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未来点  作者: 星島咲也
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営業職の男性の体験 (後半)

 目を覚まして、周りを見渡す。

 ただ一面の真っ白い部屋だった。

 どこかから入る光が反射していて、少し眩しい。

 部屋の大きさは会社の一番大きい会議室ぐらいだろうか。

 と、目線を感じて俺はその方向を見た。

 40歳前半だろう男が立っていた。

 少し老けていて最初は分からなかったが、よく見ると未来の自分だという事を確信した。

「……どうも」

 俺は軽く頭を下げる。

 すると、男は口を開けて笑った。

「やあ、調子はどうだい?31歳の俺」

「まずまずですね」

 何で向こうは俺の年を知っているのだろうかと思ったが、未来の自分はこの出来事を既に経験しており、鮮明に憶えているという事に気がついた。


 「それで、お前の聞きたいことって何?」

 男の言葉で少し放心状態だった俺は我に返った。

 そうだ、彼に何を聞こうか。とりあえず、宝くじの当選番号とか?

「念のために言っておくけど、俺が答える質問は一つだけな」

「え?」

 そんなの聞いてないぞ、と安易に開こうとした口を直ぐに閉じた。

「そりゃそうだろ、世の中は甘くないってのは過去の俺でも知っているはずだろ?」

 そう、ですよね」

「あと、あんまり考えすぎるな。パッと浮かんだものでいいんだ」

 と言っても競馬とかの当選とか、聞かれても分からないから と彼は豪快に笑う。

 なんか、今の自分と全然違うな。

 老けてるはずなのに、新卒の頃の俺みたいな感じがする。

「早くしろよ、こっちは時間が無いんだ」

「あ、えっとじゃあ…

 これから俺はどうすれば良いんでしょうか」


 長い沈黙だった。

 いや、長く感じるだけで本当は数秒だったのかもしれない。

 下を向いた男は考えがまとまったように、すっと顔を上げた。

「そんなこと知るかよ」

 男はさっきまでの笑みが無かったかのように、口を締めてじっとこっちを見つめた。

「確かに俺はこれまでどうやって生きてきたかぐらいは覚えているよ、でもそれを教えたとしてお前になんの意味があるんだ?

 誰だって人がつくった道しるべにそって歩くのは簡単だよ、でもそれは本当にお前の人生なのか?

 今を生きているのは、今の俺であって未来の俺じゃねぇ。だから、お前自身が決めないといけないんだよ」

 そう言い切った彼はまた数秒間見つめて、また笑顔に戻った。

「心配すんな、俺は未来で生きているんだ。どんな険しい道だって過去になったら笑えるんだよ」

 ぽかーんと口を開けていたことに気づいた俺は、振り返って何も無い壁に向かっていく彼をずっと見ていた。

 と、思い出したかのように未来の俺が振り向いた。

「そうだ、過去の俺の得意なことってなんだったっけ?」

 お前の過去の事な、と付け足す彼。

「え、えっと…ひたむきに頑張ることですかね」

「そうか、じゃあそれを忘れるなよ」

 そう言って今度はさっきよりも早足で離れていっていつの間にか消えていった。

 俺も何だか目眩がしてきた。

 薄れていく意識の中で、未来の自分の言葉を思い出す。

「『ひたむきに頑張れることを忘れるな』ってか…」


 後ろから来た人にぶつかった。

 サラリーマンはこっちを睨みつけてそのまま去っていく。

 人波に煽られるように交差点を出る。

 混雑が無くなってきたところで、俺は一旦立ち止まった。

 何気なく空を見上げる。

「俺がするべきことは…」

 過去の自分はただひたすらがむしゃらにやってきた。

 今は、それに疲れて休憩してるところだろうか。

「それならもうちょっと頑張ってみるか」

 未来が見えなくても読めなくても、俺は進むしかない。

 進むだけなら、遅いより早い方がいいに決まってる。

 俺は前を向き直し、会社に戻る方向へ歩いた。

 出来るだけ、急ぎ足で。

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