「誰か紹介して。」
それは高校の同級生のエリの電話から始まった。
「男友達に誰か紹介してくれない?歯医者さんで、23才の人なんだけど。それか楓花いっとく?」
失恋したばかりの私には渡りに船のような話だった。しかも歯医者さん!もしそのままうまく行ったら玉の輿なんてこともあるかもしれない。
大学三年生も後半に差し掛かり、就職活動の話題も頻繁に出ている今日この頃。就職活動に専念したいところだけど、彼氏も欲しい。
そんなわけで、私はその「船」に飛び乗った。
そう。今日はエリの男友達とご対面する日。とりあえず、印象だけは良くしておかなくちゃ。ルックスは普通らしいけど、もしかして、ってこともあるじゃない?
こういう時はスカートをはこう。普段の私はジーパンにTシャツやパーカーがお気に入りのスタイル。しかもかなりカジュアルなタイプなんだけど、特別な時は「女装」していくのがお約束ってモンでしょ。
学校が終わると、いつもと違う電車に飛び乗り、待ち合わせの場所まで急ぐ。約束の時間より少し早く着かなくちゃ。
ドキドキだなあ。相手を好きになれるのかしら?そもそも紹介って本当に恋が生まれるのかしら?
目的地の駅で降りたら、まず駅のトイレに入って、鏡でチェック。
「よし。大丈夫。」
駅から徒歩5分の指定されたカフェへ。
…よかった。まだエリ、来てなかった。早速LINEを入れる。
『カフェの前で待ってるね。』
『中で待ってて。暑いでしょ?』
エリの返事を見て、とりあえずアイスティーをオーダーして通り沿いの席に座ることにした。見つけやすい場所にしないとね。
「楓花ー。お待たせ!」
声に気づいて顔を上げると、エリはアイスコーヒーを片手に隣の椅子を引いてストンと腰掛ける。
「会うの、久しぶりね。」
「そうだよね。いっつもLINEばっかだもんね。」
学校が離れると、なかなか会えないから、こうしてエリに会えたことも嬉しい。
「今日、やけに女の子らしいわね。」
「初対面だから、ちょっとだけグレード上げてみた。」
「フフフ。ちょっとだけ~?」
エリがニヤニヤしている。
「そ。そうよ。ちょっとだけよ。」
「ホントにちょっとだけ?高校ん時は大股開いて自転車で爆走していたくせに~。」
「そ、そういうことは、内緒にしておいて!」
「冗談よ。楓花、キレイになったよね。うまくいくといいね。」
「今日は、ありがとね。失恋したばっかで落ち込んでたところだったから。」
どんな人だろう?エリの友達だから、おかしな人じゃないことは間違いないけど。
ドキドキしながらアイスティーのストローを口にした。