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番外編


 実際に検査したら、技術は進歩しており、小さな鏡を関節内に入れて手術ができるのだという。

 ベラボーに検査にはお金が掛かり、ベラボーに手術にもお金が掛かり、しばらく病院にも通わなければいけない。

 総合計金額を考えると頭が痛い。

 最初は診断に必要な最低限の検査だっため、正確な診断が下ったのは二回目だ。その二回目の診察結果を弓加に伝える。



 弓加です!

 ついに、交際二ヶ月で呼び捨てになりました!!

 ちなみに弓加は俺のことを「航くん」と呼んでくれる。「航さん」と最初呼んでくれていたのだが、『降参』と似ているのがなんとなく嫌なので『くん』付けだ。学生みたいだが、どうせ精神面高校生メンタルこうこうせいなのでちょうどいい。



「ずーーっとネチネチ引き摺っていたんだから、すっきりと治しなさいよ。それに結婚前の貯金はそれぞれの物なのよ?」

 自由に使えということだろうが、弓加は俺のことに気を遣ってそんな言い方をしてくれる。

「高額療養費制度だってあるし、保険とかも入っているでしょう? それのフリーダイヤルとかに聞いて支払い条件しっかり確認する!」

 おお、頼もしい。

 凄いなあ、弓加は何でも知っているなあ、とホクホクしていたら、弓加は呆れていた。

 首を傾げれば、彼女はふいっと顔を逸らしてしまう。

 背後霊のように抱き着いて確認すれば、通常はこういう言い方をすると口調がきついとか言い方がなっていないとか、女の癖にとかいろいろ言われるらしい。

 男性だから、女性だから、ってなんでここで出てくるんだ?

 性別なんて関係ないだろう?

 疑問に思って首を傾げれば、笑って腕をぽんぽんと撫でるように叩かれた。

 とりあえず、仮想嫁さんの許可を得て、俺は本格的に膝を治すことに専念した。






**


 俺が手術を受けることにした病院は運よく隔週だが土曜日もやっているところだった。会社というか高橋課長に相談をして、俺の後任が入ってから引継ぎをしながら検査・手術・療養・リハビリをすることにした。

 夏季休暇期間や、3DAYSという長年勤務したものに与えられるおまけの有休を利用して、さらに有休も消化する。

 役職が付くと、部下が有休を取るのも査定項目の一つになるという。今、気が付いた。俺のいる会社って超ホワイト! 信じられない!!

 弓加は俺の我が侭に笑って付き合ってくれる。

 これが終われば、バスケができる。

 そんなふうに興奮して、嬉しそうな俺を見られればそれでいいらしい。

 俺の彼女、いい人!!

 この治療にキリがつけば、俺は別の部署に異動になる。そして、時期を見て弓加と結婚予定だ。プロポーズはすでに公園でしているけど、改めてプロポーズする予定。

 弓加のが絶対あの部署で必要な人だし、結婚後のことはいろいろ二人で相談しながら決めればいいと思っている。



 で、今日はリハビリ後に弓加と待ち合わせだ。

 病院から数駅のところにイタリアのオシャレな街を再現したショップ? とやらがあるらしい。

 赤井さんがセレクトしてくれたデートコースの紙は、コピーして俺も持っている。弓加と二人できょとんとしたものだが、たまにはこういう雑誌に出てくるみたいなオシャレなデートを体感してみるのも乙なものだろう。たぶん。

 待ち合わせ場所には、真っ青な顔をした弓加が立っていた。

「弓加?」

「こ、航くん! ど、どうしよう。あ、歩く災害が‥‥‥」

「歩く災害?」

 とりあえず落ち着かせたいが、周囲にはおしゃれな女性におしゃれな男性が溢れていて、空いているベンチが見つからない。仕方ないので座れそうな花壇に腰を落ち着けて肩を抱く。

「深呼吸する?」

「だ、だいじょう……ぶ。ちょっと落ち着いた」

 弓加さんは深呼吸してから、手の中のスマホを凝視した。

「歩く災害が、元友達から私のアドレスを聞き出して、今東京にいるから遊ぼうって‥‥‥」

 首を傾げる。

 そんなに悩むほどのことだろうか?

