十三話
片付け中に俺は焦りを感じていた。
「ねぇねぇ、橋本さんは恋人とかいるんですか?」
美咲さまは軽い口調でそう尋ねてくるが、そんな事を話している場合ではない。
どうしても指名料について聞く必要がある。
本当は最初から聞くつもりだったが、完全に美咲さまのペースに巻き込まれてしまっていた。
「その前に聞きたいことがあるのですが。俺の指名料はおいくらなんでしょうか?」
俺の言葉にビクンと反応した美咲さまは完全にクロだ。分かり易すぎる。
「えっと、、キュ‥‥何のことかぜーんぜんわからないよ。」
相変わらず目が泳ぎまくっていて、下手過ぎる言い訳をはじめた。
「そうですか。それなら美咲さまの依頼は金輪際受けませんが、それで宜しいでしょうか?」
「あの、、、ごめんなさい。話せないの。」
「それじゃあ、金輪際美咲さまの依頼は受けません」
俺は強硬な態度に出ることにした。
彼女は絶対何かを隠している。
「ちょ、ちょっと待って。本当にダメなんだ。」
美咲さまは焦ったように弁解するけど、、、なぜ?
「それってどういう‥‥‥あっ、失礼、電話を取らせていただきます。」
問い詰めようとしたところで、電話が入った。
OBERの俺の担当、野上からの電話だった。
タイミングが良すぎる。
俺は大きく息を吸い込んで、吐き出した。
本当はお客様の前でそんな態度をするべきではないことはわかっていたが、俺も動揺していたのだ。
そして、電話をとる。
「‥‥余計な詮索はするな。」
変声器で声を変えられているが、着信番号で相手は分かっている。悪ふざけが大好きなあの会社の社員のやりそうなことで、少しばかりウンザリしてしまう。
「あの?何処かに、、いや、その前にここまでバレてて隠す意味があるんですか?」
まさか、盗聴器が仕掛けられているのか?
しかし、俺はOBERの人間と実際にはあったことがないし、配布された仕事用バッグも洗濯しているので考えづらい。
それに、もう遅い。
後は美咲さまを落とせばチェックメイトだ。
運営の言うことなんて聞く必要がないな。
「これ以上の詮索はペナルティで降格になるがいいのか?」
しかし、電話口でそう言われただけで、俺は心臓を握られたように萎縮してしまう。
「いやですねぇ。詮索なんてするつもり全然ありませんよ。」
だってファイブスターの座から転がり落ちるのは嫌だからな。
そして、そのまま電話を切った。
「取り乱して大変失礼致しました。」
俺は頭を下げて謝罪する。
「いいえ、気にしないでね。あの、また、配達頼んでも良いかな?」
美咲さまは上目遣いでそんな事を言うが、俺は軽く首肯したのみで、いつもの決め台詞をいうこともなく美咲さまの部屋を去るのだった。
俺は家に戻ってカバンを下ろした。
「どうしたの?この世の終わりみたいな顔をして。」
すると、ソファーでファッション雑誌を読んでいた弥生が顔を上げた。
「いや。兄ちゃん、バイトやめよっかな?」
思わず口から言葉が飛び出してきた。
「そういうウジウジしたの気持ち悪いんだけど‥」
こういう時、弥生は慰めてくれない。
はずなのだが、後から考えると俺がよっぽど落ち込んでいたのだろう。
「大丈夫。大丈夫だよ」
弥生は俺を抱きしめて耳元で優しい声で呟く。
それはかつて、弥生と仲が良かった時にしてくれたことで、なんだか泣きそうになってしまった。
しばらくそうしていたが、弥生はスッと離れたと思ったら、そのまま冷蔵庫に向かう。
全く俺の方に顔を向けてくれないが、それは別に怒っているのではなく照れ臭いのだろう。
「いや、冗談だからな。」
俺もなんだか照れくさくなり、強がりでそう返すのが精一杯だった。
「そう、全然面白くないね。私は部屋で勉強してくる。」
弥生はそう言って部屋に篭ってしまった。
俺はため息を堪えて寝転がる。
弥生に気をつかわせてしまったよな?
なんだか情けなくなって鬱モードに突入したところで、電話がかかってきた。
「おいっ、なんか辛気臭い雰囲気してるな。良いところ連れて行ってやるよ。」
トモヤがいきなり電話してきて、週末の予定を勝手に埋められてしまったが、俺は彼のこういう強引な所は嫌いではなかった。
だって、色んなことで雁字搦めの俺は人に対してこんなに強くはデレはしない。
間違えた、出れはしないからな。




