「母さん、俺の眼鏡(の行方)を知らないか?」「あらアナタ、お顔じゃなくておデコにかかってるわよ。」
たった二行の会話文でも、そこに謎と解法があれば推理作品は成り立つと思います。
願わくば、この作品を読む事で推理作品への苦手意識が薄まれば幸いです。
太陽光線。
秒速約三億米の狂気が俺の網膜を刺傷する。
惨憺たる現場の光景を検証すべく俺はベッドから跳ね起きた。
空は明るく、『ケョケョ゛ケョ゜コャカョケョケョケョ』と朝鳴き鳥の囀りが響き渡っている。
ダブルサイズのベッドには一人分のスペースが空いている。
台所から響くドラミカルな音と味噌が香る紫の湯気が立ち上っている。
どうやら妻は俺より早く起きて朝食の準備に取り掛かってるようだ。
光と音と香り、それらが混然一体と化してはっきりとした朝の目覚めを告げていた。
一方で視界はボヤけ、空を飛ぶズーの翼のたなびく触手の数すらはっきりと知れない。
視界をはっきりとさせるべく、何時ものように枕元を弄る。
だが視界の相棒たる冷たい鉄の感触は無い。
はて?
いつもならここに置いて寝る筈だが…。
記憶を探ってみるが寝る前の記憶がようとして思い出せない。
恐らく寝落ちしてしまったのだろう。
だが、そうなると俺は眼鏡を何処に置いたのだろうか?
少し記憶を整理しよう。
昨日は仕事終わりに飲み会が有ったのだ。
飲み会はここ数年かかった大仕事がようやく終わった事を慰労する為に開かれたのだ。
私は妻に仕事仲間との飲み会で遅くなると伝えてあった。
飲み会は終始和やかに進み、仲間達は三々五々と散って行った。
次々と帰る仲間達。
中には羽目を外したのか、真心を示すと叫んで裸ネクタイで帰る奴もいたが、それでどんな目に会おうとも自業自得である。
いいぞ、もっとやれと囃し立てる仲間達を尻目に俺は帰った筈だ。
この時点ではまだ眼鏡は顔にかかっていた筈だ、俺の記憶もそう言っている。
その後は確か…。
…そう、真っ直ぐ家に帰ったんだ。
そして妻と他愛ない話をして…。
駄目だ、その先が思い出せない。
ヒントだ、何かヒントは無いか…。
そうだ、妻に訊いてみよう。
酔ってた俺と違って意識も記憶もはっきりしていた筈だからな。
寝室を出ると妻は朝食の用意をしていた。
台所の端に青と緑のまだら模様の殻が捨ててある所を見るに、どうやら今朝のおかずは卵焼きらしい。
テレビは朝のニュースを垂れ流している。
ニュースキャスター曰く、今日はケャッヘョルハナアルキが見頃らしい。
今日はたまの休みだし、妻の都合が合えば散歩がてら一緒に見に行くのも良いかも知れない。
その為にも是非とも眼鏡を見つけないとな。
なので挨拶がてら早速訊いてみよう。
「おはよう、母さん。
俺の眼鏡を知らないか?」
「あらアナタ、おはよう。
アナタの眼鏡は防弾仕様の近接戦闘用スパイク付きヒゲ眼鏡だったと思うわよ?」
此方も見ずに答える妻。
料理中の余所見は危険だから仕方ない。
そして俺の相棒たる眼鏡は防弾仕様で近接戦闘用スパイクがついた優れ物だ。
仕事柄、コイツには何度も命を救われている。
翳せば盾となり、振るえば敵を薙ぎ倒す武器となるコイツは俺達の仕事の最高のパートナーだ。
だが違うんだ。
今訊きたかったのは眼鏡の仕様じゃないんだ。
「…あぁ、すまん母さん、言葉が足らなかった。
実は眼鏡を何処に置いたか分からなくて困ってたんだ。」
正直に話して助力を請う。
一人じゃこれが限界なんだ。
「何か心当たりは無いか?」
そう問うと妻は考え込む。
その間も目はフライパンから離さない。
「そう言われてもねぇ。
アナタ、お風呂入るって言ったから私は先に寝ちゃったわよ?」
なるほど、風呂場か!
「ありがとう、母さん。
早速探してみるよ!」
風呂に入る場合、大半の人は服を脱ぐ。
一部の人は着たまま入るという人もいるかもしれないが、俺は多数派だ。
そしてその流れで当然眼鏡を外す筈だ。
ならば眼鏡は風呂場に有る!
