二話
暫く書き溜めているので本日2回目投稿です。
説明回は今回のみです。
我慢して読んで頂けると幸いです。
ブーッ、ブーッ、ブーッ
唐突ににスマホが震えた。
俺はまるでパブロフの犬のように反射的にスマホを手にして画面を見つめる。
そして、、大きなため息をついた。
はぁ〜〜っ
また依頼者があの美咲さまだったのだ。
いや、そんな訳の分からないことをいきなり言われても分からないよな?
順を追って話そうと思う。
俺の名前は橋本シンヤ
‥‥あれ?
野郎の話なんか聞きたくないから凛花を紹介しろって?
‥違う?
弥生を紹介してくれって?
よくわかって喋っているのならいいが、見たところまだ若いのにこんな所で命を落とすつもりか?
‥‥本当にすまない。
興奮しすぎたみたいだ。
話を元に戻すことにする。
彼女いない歴は2ねん‥いや、ウソだ。
本当は彼女いない歴=年齢なのだ。
趣味は釣りだが、最近1番やっていることは別にある。バイトだ。
OBER EATSというものを知っているかいい?
近頃は有効求人倍率もバブル期並みに回復したとかで、人手不足が社会問題になっている。
ほら、あの黒猫屋さんの宅配の未払い問題とかもあって人手不足は有名な話だろ?
そして、食べ物のデリバリーもネットの通販が活発になってて配達員の確保が難しい状況なんだ。
その救世主‥と言えば大げさなのかもしれないけど、出てきたのがOBER EATSなんだ。
まぁ、やっていることはピザの配達とさほど変わらないけどね。
業態が違うんだよ。
ざっと仕組みを羅列してみるけど、イメージだけ掴めれば○だからね。
飲食店がOBERに登録する。
一般の人がOBERに登録する。
客がOBERという会社のサイトに載っている登録飲食店にデリバリーをしてくれるように依頼する。
OBERという取りまとめ会社が登録している一般人にデリバリーを依頼する。
登録した一般人が依頼された食べ物を客に届ける。
あと、報酬は週一回でお客さんと配達人の間に発生する現金の受け渡しがないのも特徴だ。
いわゆるキャッシュレス決済というやつだろう。
とりあえずOBER EATSの仕組みが分かったところで、話はもどすけど、俺は空き時間を利用してOBER EATSでお金を稼いでいる。
まぁ、お手軽そうに聞こえるかもしれないけど実はそうじゃない。
仕事というのは結局のところ、サービスを受ける相手が評価するものだからな。
一生懸命に頑張ったからって相手の評価が低かったら意味がないのだ。
わかりやすい例で言うと、食べ○グで評価1の店には入りたいとは思わないだろ?
そして、OBER EATSも星が1から5までの5段階評価を毎回お客様につけられることになっている。
そして、その評価の平均が自分のアプリのステータス欄に載っている。
ちなみに俺の平均評価は5だ。
『ゴミめ。』とか言わないでくれよ。
だって星5つは最高評価だからな。
通称【ファイブスター】の持ち主は全登録者のたったの0.4%だったりする。
実はファイブスターは只の栄誉ではない。
裏特典がいくつか付いているのだ。
1つめ、、配達時の給料が100円アップする。
‥‥説明ばっかりだと疲れるし、それ以外はおいおい説明していくことにするよ。
まぁ、俺が高評価を頂けるのにはちょっとした訳がある。
何しろ俺には【ヤバイ客しか回ってこない】のだ。だから遅れず、条件通りキチンとした対応で配達していれば星5つが貰えるんだよな。
これだけ聞くと、全然ヤバくないように聞こえるだろ?
