走るなんて、、、、不潔です。



そして、美咲先輩は今日も楽屋に入っていきます。私は複雑な想いで楽屋を見つめるのでした。


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