二十五話
「体育祭か?体育祭なぁ、、、いい思い出ないな。」
俺はある日の昼休み、屋上に居た。
周りにはトモヤ、委員長、美咲さまがいる。
そう、なぜか4人で昼飯を食べていた。
なぜこうなった?
それじゃあ、その日の登校時まで振り返ってみよう。
俺はスマホのアプリを立ち上げようか迷っていた。
実は昨日落とした口紅、俺のものではなかったのだ。
とりあえず今日の昼に美奈さまへの配達を済ませた後に元々落ちていた位置に戻そうと思う。
「ところで、いつの間に朝まで凛花と一緒に登校することになったんだっけ?」
俺は学校までの地獄の上り坂を凛花と2人で並んで歩いていた。『さすがにこの歳で男女二人きりで登校していると、付き合っているように見える』、、なんて考えること自体が童貞臭い発想なのだろうか?
「だって。目を離すと、シンシンすぐヨソの女の子のところ行っちゃうから。」
凛花は心底不安そうな表情を浮かべる。
その表情は凛花の父親が家を出ていった後に彼女が浮かべた表情に似ていた。
「頼むからそのキャラづけヤメてくれ。モテない俺がますますモテなくなるだろう?それに凛花だって男の子と話すだろ?」
ただ、今回はなんでそんな表情を浮かべるのかわからない。
「わかったよ。」
凛花が笑顔を浮かべたので、俺は少し安心した。
しかし、次の凛花の言葉で、俺の考えが甘かったこと思い知らされてしまう。
「私、もう2度と男の子と話さないね。その代わり、シンシンももう一生私以外の女の子と話ししたらダメなんだからね。」
‥‥冗談を言っている雰囲気はない。
現実逃避がしたくて堪らないけど、これは夢なんかではなく現実だった。
「いや、2人とも無人島でもいかない限りそんなこと無理だろ?」
「そっかぁ。それはいい手だね。じゃあ2人で無人島に行って末永く暮らす?」
満面の笑みの凛花はとても可愛い。
ただ、言っている内容は‥‥
どうしたんだ?
まったくもって、、、らしくない。
「なぁ?凛花。何か悩みでもあるのか?」
「私は‥シンシン‥ううん、なんでもない」
凛花は悔しそうに。本当にくやしそうに唇を噛み締めた。
「そっか?まぁ、誰だって話したくないことの1つや2つあるよな。本当に何か相談したいことが出来たらいつでも相談にのるぞ。」
そう、俺だって小学校の時に自作のポエムで女の子に告白してしまったことは凛花にも秘密だ。
もちろん、フラれたが。
「ありがとう。私のいうこと聞いてくれる?」
ワガママな、甘えん坊な口調で問いかけた凛花は、まるで幼な子のようだった。
俺には存在しないと思っていた母性本能をくすぐられてしまう。
「恋愛がらみ以外ならな」
ただし、ロクに恋愛経験のない俺は恋愛相談だけはダメだ。
「ダメなの?」
「ごめん。他のことなら力になるから。それじゃあ、ダメか?」
「‥‥だ‥め‥だよ」
「‥‥‥‥‥‥」
俺が沈黙したのは『沈黙は愚人の知恵であり、賢者の美徳だから』ではない。
凛花が俺の唇を塞いだからだ。
それも信じられないことに凛花の唇でだ。
予想よりも更にやわらかい感触に感動するよりも何よりも、現実味がなさ過ぎた。
昔は本当に仲が良かった幼馴染
中学になって急に疎遠になった幼馴染。
最近やたらと馴れ馴れしく怒りっぽい幼馴染。
一体、凛花の中で何が起こっているのか?
喜びよりも、幼馴染の形をした何かが崩れ落ちてしまうような、焦りや悲しみに襲われる。
「無人島‥‥私、あきらめないから。」
凛花は俺から離れると、そう言い放って走り去っていってしまう。
『いや、無人島は諦めてくれ』
なんて言う余裕すらなく、俺は呆然と遠ざかる彼女の背中を見つめていた。
なんてことがあって、処理しきれなくなった俺は委員長に相談することにした。
「で、なんでトモヤとマサキさんも居るんだ?」
『お昼食べながらでもいい?』
なんて委員長に言われて屋上で食べる羽目になったが、なぜか2人が付いてきたのだ。
「なぜって、シンヤがいなかったら、俺、ぼっち飯になるじゃねぇか。」
「1人で食べると寂しい」
上からトモヤ、美咲さまだ。
まぁ、2人ともぼっち飯には抵抗があるらしい。
まぁ、俺もヒトカラや一人焼肉なら金があるなら行けると思う。しかし、教室で1人で居るのとは意味合いがまるでちがう。
教室で1人でたべるということは
『私は1人しか友達がいません』
って言っているようなものだからな。
まぁ、実際のところ、クラスに1人でも気を許せる、気があう奴がいるというのは奇跡みたいなものだと俺は思う。
じゃあ、クラスのやつらはどうやってその奇跡を何回も起こせるのかって?
