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十七話


「はじめまして、私、水下まさき。宜しく。」


転校生が愛想の無さげな様子で挨拶すると、疎らに拍手が起こった。


こんな言い方したら冷たいのかもしれないが、拍手が疎らなのは期待ハズレだったのかもしれない。



まぁ、美少女が転校してくるなんてドラマか漫画の中でしか起こらない事だろうに。『女の子が転校してくる』なんて聞くと勝手に期待値が上がってしまうんだよな。



「じゃあ、橋本くん、ちょっといいかな?」

平野先生が手招きする。


ちっちゃい手をいっぱい振って、一生懸命な様子に妙に保護欲をそそられて頭をナデナデしてあけたくなるな。



結局、俺は空き教室から机を持ってくる羽目になった。しかも、せっかく空いていた俺の横のスペースが彼女に埋められてしまった。


わかりやすく言うと、俺の隣に水下さんが座ることになった。


「あっ、橋本くん。ありがとう。」

美咲さまがぎこちない笑みを浮かべている。



「いえいえ、みさ‥マサキ様。お気になさらないで下さい。」

どっからどう見ても美咲さまなので、思わず美咲さまと呼びそうになった。



それにしても、、偽名だよな?

学校に手を回したのか?

それとも配達の宛先情報の方が偽名なのだろうか?



「おいっ、シンヤ。もしかして、知り合いか?

それにしてもなんで敬語なんだ?」


トモヤが鋭い指摘をしてくるけど、、、



「いや、、、知り合いじゃない。だから、思わず敬語になってしまっただけだ。」

守秘義務もあるので、なんとか誤魔化すことに成功した。





1時間目が終わり。

水下まさきの周りには人が集まってきた。

まぁ、転校生なんて物珍しいのだろう。


学校というのは不思議なところだ。

異分子が入ってくると、途端にみんなが興味をもちだすのだ。


まるで、校庭に迷い込んだ野良犬みたいだな。


‥なんてありふれた感想を抱きながらも俺は聞き耳を立てていた。



「水下さん。それって、堀上学園の制服だよね。あそこって、芸能人がいっぱい居る学校だよね。だれか芸能人と喋ったりした?」



クラスで中心人物でもある女子が、美咲さまに真っ先に話しかけた。発言の順番もカースト順なのだろうか?


ちなみにこの女の子の名前は覚えていない。

しかし、彼女はスカートを短くしているせいで、足ならよく無意識に見てしまっている。




「‥‥‥」

しかし、話しかけられた美咲さまは微動だにしない。



まるでそこだけ時間が止まってしまったみたいだ。

美咲さまはある意味では魔法少女なのかもしれない。



「水下さん、聞いてる?」

ミニスカさんは苛立ち混じりの声色だ。

どちらかと言えば大人っぽい容姿なだけに、少し眉をしかめるとなんだか迫力があって、俺が睨まれているわけでもないのに気圧されそうになる。



「‥‥人は一般の人とクラスが別。ぴえん。」


対する美咲さまは『柳かよっ』ってくらい圧を受け流していた。しかし、さすがに無視はしていないようで、何言ってるのかわからないくらいのボリュームで答えを返していた。


それでも、ミニスカさんには聞こえたようで、軽く頷いている。



「前の学校では部活入ってた?」

今度は取り巻きの1人が質問する。



「‥‥」

しかし、美咲さまは微動だにしない。

ゼンマイでも巻き忘れたみたいだ。



「水下さん、聞いてる?」

取り巻きではなく、ミニスカさんがおこだ。



イライラしているのは女の子の日だからというわけでもないだろう。



「‥‥てない。ぴえん。」

少しして美咲さまがボソッと答えた。



「へぇ〜っ、でもこの学校では皆んな部活に入らなきゃいけないんだよ。何か入りたい部活がなかったら、演劇部に入らない?」

取り巻きさんが無理矢理演劇部に入れようとしているが、別に俺が助けに入る義理もない。



「‥‥」



「あっ、役者以外にも裏方とかあるから。大丈夫だよ」

更に取り巻きさんが畳み掛ける。



「かつど‥‥バイト、、部活は免除許可貰ってる。ぴえん」

かつ丼屋のバイトなのか?