しかし、【配達を条件通り達成する】こと自体がかなり難しい客たちだったりする。
そもそも、2回目の配達時に必要道具として貸してもらえたのが赤外線スコープだったし‥
配達自体もかなり難しいものだったよ。
それでも俺も必死だったから、ボロボロになりながら何とか達成する事が出来た。
配達完了した時は達成感に心が震えた。
それくらい最高な気分だったんだ。
しかしながら、今思えばあの時に俺の運命が決まってしまったのだろう。
それから俺の所には普通の依頼が一切回らないようになってしまったのだ。
先日、道端で同業者に会うまでそれに気づかなかったんだから俺も鈍感な部類なのだろう。
そう、同業さんは某有名ハンバーガーチェーンのハンバーガーを普通の家庭に届けた帰りだった。
しかも、報酬が俺とあまり変わらないと聞いた時、俺はそのまま気絶しそうになってしまった。
話は戻るが、ヤバイ客は4人も居る。俺は4人を【受取人四天王】略して、【四天王】と呼んでいるが、四天王の内の1人が美咲さまなのだ。
俺は依頼を【受諾する】欄をタップした。
受けてしまった以上取り消しはできない。
ファイブスターを維持するにはやっぱり達成するしかないよな。
俺は着替えて自転車に乗り、champ d'amourに向かうこととした。
champ d'amourの配達は最近かなり多い。パンケーキ1つで2000円をこえるものもザラにあるのになんでこんなに人気があるのだろうか?
正直、2000円あれば米、10kgは買えるんだよな。
まぁ、俺がchamp d'amourに対して不満なのはそこじゃない。
「こんにちは〜、OBERから来ました橋本です。今日は宜しくお願いします。商品は出来てますか?」
自転車で3分程でchamp d'amourに着いたので、勝手口から、オーナーパティシエに声をかけた。
「あら、やだ。シンヤちゃんじゃないの?また私に会いたくて宅配に来てくれたのかしら?」
「瀬川さん。笑えない冗談言っているヒマがあったらカラダ動かしたらどうですか?」
「身体を動かせだなんて、、シンヤちゃんのエッチ〜ッ」
セ、セクハラ‥
もちろんされているのは俺だ。
瀬川さんは、ムキムキな体のオネエなのだ。
毎回こうやって俺の言葉の揚げ足を取って、下ネタに持ち込んでからかわれている。
それにしても、ここでの時間のロスは痛いのだが、この店のパンケーキには実は俺にもご褒美が用意されている。
そう、今回もパンケーキのソースが別についているのだ!!!
あれ?
何が言いたいか全然わからないって?
【家に帰るまでが遠足です。】なんて言う格言があるように、、【ソースをかけるまでが配達】となるのだ。
つまり、ソースをかけるだけで追加収入〜ぅ、ゲットだぜぇ〜っ。
すまない‥‥少し浮かれてすぎたが、つまりソースをかけるだけで150円も配達代に加算されるのだ。
あっ、そう言えば会社から送られてくる依頼書に目を通すのを忘れていたな。
前回はマイクロSDをスマホに入れないと依頼が見られなかったが、今回は便箋を瀬川さんに渡された。
焦る気持ちを抑え、封を丁寧に破ると、手紙を取り出す。
『シンヤ君へ
いきなりの手紙でびっくりしたかな?
シンヤ君とは小学四年のクラス替えの時に初めて会って、それからいろいろなことがあったよね?
私がツライ時、夕日が滲む屋上で、私にかけてくれた言葉、今でも胸の中の、大事な、大事な宝物だよ。
あっ、言いたいのはそれじゃなかったよぉっ。直接顔を合わせて言うのはなんだか照れくさいから、私の気持ちを手紙にするね。
私はシンヤ君が世界で一番大好きです。
これまでも。そして、これからも。
はぅ〜っ、だめっ。
言葉だけじゃ伝えきれないよ。
私の抑えきれないこの気持ち、シンヤ君へ届くといいな』
からはじまる、丸っこく可愛い文字はまるでラブレターのようで、OBER社員の悪ふざけ全開の性格が良くわかる。
俺は手紙をビリビリに破りたい衝動に駆られるが、まだ肝心の依頼の詳細を読んでいない事に気付いた。
また、スキーニングミッションか?
依頼内容は、武道館のとある控え室へ、潜入して依頼人にイチゴのパンケーキを届けるというものだ。
今回は建物内部の地図までつけてくれていた。
ここまでお膳立てしてくれたらやるしかない。
俺が依頼用紙を読み終わると、文字は消えて、用紙も透明色にかわった。
こういう無駄な所に最先端のテクノロジーを使うところがやっぱりOBERらしいな。
はっきり言ってバカと変態の集まりだ。
俺は急いで武道館に向かうため、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。