「もう彼女だと思ってもいい?」
ショッピングモールにいる間にお茶をご馳走しようと思ったけど、タイミングがつかめなくて、夕食をご馳走することにした。原田君はしぶっていたけどね。ただ、この周辺のことがさっぱりわからないから、お店のセレクトは原田君にお任せしたところ、カジュアルなカレー専門店に決定。お値段が手頃だったのは、原田君の気遣いだろう。
そしていつの間にか帰りそびれて、というよりはなんとなく帰るのが名残惜しくて、まだ一緒にいる。
今は夜景が一望できる高台にある公園に来ている。何組かのカップルが肩を寄せあったり、肩を組んで歩く中を、私達もビミョーな距離感で歩いている。
「綺麗…。」
一番眺めの良い場所で立ち止まると思わず言葉が出た。
「遅くまでごめんね。ここに連れてきたかったから。門限は大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
私が言うと、原田君はふわりと私の肩を抱き寄せて、反対側の手で私の手を握った。
…え?
びっくりして見上げた瞬間に、唇が触れた。
優しくて温かい唇にふんわりとした気持ちになる。
唇が離れてから、原田君が私を優しく抱き締めたとき、優しい声が降ってきた。
「もう、彼女だと思っていい?」
「はい。」
少しだけ迷って返事をする。
「良かった。こんなに可愛い娘を紹介してもらえると思ってなかったから。」
そう言うと、原田君がもう一度、抱き締めた。さっきよりもしっかりと。温かい胸が心地よい。
今の私は、この沈黙がお得意の原田君のことを好きかどうかわからないことも、この人の胸に身を委ねてみたいというのも本音。
迷いというほろ苦い気持ちを胸の中で噛み締めていると、また甘いキスが落とされる。
甘いキスが、ほろ苦い気持ちをやんわりと溶かしていく。
もうしばらく、一緒にいてみようかな。