ヒーロー、世界の一部を知る
パチッ、パチッ!
薪が燃えて割れる音で俺の意識は覚醒した
ぼんやりとした意識のまままず目の前に飛び込んできたのは焚き火と、俺に向かって土下座してる魔女っ子?
魔女っ子・・・うん、この子はさっき俺が助けたはずの魔女っ子だ。
とりあえず困惑した気持ちをどうにかしようと声をかけてみる
「あ、あの君・・・?」
『よがっだあああああああああ!目をざまじだあああああああ!!!』
「え!?え!?ちょっと!だああああ鼻水付いた!!汚っ!!」
鼻水と涙でぐしゃぐしゃになったこの子が落ち着くまでしばらくかかった。
「あー、落ち着いた?」
「はい・・・自分は駆け出しの魔法使いのエミリー・エマ・フローラと言います、先ほどは助けていただいたにも拘わらず魔法を当ててしまい申し訳ありません・・・」
魔法使い・・・やっぱりここは俺のいた場所とは違うのか・・・日本の富士の樹海とか考えてた半端な希望が静かに消えたのだった・・・
「いや、まあパニックになってたっぽいしスーツ着てたし大丈夫だけど、君のほうこそ無事でよかった!他の二人は無事か?」
「いえ・・・仲間は二人ともミノタウロスと接敵した瞬間にやられました・・・今は私が埋葬しました・・・」
遅かった・・・か・・・この気持ちは何度感じても慣れない・・・守り切れなかった時の後悔はこの少女には恐らく一生ついて回るだろう・・・俺のように。
「そっか…元気を出せ!とは言わないが後ろ向きには考えるな・・・二人の為にもな。名乗るのが遅れたな、レイドライバーの鳳浩司だ!よろしくな、エミリー!」
落ち込んだ空気を何とかしようと精一杯の元気で握手を求める。
「はい、コージさん!」
彼女もそれを察してかぎこちない笑顔で応えてくれる。
握手を交わしたところでお互いの腹の虫が大合唱を奏でたのだった。
「は、あっはは・・・すまん、エミリー、なにか食料を持ってない?しばらく何も食べてなかったんだ」
「あっはは・・・パンと今スープが出来ますよアハハ!」
気恥ずかしさの中食事にありつけた事、少女を助ける事が出来た事、まだ俺が生きている事を実感しながらパンを齧るのだった。
『俺が別の怪物に見えたから魔法を撃った!!?』
「ごめんなさい!ごめんなさーい!!」
彼女が俺に魔法を撃った理由をなんとなく尋ねた答えがこれだった。
「だってだって!目が光ってたし!とてつもない速さで動いてましたし!鎧だけでミノタウロス倒して身体中から煙吐いてましたもん!!」
あー・・・まぁこの世界の人達は恐らくレイドライバースーツは知らないだろうし当然って言えば当然か・・・
「あーはは・・・まぁ突然現れて怪人倒せば怯えるのも無理ないか。」
「でもすごい魔道具ですね、魔獣を素手で倒せる力にバイコーン並の速度で走れる鎧なんて初めて見ました!それに自然と光になって消えるなんて!」
レイドライバースーツの事を言ってるのだろう。
しかしさっきから怪人の事を魔獣と言ってたりするあたりさっきのミノタウロスは怪人じゃなく魔獣にカテゴライズされるらしいな。
「俺も魔法って初めて見たよ!すごいな!何も無い場所から水が出てくるなんて!」
実際俺も使えるものなら使いたい!!
いくつになっても男の子は魔法や超能力は憧れなのだ!
「魔法を見た事ないんですか?」
キョトンとした表情で俺を見てるエミリー
「ああ、初めてさ!」
「普通ならどの家庭にも一人魔法を使える人っているものですが・・・」
「俺はずっと遠い国から旅して来たからね!魔法があまり栄えてない国だったからさ!」
「ではこの辺の事もさっぱり?」
「さっぱりだね」
肩を竦める仕草で応える
「コホンッ!では不肖、私がこの大陸のお話をしますね」
軽い咳払いをして彼女は語りだす
「この大陸、ミドガルドは世界の中心である世界樹がある大陸です。
世界樹とはこの世のどこからでも見えるあの光の柱の事を言います。
世界樹のある大陸は光の加護が他の大陸より強く豊かな大地となり、豊穣な土地に恵まれています。
しかし現在、その土地、加護などを巡り他の大陸がこのミドガルドを狙っています。
特にここ最近とても活動が目立つのが魔人が治める大陸ヘルヘイム。
現在、ヘルヘイムの侵略に対抗する為に冒険者や兵士がミドガルドに集まってきています。」
大陸が国みたいなもので国と国で小競合いってとこか・・・
「エミリーも冒険者ってわけか」
「はい、駆け出しですけどね・・・
ヘルヘイムの魔人の配下たちが密かに侵略行為を行ってないか中央を離れる事が出来ない騎士の代わりに私たち冒険者がこういった森の調査なんかをするわけですけどね。さっきのように駆け出し混じりのパーティじゃ厳しい魔獣もいたりするのでほとんど使い捨てのような扱いですが・・・」
エミリーの顔に陰りが見える
「しかしなんでまたヘルヘイムの連中は世界樹へ侵略を?やはり土地?」
「恐らく…世界樹を切り倒したいのだと思います。」
「切り倒す・・・?」
「世界樹の光が届く範囲は豊かな土地が約束されています。しかし世界樹と言えど地面の下は照らせません・・・」
「ヘルヘイムって・・・地面の下にあるのか!?」
「はい、光の届かない死と魔人の治める大陸は地下深き場所に存在しています。」
ファンタジーすぎる・・・俺の常識を軽く飛び越えて正直お腹いっぱいって感じだ。
「彼らはミドガルドを横切る巨大な渓谷から這い出て来ると言われてますが調査に向かった優秀な冒険者も聖騎士も帰ってこないそうです。」
ファンタジーに神話が混じったって感じな世界に俺の頭はパンク寸前だった。
「あはは、私が知ってるのはこのくらいです。いかがでしょうか?」
「なんとなく把握できたけど正直パンク寸前って感じだ」
「うふふ、まあ今日のところは一先ず休みましょう、お疲れのようですし私も色々ありましたから・・・」
仲間を2人失った彼女も疲労が重なって限界そうだった。当然だろう。
「そうだね、とりあえず今日のところはオヤスミだ」
「はい、念の為、警戒の陣を張っておきますから安心してください」
そういって彼女は横になった。
俺は焚き火をしばらく眺めて幼馴染の事、元の世界へ帰る方法、この少女の事、この世界の事とにかく色々考えを整理していた。