賄い付きだろうからちょっと羨ましい。


しかし、さっきから聞いていると、美咲さまはかなり愛想が悪い。話しかけられている相手と目も合わせないし、俺にちょっかいをかけてくる人と同一人物とは思えないのだが。



まぁ、その前に『ぴえん』って、別に結び言葉じゃないからな。


最初は合ってたけどだんだん、おかしくなってきたんだが‥‥美咲さまって流行り言葉を使わないと死ぬ病にでもかかってんの?



「なんだ、部活免除って橋本と同じなの?もしかして、橋本と同じで水下さんも貧乏なの?」


ミニスカさんがそう言った途端、水下さんが手を振り上げ、目にも止まらぬ速度でミニスカさんの頰を叩く。


そして、教室内に乾いた音が響き渡らなかった。


よくよく見てみると寸止めしてあった。

武術の達人か?



「‥‥なによ?」

ミニスカさんは固く目を瞑ったが、どうやら安全だと分かった途端、強気に出た。


ミニスカさんは意外と弱い犬なのかも。

ほら、弱い犬ほどよく吠えるっていうからな。



「‥‥」

しかし、美咲さまの時は、また止まっていた。

こんなに時間停止能力を操れるとか、爆弾を作れば魔女すら倒せるかもしれない。



「私をバカにしてるわよね?」

ミニスカさんはバカにされたと思ったのか、益々苛立った様子だ。


「そんなこと言うのよくない。」

美咲さまは貧乏発言が気に障ったのだろうか?

だってあんなに高いパンケーキをポンポン頼むってことはお金持ちなのだろうし。



「なによ、優等生ぶって」

ミニスカさんは凄い顔で美咲さまを睨んでいる。


本当に一触即発の状態で、不可視のはずの火花が見えるぞ。いや、一応知り合いだし、庇うべきか?



「授業を始めるよ。あれ?なにもめてるの?」

しかし、そこで平野先生が教室に入ってきた。



「先生〜っ、水下さんが私をぶったの。」

言われて水下さんだけでなく、俺やトモヤもクビを横に振った。


完全にウソじゃねえか。


それを察したのか、平野先生は深いため息をつく。

こういう時は年相応の大人に見えるから不思議だ。



「はぁ〜っ、水下さん。放課後職員室に来てね。」

そして、気だるそうにそう言っただけで、さっさと授業の準備を始めた。



「あっ、橋本くん。水下さんに教科書見せてあげてね?お願い。」


そして、平野先生に言われて俺は固まった。

そういえば制服すら届いていなかったんだったよな。


美咲さまが縋るような目でこちらを見ている。

しょうがないか‥


「ほら、これ。」

俺は化学の教科書を差し出したが、美咲さまはそれを受け取らず、机をこちらに寄せてきた。


「これで大丈夫。ぴえん。」

併せて椅子も寄せてきたので、右肩は触れてしまっていて、全然大丈夫じゃない。


確か、美咲さまはパーソナルスペースは広かったように記憶しているが、、ダメだ。ビジネスモードに潜れない。


「あの、やっぱり迷惑でしたか?」

「そんなことはない。そんなに気をつかうことはないって。」

俺はぎこちなく微笑む。


「ありがとう。」

満面の笑みを浮かべた美咲さまはグルグル眼鏡のくせになんだか可愛くて、思わず赤面してしまった。



「そこの2人。私の授業を聞かず、イチャイチャしないの。」


「先生の目は節穴ですか?わた‥俺は公私混同なんてしませんよ。」


「はぁ?公私混同って、とにかく私の授業はまじめに聞いてください。でないと、テストを橋本くんだけ超難問にします。」


「いや、その発言。教師としてはどうかと思うけど、難しくされないように頑張りますよ。」


まぁ、平野先生は子供に見えても、わりと常識人だ。超難問が冗談だなんてさすがにわかっている。



「ったく。私は全然彼氏ができないっていうのに。」


合コンに行っているというウワサは聞いた事があるが、見た目小学生なのでモテないのだろう。もし、モテたら相手は立派な犯罪者予備軍『ロリコン』だろうしな。



俺と先生が醜い言い争いをしている間、美咲さまは『イチャイチャ?ぴえん』なんてブツブツ小さく呟いていた。


真っ赤な顔をしているところを見ると、彼女は相当怒っているのだろう。


それから、その日一日、俺は彼女と目を合わせることはできなかった。

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