「断れば?」

「‥‥‥でも、断ったら、あれと同じことをすることに‥‥‥いや、でも‥‥‥」

 そうとうテンパっている。

「んーと、今日は俺のが先約だよね? その先約を無視したら『歩く災害』さんと同じになるんじゃない?」

「‥‥‥そう、だよね」

 彼女のようになりたくない、彼女のようになりたい。

 相反する二つの感情を弓加はずっと抱いていたようで、普段はしっかりしているのに、『歩く災害』さんに関することだけは常軌を逸してしまう。

 これはあれだ。パブロフの犬と同じだな。

 梅干しを見るとよだれが出るってヤツ。

 少しだけ彼女が落ち着いたのでさてどうするか、と思っていたら謎の番号から着信があった。

「‥‥‥あ」

 とか弓加が躊躇するので勝手に出てしまう。

「もしもし?」

『え? あの‥‥‥林さんの、携帯ですよね?』

「ええ。どちら様ですか?」

 不機嫌な口調にするか、丁寧にするか悩んだが、『弓加の彼氏、最低』とか言い触らされるより良いだろうと丁寧に答えてみる。

『あ、あの、わたくし、弓加さんの友達の山田美登里と申します。弓加さんは?』

「やまだ、みどりさんですか?」

 ゆっくりと復唱すると、隣の弓加は体を強張らせていた。

「すみません‥‥‥今、ようやく薬が効いて眠ったところなんです。なにか急用ですか?」

『え、ええ‥‥‥急用で東京まで来たので顔でも見れたらって』

「そうなんですか‥‥‥タイミングが悪かったですね」

『長い間、連絡もできなくて‥‥‥せっかくだからひと目会えたらって』

「そうなんですか‥‥‥風邪ばっかりはどうしようもないですからね」

『あ、あのお見舞いに行きたいんですが、行っても大丈夫ですか?』

「ああ、すみません。今、俺の家なんです」

『え?』

「俺、弓加の婚約者です。申し訳ありませんが、このまま俺の家で看病しますので‥‥‥お気遣い‥‥‥ありがとうございます」

 実はこの『ありがとう』は昔のことも含めてみた。

 まあ、相手にはわからないだろうけど。

『え‥‥‥じゃあ、あなたの家を』

「あ、すみません。ちょっと宅配が来たみたいなんで失礼します。気をつけてお帰り下さいね」

 適当に嘘を言って、切る。

 ねっとりとした声が耳に残っているようで、気持ちが悪い。

 弓加は真っ青な顔をしたまま俺の腕に縋っていた。

 可愛い。

 なに、これ、かわええ。

 鼻の下がずるーーんと伸びそうになる。

 かぁんわいいいぃぃぃ!

 あ、いかん。

 心のおっさんが元気になり過ぎた。

「弓加、元友達の電話番号出して」

「へ?」

「いいから」

 戸惑いながら住所録を出されたので、そのまま受信と着信の不可設定を行ってしまう。先程の歩く災害も登録して、不可設定だっ。もちろん、登録名は歩く災害だ。そして、その二人をフォルダ分けして、フォルダ名は『人外』にしておいた。

「よしっ!」

 えっへんと威張ってスマホを見せれば、弓加は口元を押さえながら顔を真っ赤にさせていた。笑いで。

 えー。

「あ‥‥‥っぷ、あ、あり、ありがとう」

 ありがとうの五文字をなんとか口から出してから、弓加は俺の腕にしがみ付いて笑っていた。

 可愛い。

 そのままなでこなでこと弓加の頭を撫でていると、弓加が微笑した。

「あのね、山田って、旧姓なの。もしかしたら、離婚して、上京したくて私を頼ろうとしたのかもしれない」

 えー。

 タケちゃんだって最低でも一週間前には連絡くれるぞ。

「‥‥‥想像でしかないけど、元友達も、自分に火の粉が掛かるのが嫌だから、私の連絡先、教えたんだろうね」

「それ、友達イワナイ。あ、元ってつけてるから合ってるのか?」

 俺の呟きに、弓加は笑っていた。

 その朗らかな笑い声を聞きつつ、俺はあるところに電話した。

「もしもし、山上先輩? 助けて欲しいことがあるんです!」

 いきなり同僚に電話を掛けた俺を見て、弓加がゆっくり瞼を開け閉めする。






***


 その後は、スパイ作戦よろしく、山上、赤井、まさかの高橋課長まで巻き込んで、弓加の貴重品奪取作戦が行われた。

 いや、単に高橋課長が作戦参謀で、歩く災害さんが周囲にいないか見回しながら部屋に入り、必要な荷物を纏めただけだ。

 なぜか俺の後任の後藤も混ざっていた。

「映画みたいですね~」

 電柱からきょろきょろしていたそうだ。よく、警察に通報されなかったものだ。

 荷物を纏めた弓加はそのまま俺の家に居候だ。

 わーい、同棲~!