…といいなあ。
風呂場に着いた俺は早速捜査を開始した。
先ずは洗面台。
収納等も見るが眼鏡は見つからない。
次いで洗濯カゴ。
洗濯物を一つずつ出してポケットの中も探るが出てこない。
当然ながら妻の下着にも絡んでいない。
一つ一つ丹念に調べるが出てこない。
ここで手を抜くともし混ざってた場合、妻に泣きながら怒られる羽目になる。
だから丹念に調べる。
下心は無い、大事なのは中身だ。
そこ、「サイテー」とか言わない。
自覚はある。
カゴの中に無いのなら次だ。
カゴに洗濯物を戻して、洗濯機の中を覗く。
空っぽなのでこの中にも無い様だ。
いよいよ風呂場だ。
湿気で曇る鏡の前や湯船の蓋の上には置いていない。
風呂の蓋を開けて覗いて見るとぼやけてよく見えないが底に何やら人の顔の様な物が。
とりあえず弄ってみたが手に触れたのは風呂の底だけだった。
どうやら自分の顔が水面に映ってただけのようだ。
眼鏡が無いせいか、何時もより酷い感じがしたが…。
栓は抜かれてないから風呂水と共に流されたという可能性は低そうだ。
風呂釜の取水口にもフィルターが付いてるのでボイラー配管に吸い込まれた可能性ま低い。
ならばと思って排水溝も覗いて見るがそちらにも無い。
商業施設とかだと、よく眼鏡や携帯を流してしまうケースを聞くが、どうやら今回の場合、それは無さそうだ。
となると後はどこにあるやら…。
妻を手伝うべく台所に行くと既に配膳まで終わっていた。
これは後で埋め合わせせねばなるまい。
そう思い声をかけようとしたら何故か呆れた顔をされ、そして見惚れそうになる笑顔でこう言われたのだ。
「あらアナタ、お顔じゃなくておデコにかかってるわよ。」
推理作品としてはノイズだらけでヒントが少なすぎる点が失敗点かと思います。
お題そのものは良いけど書き手の力量不足…かな?
作中の難読部分はコメディ成分として書かせて頂きました。
2018/04/08 難読部分に傍点を打たせて頂きました。
2018/04/08 一部、誤字を修正しました。
2018/04/08 頂いた意見を元にヒントを増設しました。それに伴い一部文章を増やしました。
2018/07/16 頂いた意見を元に一部誤字を修正しました。
眼鏡の仕様
形状:近接戦闘用スパイク付きヒゲ眼鏡(鼻付き)
フレーム素材:超高剛性超展性金属
レンズ素材:耐熱対衝撃仕様防弾プラスチック(透明)
リム:レンズを収める部位、直径4mm、近接戦闘用スパイク付き
鼻あて:鼻あては付け鼻。付け鼻は衝撃拡散を目的とするフレーム素材をベースに外側は人口擬似皮膚で覆い、内側は衝撃吸収素材が内張されたファウルカップ構造になっている。
ブリッジ:左右のリムを繋ぐ部位、幅5mmの強度を優先した単純構造になっている。
テンプル・モダン:眼鏡のつる。モダン(耳にかける部位)側の幅4mm、丁番側の幅8mmと丁番側にかけて広がる形をしている。
モダンは近接戦闘時の衝撃を緩和する為に軟質素材が使用されている。
用法・用途:近接戦闘用スパイクによる打突や引っ掻き、正面防御力の高さを生かした敵の攻撃に対して翳す盾としての使用、モダンを相手に引っ掛けて転ばす転倒武器、細かい場所の埃を落とすヒゲブラシとして使われた。
設計段階ではブリッジに指揮官用の近接戦闘用モノホーンビームブレードを取り付ける案もあったが、予算の都合とビームブレードを鍛える鍛治職人の手配、機能追加による脆弱化等の問題が解決出来ず、強度優先の単純化構造になっている。
その結果、構造材も相まって市販のヒゲ眼鏡(鼻付き)よりも顔面の急所であるTゾーンに対し高い正面防御力を有し着用者の生存率を大幅に高めている。
高い防御力を有する一方で非防御部位に攻撃を受けた時の危険性、使用者に対し非常に高い身体能力を要求する点が問題視されている。