強がり。
『歯医者くんと会ったんでしょ?どうだった?』
家に帰って、お風呂を済ませて自室でのんびりしていると幼馴染でもある親友の愛梨からLINEが入った。前回の失恋のことがあるから、愛梨はかなり心配している。
『少し付き合ってみることにした。』
そう返信すると、いきなり電話がかかってきた。聞きたくてたまらない様子。
「も…。」
「どう?どうだったの?」
もしもし、と言い出すと同時に愛梨が興奮した声を出す。
「ど、どうって…。水族館に行って、ゴハン食べたりドライブしたりして、えーと…。」
「ちょ、ちょっと、ゆっくり聞かせて!ファミレス行くわよ。今から迎えに行くから!」
いきなりの通話終了。愛梨はこういうとき、やたらとフットワークが軽い。まあ、愛梨ならいつでも何でも話せる相手だからいいんだけどね。
『玄関の前に着いたよ~。』
モソモソと着替えているとLINEが入った。いくら家が近いといっても早すぎ!車道じゃなくて、公園やよその家の庭でも突っ切って来たのかと心配になる速さだわ。
返信するよりも早く玄関を出たほうがと、“いつもの私”に急いで着替える。お気に入りのティーシャツとジーンズ。愛梨も私も、これがパジャマの次にリラックスできる服装。
「お待たせ~。」
運転席の窓を開けて待つ愛梨に小さく声をかけてから玄関のカギをかける。さすがに夜も遅いので、ロック音が響かないようにそーっと。
助手席に乗り込むと、待ってましたと言わんばかりにアクセルを踏む愛梨は今にも大声を出しそう。「聞きたいよ~!」と目が叫んでいる。
「で?で?どうだったの?」
ファミレスでドリンクバーを注文してドリンクを取ってくるともう愛梨がワクワクと声を出した。
「いや、その、だから、水族館に行って…。」
「エッチした?」
「そこかいっ!そう簡単にパンツを脱いでどーすんのよ?…き、キスはしたけどね。」
「冗談よ。楓花がそう簡単にエッチするとは思ってないわよ。付き合えそう?」
「好きかどうかすら、よくわからないけど、少し付き合ってみることにした。」
「そっか。優しい人だといいね」
冗談めかしながらも、心配してくれるのがわかる。だから愛梨って好き。
「そうだね。まあ、うまくいけば、おいしい結婚の話でも出てくるかもね。」
「またまた~。強がっちゃって。」
そう。これは強がり。確かに結婚の話でも出ればいいやという気持ちもあるけど、ね。こうでも思っていないと、失礼ホヤホヤの私としては、フラれた時のダメージが大きいから。