二十一話
「いや、違う、俺は絶対痴漢じゃない。」
『必死に否定すればするほど怪しい』って学んだはずなのにまた同じ事をしてしまう。
「痴漢はみんなそう言うのよ。観念してよね。あっ、、、あなたも配達があるんじゃない?」
それで、疑われそうになったが、どうやらほんとうに疑っているわけがないようで、女の子が俺を気遣ってくれた。
「あっ、そう、、配達の途中なんだよ。あまり時間もないし、先に行かせて貰うぞ」
その言葉に甘えて俺は腕にある物を巻いた。
これは先に金具が付いたワイヤーを腕から射出出来る便利グッズだ。今回の作戦用に事前に渡されていた。
ワイヤー射出すると、甲板の手摺に金具がガッチリとハマった。初めて使う人でも、かんったんっ。さすが今なら一個買うともう一つ付いてくるだけの事はある。
そして、そのまま腕にあるボタンを押すとワイヤーが巻き取られる仕組みだ。つまり、そのまま一気に甲板まで辿り着くのだ。
しかし、そこで誤算が起こった。
体がお、も、い。
もちろん、体調が悪いとかそんな問題ではない。だって物理的にからだが重いからだ。
そう、背中から誰かが俺に抱きついているのだ。
お陰で、腕につけた便利グッズは悲鳴のような軋み音を奏でながらワイヤーを巻き取っていく。
「おいっ、このアイテムは115kgを超えると性能に影響するって言われてるけど、もしかして体重50kgくらいあるの?グエッ」
いきなり抱きついている手に力を込められた。
苦しくて今まで出したことのない断末魔のような声が出たけど、気になるのはそこではない。
背中に胸が押し付けられるような形となっているのだ。
顔は分からないが、 女の子にそんなことされて平常でいられる訳がない。
「ちょっと言いがかりつけないでよ。私はよんじゅうい‥40kgくらいよ」
いやいや、41kgって半分以上言ってから訂正する意味ねぇだろう。
それとも1kgでも軽く見られたいのが乙女心ってやつなのか?
違う意味で軽く見られたらすごく怒るくせに‥ほんとに女の子ってのはややこしい生き物だ。
それにしても、計算が合わない。
俺体重が、65kgくらいで、彼女が41kg。
2人分の服や靴が3kg超だとして、あと6kg。
あっ、特製の浮き輪の重さか?
俺と彼女の2つ分ってことで各々3kg。
そんなことを考えていると、ワイヤーの巻取りが終わり、甲板にたどり着いた。
「はぁ、本当に勘弁してくれよ?って、、あれ?いない?」
見渡すと誰もいなかった。
あれ?
夢?
妄想?
‥‥なんて言っている場合じゃない。
時間は後五分。
俺は再度地図を開き目的地までのルートを確認した後、駆け出したタイミングでメッセージが入った。
スマホを確認して俺の心は絶望の底へ突き落とされることになる。
『配達依頼はMが達成しましたので締め切られました。速やかに配達物をchamp d'amourにお返し下さい。』
そう、俺は初めて依頼に失敗したのだった。




