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私はトラックの運転手だ。年齢は34歳。オッサンだ。
私がどういうトラックに乗っているかは、いす○゛のトラックのCMを想像して貰えると有り難い。
さて。私にはある特殊な才能があった。
それは世間一般の価値観からすればとんでもなく邪悪な才能と呼べるモノだった。
プップー。
ドグシャアアア!!! ごろごろごろ。ドテ!
あぁ……。またやってしまった……。
私のトラックに轢かれた哀れなオッサンを看取った私は、今日も憤りを感じていた。
オッサンの死体は満足げな笑みを浮かべており、助けた女子高生の無事に安堵しているようだった。
そんな善人を毎日のようにトラックで轢き殺すことが、私の特殊な才能であった。
不測の事態はいつものこと。
私はもう慣れた手つきで、助手席の床に乗せた、水の入ったタンクに挿さった灯油ポンプのロング版みたいなもので、トラックに付いた血を粗なく綺麗に洗い流す。
そんな私の様子を、歩行者達は信じられないと言いたげに口を開けて唖然と見ていたが、これもいつもの事なので、私の緊張は生じる予兆すら全く気配を見せなかった。
作業を終えた私は、未だ呆然としている周りに向かって声を掛けた。
「すみませーん! 私はこれから逃走を図るが故に電話をかけている暇が有りません! 誰か警察に連絡をお願いします! そしてそこに倒れている一人の英雄の勇敢なる死に様をご家族にお伝え下さい!」
私は言うべきことは言ったので、トラックのアクセルを踏み入れてその車体を遥か彼方へと向かわせた。
後ろには罵詈雑言が溢れ返っていた気がしたが、私にはどうする事も出来ないのだ。許してほしい。
私は現在、変装状態であった。
具体的にはプラチナブロンドのウィッグを被り、ターミネ○ターのようなサングラスを掛け、肌にくっつくタイプのチョビ髭を貼ったら完成だ。
これらの道具は、不思議なことに私が人身事故を起こす度に助手席に勝手に出現するのである。
初めて私の目の前にその小道具が現れた時は驚愕した。
これを使って逃げろと?
私は一瞬でその用途を理解したが、勿論初めは逃げる気などさらさらなかった。
「神様ありがとうございます。ですが私は潔く自首しようかと思います」
その時の思いはこれ一つだけだったのだ。
だが私のそんな決意は、脳内に響いた神とは到底思えない禍々しい声音により、粉々に砕かれるのだった。
『トウソウしろ.デナケレバ貴様ノ両親カラ友逹カラ何モカモヲ,私がコノ手デ屠ッテヤロウ』
私は脳内に響く悪魔の命令に従う他なかった。
そして喜んで良いのかどうなのか。
結果的に私は刑務所送りにならずに、初トラック事故から10年間をこうして逃げ果せていたわけだった。
私は今日も変わったトラックのナンバープレート(どうやら悪魔の能力らしい)を一瞥して、事故現場からは遠く離れたコンビニの中に入っていった。
私はコンビニ出入り口横のガラスに貼られた指名手配書に、自身の欄が有るのに気付いてはいたのだが、それもいつもの事なのだ。
私は悠然とした態度でタケ○コの里とポ○リスエットを手に取り、悪魔に支給された残高を頭に浮かべてレジへと向かった。
前には3人の列が出来ており、隣のレジには『レジ休止中』の看板が。
仕方ないとその列に加わると、そいつは突如として我らの前に現れたのだった。
「強盗だ! このバッグにレジの金を全部詰め込むんだよ! さっさとしな!」
覆面を被った筋肉質な男が、拳銃を片手にバッグを放った。
放られたバッグを手にするもオドオドしているレジの女性店員。
状況を受け入れられずにまごまごしている女性店員に、強盗は痺れを切らした。
「別にこっちはお前じゃなくていいんだよ。てなわけで、死ね」
軽々しく死刑宣告を言い渡す強盗。
トリガーは刹那に引かれた。
パァン!
「がっ! ぐうぅぅ!!」
見ると撃たれた人物は女性店員ではなく、私の前に並んでいたオッサンだった。
オッサンは撃たれた胸を押さえながら顔を笑顔で歪ませた。
そして表情をそのままに強盗に掴みかかる。
強盗は他人を庇うという理解できない光景に不意を突かれた様子で、されるがままに押し倒された。
オッサンは強盗の鼻目掛けて頭突きを入れ、その痛みで悶えた強盗から拳銃を奪い取ると、強盗の足に目掛けてそのトリガーを引き続けた。
カチッカチッカチッ。
やがて弾切れになると、オッサンは拳銃をレジに放り投げた。そして絶叫を上げまくって気絶した強盗の覆面を外すと、ポッケから取り出したスマホでその顔を写真に収めた。
オッサンは満足そうにその場で大の字に倒れると、私達の方へとスマホを渡し(床を滑らせて)最期に独り言を呟いた。
「少しくらいは……社会に貢献できたかな……?」
「立派だったよ」私は心の中で、転生しそうな彼にそう答えたのだった。