十話
「あの‥‥やっぱり今日だけ‥‥お弁当受け取ってくれないかな?」
3時間目の終わりに凛花が教室まで来た。
「凛花、、その話はもう終わったはずだけど。」
食べ物なんて貰ったら俺が貧乏だってクラスメイトに宣伝して回っているようなものだろう。
「シンヤ。女子が弁当作って来てくれたんだったら笑って受け取ってあげなきゃいけないだろ?」
トモヤが白い歯を見せてニヤリと笑う。
それが様になるからちょっとムカつくんだが、コイツは俺に対しては嘘は言わないし、遠慮もしない。
つまり、善意100パーセントの言葉なのだろう。
実は親友兼クラスメイトのトモヤは相当なイケメンで、相当モテる。ホントに羨ましい限りだ。
ただ、なぜか彼女を作ったことはないらしい。
いや、まぁ、理由はわかっているけどな。
トモヤはアイドルにしか興味が無いし。
「トモヤ、お前、知ってて言ってるんだろ?」
そう、トモヤも凛花と同じく昔からの知り合いだ。
だから、ウチの事情も知っている。
それでも哀れんだり、蔑んだりせず普通に接してくれるからこいつはいい奴なんだろう。
「当たり前だ。シンヤは変なプライドは捨てて女の子を立ててあげろって言ってるんだよ。俺なんて仔猫ちゃん達には常に真摯だぜ。」
小指を立てるな!
イケメンが台無しだ。
「いや、お前、嫁が居るだろ?他の女の子に愛想を振りまいても良いものなのか?」
「そうだな。ただ、彼女はあれだコミュし‥‥大人しいから握手会でもあまり会話ができないんだよな」
トモヤは嫁、というかアイドルの追っかけをしている。
そう、グループ名を聞いていなかったのでまさかレイヤードだと知ったのが昨日だった。
悪いことをしたな。
あんな真ん前の席ならトモヤも喜んで俺に昼飯1週間分くらいは奢ってくれたろうな。
はぁ〜っ、勿体無いことをした。
「トモヤの話を聞く限り、俺のコミュ力だとミサミサの握手会いってもまともに会話できる気がしないな。」
凛花は昔から知ってる上にコミュ力が高いし、弥生は妹だからいいのだが、そんなに異性と話すのは得意じゃない。まぁ、ビジネスモードに入れば別だが。
「大丈夫だ。ミサミサと握手会で会話が弾んでいるやつなんてみたことがない。」
トモヤは自信満々にそう言うが、、
「うわぁ〜っ、そんな握手会行きたくねぇ。」
そんな握手会、単なる拷問にしか思えないのだが。
「それどころか笑顔さえ振りまいてくれない。」
なにそれ?
ウワサの塩対応とかいうやつなのか?
ミサミサのファンってドMだけかよ?
あれ?その論理でいくと、トモヤもドMなのか?
「余計に行きたくない。というか、トモヤもそんな状態で、なんでファンやってるんだよ?」
会いに行けるアイドルが売りじゃないのか?
余計なお世話かもしれないが、もうちょっとファンサービスしてあげてもいいんじゃないのだろうか。
「圧巻のパフォーマンス。‥‥ダメダメな握手会。いわゆるギャップ萌え。わかるだろ?」
トモヤはドヤ顔を浮かべるが、『わかるだろ?』なんて言われてもわかるわけがねぇ。
ただ、もしかしてワザとそういうキャラ付けして売り出しているのかもしれない。
それで売れてるんだから秋山Pは只のヒゲ面親父じゃなかったんだろうな。
「あっ、ごめん、私戻るね。」
あっ、話に夢中で凛花の存在を忘れていたのに今更気づいてしまった。
よく周りを見渡すと、俺たちの盛り上がりのせいで、他のクラスメイト注目されてしまっていた。
凛花は我に返って赤面すると、逃げるように教室を出て行こうとする。
「ちょっと待て。それは置いていけ。」
俺は慌てて凛花の肩をつかんだが、なんだか追い剥ぎみたいなセリフだ。
「あっ、、、ありがとう。」
凛花は一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、その後満面の笑みを浮かべて教室を出て行った。
「ほらな?自分の矜恃なんかより、女の子の笑顔のほうが正義だぜ。ほら、女の子を笑顔にできたんだ、笑えよ」
トモヤの顔はやはりドヤ顔だったので、何だか腹が立ってスネに蹴りを入れておいた。




