キスはしたけど…。
次の週末になり、今日も原田君と過ごしていた。今日はお買い物やランチのあと、原田君の部屋にいる。独り暮らしではなく、ご家族も一緒に住んでいる家。玄関で軽く挨拶だけして、そのまま部屋に通された。
小さなテーブルを挟んで向かい合って座って、コンビニで買ってきたスイーツやポテトチップスをつまむ。他愛ない話も弾んで…と言いたいところだが、かなり静か。そう。以前よりはマシとはいえ、かなりの沈黙度なの。
さて、何を話そうかと、スマホで検索する。行きたい場所?食べたいもの?服でも見に行く?ここから比較的近い場所はどこかな~っと。あ。テーマパーク関係もイイな~。
「さっきからスマホばっかり触ってるね。」
スマホをスクロールしていた手を取られ、腕の中にすっぽりと包まれ、反対側の手のスマホは取り上げられて、テーブルに置かれた。
「何をそんなに見てるワケ?」
そう言うと、唇をふさがれ、そのまま体を横にされた。反射的に目を閉じ、そのまま唇を重ねていると、舌が唇をなぞった。目を開けると原田君が見つめている。
見つめたまま、手は体の輪郭をなぞっている。これって、エッチの前兆…?い、イヤよ。逃げないと。
「キャー!助けて!犯される~!」
大きな声で言ったら原田君はポカンとして見事に固まっている。うまく意表をつくことができたスキにするりと抜け出して部屋の隅に避難した。
…だって、怖いんだもん。裸を見られるのもイヤだし、そんなコトを、その、つまり、レディースコミックみたいなコトをするなんて想像つかないんだもん。どうしよう?こないだもコレが原因でフラれたんだけど、キスより先のコトをする覚悟がないんだもん。
「ワハハハハ!そういうリアクションされたの初めて!」
部屋の隅で固まっていると原田君が笑いだした。
恐る恐る振り返ると、いつの間にか原田君が真後ろに来ていて、同じ目の高さで座っていた。
「ご、ごめんなさい。あの、その…。」
「そういうこと、まだだったの?」
頷くと涙が滲んできた。
「胸、小さいしから恥ずかしい。見られたくない。」
「大丈夫だよ。そんなこと、こだわってないよ。」
「まだ、怖いだもん。」
「大丈夫だよ。」
原田君は優しく言って抱き締める。でも指先がまた体の輪郭をなぞり始めた。どうしよう?言った方が良いのかしら?元カレの話をするのもどうかと思うけど。言った方が良いかもしれない。
「前の彼にイヤだって言ってるのに無理やり服を脱がされて、やめてよ!って怒ったら、フラれたの。」
話したら涙が溢れた。悲しかった。イヤなことをされた上にフラれたんだから。
今の私には、胸のコンプレックスの他に恐怖心ができてしまっている。そういうコト無しでは付き合えない年齢なんだろうけど、私としては、そのこともあって、まだまだ抵抗がある。
「わかった。嫌がっているときに迫ったりしない。本当はすぐにでも抱きたいところだけどね。」
「…ごめんなさい。」
原田君は大事に抱き締めてくれた。背中をポンポンとたたく手が優しい。
嫌われなくない。心からそう思った。