八話
「それで、今度は何が原因でケンカしてたのかな?」
凛花は座って俺が淹れたジャスミン茶を飲みながら、俺を真っ直ぐに見つめる。
ちなみに俺はジャスミン茶は嫌いだ。
だってなんだかトイレの香りがするから。
「いや、まるで俺がケンカの原因みたいじゃないか?勘違いしてくれるなよ。弥生は仕事の厳しさも、プロ意識の大切さもわかってはいない。それなのに俺の仕事にケチをつけちゃダメだろ?」
俺は身振り手振りで凛花へ俺の思いを伝えたが、
「シンシンの言いたいことは分かるけど、シンシンのバイトってそんなに大変なの?」
残念ながら凛花は首を傾げた。
確かにその仕草はカワイイに彩られていた。
しかし、俺はショックだった。
まさか、凛花まで俺が楽して稼いでいると思ってたのか?
「いや。金貰えるんだから大変なのは当たり前だろ?全力を尽くすのは当たり前。その上で最短ルートで仕事を進め、並行して常に5手先を考えておく。そして、お客様への敬意は忘れず、限られた資源を最大限に活用して仕事を達成する。そして、心は常に冷静に、俯瞰して自分を見ながらも、達成できなければ死ぬ覚悟で依頼に臨む。そういうのがアルバイトというものだろ?」
俺のアルバイト観を熱く語ったのだが、凛花は打っても響かなかった。
「‥‥シンシンの語るアルバイトは私の知っているアルバイトとはかけ離れてるんだけど、、、それって本当にアルバイトなの?」
あれ?
バイトをしている凛花なら、俺の気持ちは分かってもらえると思ったのだが、どうやら凛花のやっているバイトと俺の仕事では内容に大きな乖離があるらしい。
「あぁっ、まぁ、厳密に言うとバイトというより請負とか委託に近いけど、、、そんなに違うのか?」
「あの、、、たぶん、私のバイトしてるカフェの社員さんですらそこまで考えて仕事している人はほとんどいないんじゃないかな?」
凛花の眉尻が下がっている。
相当、言葉を選んで話しているらしいことは何となくだけど分かる。
それが凛花の優しさなのだろう‥‥なぜこんなにも話しが通じないのか?
でもよく考えたら、カフェなんてリア充オーラ振りまいて、フラペチーノでも作っていればバイトとして成立するのかもしれない。
ちなみに俺はフラペチーノが何かは知らないのだが‥
「そ、そういうものか?でもそれじゃ、仕事に誇りを持てないんじゃないのか?」
少なくとも俺は仕事に誇りを持っているし、ファイブスターから落ちる気もさらさらない。
「シンシンのバイト、やっぱりおかしいよ。ねぇ、一緒にカフェバイトしようよ。」
凛花はそう言って右手を差し出してくれた。
‥‥これ、握手すると契約成立とかそんな意味なのだろうか?リア充独特のルールだったらどうしよう?
「いや、カフェはいいよ。」
そう、リア充はニンジンの次に苦手だ。
「じゃあ、沙耶が行ってるファミレスで一緒にバイトしよっか?」
どうやら凛花も一緒に来てくれるらしい。
どんだけ過保護なんだよ。
ちなみに沙耶は凛花の親友だ。
目つきが結構キツくて、俺は近寄りがたいのだが、凛花の話を聞く限りでは、普通の優しい女の子なのだろう。
まぁ、学校一の美少女である氷結姫のような極端にヤバイ性格の女の子がそんなに沢山いても困るよな。
それにしても、本当に凛花って世話好きだよな。
弁当を忘れた時に凛花がわざわざ走って持ってきてくれてクラスメイトに茶化されたこととかあったもんなあ。
「いや、子どもじゃないんだから、そこまで心配してくれなくていいって。」
それに、凛花と一緒にバイトしたら、『2人はどういう関係なの?』『彼女ってどんな男が好みなのかな?』とか色々聞かれて辟易する未来が見える。
『どういう関係』って俺が聞きたいんだけどな。
只の幼馴染にしては、ここのところ、ちょっと世話を焼きすぎだろう。
「そうだよ、こんな若いうちからお兄を甘やかしてたら後々大変なんだから。」
弥生の言葉で思い出したが、こんな事話してる場合じゃなかったな。今日は凛花が弥生の勉強を見にきてくれたんだった。
「いや、本当に悪かった。早く勉強を始めてくれ。
俺はジャスミン茶を入れなおしてくる」
俺は逃げるように台所へ向かった。
しばらく、居間で1人で勉強しているが、時折となりの部屋から2人の笑い声が聞こえる。
本当に仲が良いんだな。
弥生にとっては本当に凛花がお姉ちゃんだったら良かったのかもしれないな。
「‥‥シン‥‥て‥‥ないと‥‥ペに‥スしちゃう‥‥ね。」
ん?誰かが耳元で話しかけてくる。
心地よい囁きで、まるで夢のよう。
あっ、、、ゆ、、め、、?
俺の意識は混濁しており、本当に夢か判別できないし、カラダは疲労で金縛りにあってしまったかのように動かなかった。
そして、俺の意識はそのまま闇に溶けた。
あれ?寝てたみたいだな。
「んんっ。あっ、悪い、寝てたよ。」
「もうっ、無理しないでよね。仕事行ったり、私たちとライブ行ったり、疲れが溜まってるんだよ。」
何故だか、頭を撫でられてヨシヨシされながら
慰められていた。ちょっと珍しいけど気恥しい。
「いや、タダで弥生の勉強教えてもらってるし、せめておもてなしくらいは。」
俺は起き上がろうとして、次の凛花のセリフで頭が真っ白になってしまった。
「シンシン、誰がタダなんて言ったのかな?」
ドクンドクンドクンドクンと、心臓が信じられない位、胸を強く、早く叩く。
俺は一体‥‥いつから‥‥‥
タダで勉強をみてくれるなんて錯覚していた???
「って冗談だよ。あっ、でもシンシンの出世払いに期待してるからね。」
俺に気を使わせないように、少し茶化したところもきっと凛花の優しさなのだろう。
まぁ、普段あまり冗談を言わないやつの冗談は本当に心臓に悪い。本人にその自覚がないので怒ることも出来ないしな。ホント、タチが悪いよな。
その後、パシャっと凛花が写真を撮った事だけは覚えているのだが‥‥‥結局、俺はそのまま床で寝てしまった。
「シンシン起きて、でないとほっぺにキスしちゃうからね。」
と凛花は言っています。
字面だけ見ると、ちょっとなんとも言えない文だったので後書きに補足しておきます。
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