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十二話 〜S-side〜

SはシンヤのSです。


「ミサキ様。お待たせいたしました。今日はchamp d'amourシャンダムールのマンゴーのパンケーキをお持ちしました。」


俺は平静を装っていつもの営業スマイルを浮かべる。



俺が動揺したのにはちゃんと、理由がある。

いつもは彼女の職場への配達だったのが。今回の配達は美咲さまの借りているマンションへの一室だったのだ。





今回はオートロックのマンションだったので簡単に侵入できるものではなかった。


しかし、隣のオートロックなしのマンションの屋上から6m位の距離だったので、飛び移ることでいつもより簡単に配達場所までたどり着けた。


もちろん、6mをジャンプした訳じゃない。


鉤縄をビルの鉄柵に引っ掛けて楽々侵入できたが、、やってる事は泥棒みたいな気がして、ちょっと落ち込む羽目になった。




「橋本さん、いつもありがとう。」

相変わらずグルグル眼鏡をかけた美咲さまは、今日も上下エンジ色のジャージを着ていた。


これは仕事服、いわゆる戦闘服だと思っていたがまさかの普段着だったのか。



普段着で仕事とか仕事を舐めているとしか思えない。



しかし、気になったのはそこではない。


妹以外の女の子の部屋に入るのは久しぶりだが、なんだか女の子特有のいい匂いがする。


チラッと部屋の様子を見ると、ベッドの周りに猫のヌイグルミがズラーッと並んでいた。



その猫が小さい順に綺麗に並んでいるところをみると、彼女はかなりの几帳面なのかもしれない。




「いえっ、お仕事ですから。美咲さまもお仕事頑張ってライブを成功させてましたね。私はこの仕事しかしたことはないのですが、美咲さまの仕事ってやっぱりやり甲斐がある仕事なんですか?」


まずはアイスブレイクだ。


こういうスキルもファイブスターを続けていくのには必要なのだ。


まぁ、美咲さまは仕事での悩みが多いので、この質問は諸刃の剣なのだけど。




「うん、ファンの皆さんが喜んでくれますし。ところで、ライブ後になぜ控え室に来てくれなかったんですか?」

最近仕事の方は調子がいいらしく、仕事の話自体は全然問題なかった。


しかし、俺は知らぬ間に地雷を踏んでしまったらしい。



あれ?

チケットをくれた時『控え室に寄るように』なんて言ってたか?言ってないよな?



「ちょっと待って下さい。ライブ後だとレイヤードの皆さんが居るし、そんな所まで一般客が入れないと思いますよ。」

結局、俺は正論で反論したが、



「ちゃんと警備の人に話を通してたのに。」

美咲さまは口を尖らせてしまう。



マズイ、お客様のご機嫌を損ねてしまった。

もうリカバリーは難しいか?


いや待て、この程度のピンチは何度も乗り越えてきただろ?



しかし、俺はトークが上手い訳ではない。

だから正直に言うといい手が思い浮かばない。



「そりゃあ、勿体無いことをしました。結衣ちゃんに会えたかもしれないのに。」

俺は弥生の好きな結衣ちゃんの話でトークを繋ぎながらも悔しそうに下唇を噛んだ。


本当に挽回の一手が思い浮かばない。

とにかく話を繋ぎながら打開策を考えるしかないか。



「ゆ、、、結衣ちゃん、、が好きなんですか?」

しかし、美咲さまが興味を示した。

助かった。苦し紛れだったが、レイヤードのメンバーの名前を出したのは正解だったようだ。



「ああっ、もし出会えたら、俺を見直して毎朝起こしてくれるかもしれなかったのに。」

そう、俺のお陰で結衣ちゃんに楽屋なんかで会えたら、弥生は俺を尊敬してくれるだろう。


そして、弥生が目覚まし時計の代わりに毎朝俺を起こしてくれるかもしれないのに。




「えっ、あっ、そうなんですか?あっ、パンケーキ美味しい。」

美咲さまはまた脱線して話題を変えてしまった。

まぁ、また、訳の分からない使い方の『キュンです』をいきなり会話にブッ込まれるよりはマシか?



「えっと‥‥結衣ちゃんのサイン‥‥申し訳ございません。今のは忘れて下さい。」

弥生のご機嫌をとることばかり考えていてはダメだ。

今は失った信頼を挽回しないと。



「フフフッ、橋本さんって本当に仕事に対しては真面目ですよね。そういうところ、私は好きです。」

美咲さまが何か言っているが、俺はまた注意を他所に向けてしまった。



タンスの1番下。

完全に引き出しが開いていて、中の下着が丸見えだ。パステルカラーの桃源郷がそこにはあった。



「‥あの、、、タンスの1番下、、、開けっ放しなのですが、、、」

俺は顔がにやけないように神妙な顔をする。



「あっ、嘘っ‥‥。」

美咲さまは顔が真っ赤になってしまった。



「紫‥‥意外と派手な色も「違うんです。誕生日プレゼントに葵ちゃんから貰った‥‥えっと、、あの‥‥‥その‥‥‥何見てるんですか?」


美咲さまは1オクターブくらい低い声で俺を威圧してくる。窮鼠猫を噛むってやつだろうか?


「なんだ、着けたことないんですか?困りますよね?こういう使えないもの送られても。」

そうだよな。こんな地味な人がつける下着ではないよな。


それにしても、なんで下着の色なんて口走ってしまったんだ。リカバリーどころかどんどん状況は悪くなっているのだが。



「あの、、、その、、、」

美咲さまがひいてしまったのか、口ごもる。


「いえ、忘れてください。」

俺はもう笑うより他の術がうかばなかった。


「えーっと、オフの日は着けたりするかな。」

‥‥へっ?

この人、なに言ってんの?


「えっと、、、何をですか?」

俺は思わず問いかけた。



「だからコレをですよ。」

美咲さまはタンスから紫のショーツとブラのセットを取り出して説明してくる。



それも、ちゃんと着けるべき位置に下着を当ててだ。


もしかして、着けているところを想像しろってことなのか?



おいおいっ、痴女か?

痴女なのか?



「あぁっ、すみませんでした。それでは片付けさせていただきます。」

人生初の痴女との遭遇で思わず興奮したが、そう言えば仕事中だし、ここで発情なんてしたら完全に犯罪案件なんだよな。俺は少し取り乱しながらも片付けを開始した。


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