この人はどう思っているの?
お食事をする店までの移動中、一応は並んで歩いているけど、ずっと無言。沈黙ってこんなに気まずいモノなのね。
案内されたのは、洋風居酒屋のようなカジュアルなイタリアンのお店。
「お酒を飲みたかったら、どうぞ。」
メニューに目を通しているときにそう言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらうことにした。飲まないとやってらんないわよ。沈黙ばかりだもの。エリたちには申し訳ないけど、これはゴメンナサイだわ。とっとと食って帰ろうぞ。
悪い人じゃなさそうだけどね。この人も早く帰りたいに違いない。
食事は原田君のオススメの軽いコースをオーダーしてもらって、なんともインスタ映えしそうなお料理たちを無言で頬張る。味なんてわからないわよ。リラックスしていたら、きっと美味しいに違いないお料理たち。
「連絡先を交換してください。」
コースも終盤、デザートが運ばれてきたところへ原田君に言われてQRコードの画面をさしだす。カタチだけの交換ってヤツよね。丁寧な社交辞令だこと。
食事をご馳走になった後、車で送ってくれるということになり、コインパーキングから出てきた車はなんと、BMW。確か、外車よね。エンブレムに見覚えがあるから、車に疎い私でもわかった。暗くて判別できないけど、ボディカラーは黒か紺ね。年齢の割に落ち着いたイメージの原田さんにとてもしっくりきている。
まだ家を知られたくないから、家の近くのコンビニで降ろしてもらうことにして、コンビニの店名を告げるとナビをセットし、車を走らせる。
「どうかしましたか?」
話すこともないから、助手席で内装をキョロキョロと観察していると原田君が口を開いた。コンビニの店名を告げてからずっと30分ほど無言よ。信じられる?
「あ。いえ。外車の内装ってオシャレだなーって思って。」
「そうですか。」
そしてまた沈黙。どんだけ沈黙が好きなワケ?
「ご馳走様でした。それと、送ってもらってありがとうございました。」
沈黙のまま、家のすぐ近くのコンビニで車の外に出てお辞儀をすると、原田君はペコリと頭を下げてから走り去っていった。
沈黙に疲れたまま、とぼとぼと家に向かって歩いているとLINEが入った。ああ。きっとエリだわ。エリには悪いけど、次はないことだけは伝えておこう。
『今日は楽しかったです。次の日曜日にまた会えませんか?』
画面を見ると、原田君からだった。社交辞令でそこまでしてくれなくても良くってよ。よほど律儀なタイプなのかしら。ほとんど話してないのに楽しかったとか、また会えませんか?、とかあり得なくない?
とりあえず、既読にならないようにして保留。まずはエリに連絡を取りたいわ。
んー。電話だと、デートの邪魔しちゃいそうだからLINEしておこうっと。
『今日はありがとう。遅くなってもいいから電話ください。』
送信するが早いか既読がついて、電話がかかってきた。