 と心の中ではしゃいでいたら、弓加以外の全員から頭をはたかれた。

 酷い。

 しかもかがめという命令後にだ。

 弓加はただ、笑っていた。

 スパイ大作戦の成功報酬の焼肉を奢ってから、俺の部屋に二人で戻る。

 にんにくは入れなかったつもりだが、服が焼肉臭い。

 慌てて消臭剤をかける。

 オレンジの匂いが玄関に広がる。

「明後日‥‥‥会社でどんな顔をすればいいの‥‥‥」

 弓加は顔を覆っていた。

「え? 知らんぷりしてればいいと思うけど」

 焼肉奢ったから。

 俺が答えると「このっ、精神面メンタル高校生が!」と俺の胸をぽかぽかと叩くふりをする。かわええのお。

「‥‥‥わかった」

 右の床を見つめているから、弓加がどんな表情をしているかがわからない。

「普通に仕事する。ばか」

「いや、だって、あれってば、部屋の前で待機してるかもしれないだろう? それを考えれば俺の部屋にしばらく避難してた方がいいじゃんかー」

「あれ」

「あれ」

 もう、あれでいいと思う。

 英語ならThat?

「ばかー」

 弓加がそう言いながら俺に抱き着いてきた。

 その小さな体を抱き締める。

「‥‥‥焼肉とオレンジが混ざると微妙」

「うん」

 そうして、俺たちはとりあえずそれぞれシャワーを浴びた。



 シャワーから出ると、パジャマ姿の弓加がいる。

 おお! 凄い!!

 俺ってば、本当に彼女がいる!

 告白をして、所謂カレカノになったのだが、病院を探したり、なんだかんだとあったので、むにゃむにゃなことはまだしていないのだ。

 第一、俺の膝が‥‥‥

 それ以外の態勢でもいいんだけど‥‥‥

 ‥‥‥弓加も、今までが今までだったからゆっくりでいいとのことで、多少触れたりはしたけれど、お預けしてきたのだ。

 弓加がちょいちょいと手を招いてくれる。

 隣に座ると、弓加が真面目な顔で見上げてくる。

「航くん」

「はい」

「結婚してください」

「っ! はい!!」

 おおっ、逆プロポーズされた!! これが携帯だったら顔文字だらけだ!!

 わー、嬉しい!

 そして指に赤いリボンを巻かれる。

 蝶々結びだ。

 俺も俺もー。

「弓加、俺と結婚してください」

「はい」

 今回は間髪入れずの「はい」だっ!

 わー、頭の中が!マークだらけだ。ヒャッハー!な気分。

 リボンとか紐とか? ないなあ。

「‥‥‥クリップしかない」

「く、りっぷっ」

「あ、あとメジャー」

 百円ショップで買ったメジャーがある。家具を買う時に便利なのだ。後は輪ゴムとか‥‥‥指輪みたいなコーン菓子とかすらない。

「めじゃぁ」

 呟くような言葉の後は、笑い声しか聞けなかった。

 弓加サン、笑い過ぎですよ。

 俺は笑い続ける弓加を抱き締める。

 うおう、ブラしてねぇ。

「あ、待って」

 俺の動揺などもろともせず、弓加は荷物の中から小さな紙袋を取り出した。

 先程のリボンはこれに巻かれていたのだろう。

 黒い包装紙に包まれた箱を手渡される。

 毛が生えたみたいな箱を開けてみれば、中から出てきたのはバスケットボールがあしらわれたネクタイピン。

「見つけた瞬間にね、航くんだって思って買っちゃった」

 てへっと笑う顔が可愛くて、俺の顔もだらしなくなる。

 ネクタイピンを見つけたってことは、俺のために男性物を見ていたということ。父の日かもしれないけど、今は考えない。カンガエナイ。

「ネクタイピンなら、会社でずっとつけていられるでしょう?」

 わー、これが恋人の我が侭ってヤツですか!?

 可愛い。

 かぁぁんっわいいいぃぃぃ!

「うん、嬉しい」

 ぎゅっと抱き締める。

 よいしょよいしょと態勢をずらして、太腿の上に恋人を抱き上げた。ぴったりとコアラのように抱き着く。

 膝もあとちょっとで完治して、可愛い恋人が膝の上にいて、俺ってば最高に幸せだ!

 本当だったら絵文字を乱舞させたい感じ。

 わーい、わーい。

 一応、分別ある大人なので、口にはしない。






*****


 そんな、脳内お花畑の俺は、あとちょっとで『待て』をされることになるのだが、それすらも今となっては楽しい思い出なのである。

 ちなみに、数回トライ後にはちゃんとできました。

 わからない人はわからなくていい。

 知りたい人は、絶対に裏切らない人にだけ聞いてくれ。



 形だけ可愛くて、味は超絶まずい『エメラルドグリーンのパンダチョコ』みたいな人にだけは聞くんじゃないぞ! お兄さんとの約束だ!!



 あ、やべ。

 弓加がご飯だって呼んでる。

 じゃ。









 おしまい。







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