そんなの簡単だよ。
その奇跡は偽物(マガイモノ〕だからだ。
俺やトモヤと違い、みんな大なり小なり自分を型に押し込めて、仲間ハズレにならないように上手く立ち回っているのだ。
俺はその努力を否定するつもりはない。
あれはあれで大変なのだろうし、一緒にいるうちにお互い馴染んで仲良くなるということもあるだろう。
それになにより、グループに分かれての校外学習等の時、余ったメンバーで班を組まされたりはしないのだろうからな。
ヤバイ。
ぼっちという単語に反応し過ぎてしまった。
俺は割と1人に強いと思っていたが、意外とそうではないのかもしれない。
無意識のうちに塔屋の屋根の上を見つめて考え事をしてたが、全く俺に話しかけてこないところをみると、今日は屋上の主人は不在らしい。
「それで幼馴染‥‥凛花さんがどうかしたの?」
「あれ?凛花のこと知ってんの?」
俺はまだ、『幼馴染の様子がおかしい』としか言っていない。
「そうね。氷結姫の次に有名な女の子なんだから知ってても不自然じゃないと思うな。」
「そ、そう言えば、かなり告白されてるって聞いたことがあるな。その凛花についてだけど、この話は口外しないと誓ってくれないか?でないと話せない。」
「ひどいなぁ、私が話すとでも思ったの?」
委員長が少しだけ眉をひそめた。
「違うよ。後の2人に行ってるんだよ。」
そう、委員長は口が硬いが2人はどうだろう?
「私は委員長しか友達がいないから、余計な心配はしないで。」
親指を立てて俺にドヤ顔を向ける美咲さまは、なんとなく哀れに見えた。
「同じくだ。もちろん、ネットで拡散したりもしない。」
何故だかトモヤまで親指を立てた。
というか、ネットで拡散とかいう発想が出る時点で怖いわ。とはいえ、俺はコイツを信頼している。
「わかった。信じる。」
俺はそう言って今朝の出来事を話した。
「キ、キス?ホントに?あの凛花姫が?」
委員長がかけてもいないメガネをクイッとあげる仕草をする。相当、動揺しているようだ。
「キ、キ、キ、キ、キー」
とブレーキ音のような声を出したのは美咲さまだ。本当に動揺しすぎだ。
「キッ、キッキッキー」
トモヤは猿のような声を上げる。
もはや、動揺を通り越して退化していた。
「いや、動揺してた俺が思わず落ち着いてしまうぐらい取り乱すなぁ、お前ら」
「落ち着いてくれたら良かったよ。それで、聞きたいんだけど、橋本と凛花さん付き合ってるの?」
「そんなわけないだろ?」
「それなら、、二回キッカケがあったと考えるのが普通じゃない?」
委員長が指を二本立てた。
しかし、立てたのがなぜか人差し指と小指で、
完全に手遊びのキツネだった。
「二回?一回じゃなくて?」
「うん。疎遠になった幼馴染が、急に近づいてきたんでしょ?最初はお金か宗教の勧誘かと思ったけど、その後の展開を考えるとそれも考えづらいし、何か決定的な出来事がなかった?」
「いや、最近まで殆ど会ってなかったんだよな。それで、、あっ、、、」
思い出した。
そうだ。
楓さまにされたホッペにキス。
その翌日から急接近してきたのだ。
確か、凛花は俺のホッペに口紅の跡がついていたのを見たと言っていたよな?
「何か思い当たることがあったのね?」
「あぁっ。いや、、でも、、」
いや、この話、ここで明かすと俺が委員長達に軽蔑されるだけでは?
「とりあえず、そっちの原因はわかったから大丈夫だ。それより、二回目のきっかけがわからない。」
「そぅっ?そっちは言いたくないのかな?2つ目なんだけどね、実は私には思い当たる出来事があるんだけど聞きたい?」
「当たり前だ。聞きたい。」
「そっかぁ。まぁ、タダという訳にはいかないかなぁ?それでもいい?」
「金はないから、体で払えることなら」
「カラダ?カラダ‥‥?それセクハラよね?橋本君、怒るよ」
委員長は怒っていたが、
「‥わるい、委員長。どこがセクハラなのか全くわからない。」
「だって、身体で払うだなんて、いっ、いやらしい。」
「ちょっと待て、普通は荷物持ちとか雑用が思い浮かばないか?何を勘違いしているん‥それで、2つ目のきっかけを教えてくれないか?」
委員長を責めようとして、俺はすぐにやめた。
だって委員長ってば、涙目でコッチを睨んでいたんだから。
「凛花姫ってね。最近、橋本と付き合ってるってウワサが流れてるの。」
「う、ウソだろ?」
「そんなに趣味の悪いウソつかないよぉっ。しかももう一つウワサがあるの。」
「な、なんだよ?そのウワサって?」
「橋本が凛花姫と転校生の二股をかけているってウワサなのよ。あり得ないのにね。」
俺はスタンガンを受けた時のような衝撃を受けた。なんで、そんな経験してるんだ?ってのはとりあえず置いておいてくれ。
そうだったのか?
幼馴染というのは解消も離縁も出来ないものだ。だって、別に仲が良くなくても幼馴染は幼馴染なのだから。
そして、幼馴染の評価は凛花にものしかかってくるのだろう。それで、俺のキスマークをせめたり、女の子の所に行くのを反対していたのだ。挙げ句の果てに二股疑惑だ。
もう救いようがない。
ウチの幼馴染がモテないくせに女好きすぎる!
なんかラノベのタイトルっぽいが、凛花視点で見れば、おれが悩みのタネだったのだろう。
それで、無人島なのか‥‥女好きは死んでも治らないとでも思われているってことか。
とりあえず菓子折り‥は高いからホットケーキでも作って持って行って土下座して謝ろう。
それにしても、委員長はいい奴だ。
普段はいい加減な俺を邪険に扱ってるくせに、こういう時は親身になってアドバイスをくれるのだから。




