想定外 by 哲矢。
楓花ちゃんと付き合うことになった。
正直、紹介というのは期待していなかった。同性の言う「可愛い」は基本的にアテにならない。同性への思いやりのせいか、たいていの場合割り増しで表現されている。『可愛い=中の中』『まあまあ=中の下より下』が常識だと心得て間違いない。だから我慢できる程度のルックスの相手なら、暇潰しとセックスの相手になればいいと思っていた。開業予定の歯科医だといえば、その程度の付き合いは余裕だ。今までも白川に紹介してもらってきた女とは、そこそこ付き合って、カドが立たないタイミングで「どうも違うみたいだから。」と言ってはそうしてきた。今回もそのつもりでいた。しかし、今回のは反則だろ。本当に可愛くて、いきなり惚れちまった。
俺の周りは恋愛と結婚は別という考えの人間が多い。結婚はしても別に女がいる奴も腐るほどいる。実際、白川も浮気ばかりしている。大半の場合、バレてエリちゃんに平謝りしては許してもらっている。それでエリちゃんが愛想を尽かさないのが不思議なくらいだ。
俺はそれを見ているから、二股ということはしないかわりに、そこそこに付き合って飽きたら別れるのが俺のやり方。
そのはずが。やたら可愛い上にキャピキャピしてないから、すっかりアガッちまって、お得意のトークが引っ込んじまった。
いつもなら俺も簡単に口説くし、相手がやたら乗り気でキャピキャピと自己PRをしてくるのでとんとん拍子にホテルに連れ込める。そういう女はアタマも股も緩いから、「やっとめぐり合えた」とでも言えば簡単に裸になるからな。しかも既成事実が目当てか、避妊しなくていいとまで言い出す女が大半。そこで「(自分を)大事にしたいから」と避妊すると大事にされていると勘違いして感動しやがるし。デキちまうと何かと厄介だから避妊してるだけだっつーの。
即日にホテルなんて当たり前の俺が、前回は手にも触れず、二回目でキスだけなんて遅いほうだぞ。想定外の相手に度肝を抜かれたとしか言いようがない。それに安っぽくグイグイと来ない、どこか素っ気無い彼女の対応。これが振り向かせてみたいという闘争心をあおったというのも本音だ。
食事にしても、本当は女にご馳走されるのは好きではないが、男が金を出して当然という女が大半の中、「出させてください」と申し出てくれたことが実に新鮮だった。いつもなら、食事などの金は全部俺が出して、俺が相手を「ご馳走」になる。
楓花ちゃんを今日にでも自分のものにしたい気持ちはあったけど、いきなり彼女を裸にしてしまうことに抵抗を感じた。なんというか、こう、大事にしまっておきたいような。そんな気持ちになったのは、実に何年ぶりだろうか。