人懐っこい僕の友人
【捻くれ者の私の友達】の緋月視点のお話。
僕、季羽緋月には変わり者の友人がいる。
僕には年の離れた兄と双子の妹がいる。
温和で誠実な兄と穏やかで純粋な片割れ。
そんな兄弟の中で、愛想はなし、口は悪い、捻くれ者と
あまりよろしく無い性格の僕は、周りに馴染めることは無かった。
兄弟仲は悪くは無い。兄もあいつも両親を亡くした僕ら兄弟にとって
3人だけの家族だからというのもあるだろう。
他の奴らはこんな性格の僕を受け入れはしなかった。
友達がいないなんて失礼なことを抜かす奴らもいるが、
僕にも友と呼べるやつはいる。
1年前に家に引き取った、真黒い子猫だ。
目が悪くよたよたしているが、耳や鼻はとてもいい。
そして感情に敏感で、何かあると寄ってきて甘えるのだ。
断わっておくが、一応人間の友人もいる。
猫しか友達のいないわけではない。……1年前まではそうだったが。
1年前に出会った変わったやつ。
そいつは一人で小さな喫茶店を開いている。
口も態度も悪い僕に、人懐っこそうな笑みを浮かべて
相も変わらず話しかけてくる。
時々、僕を黒猫に例える変な女。
小さなあの店は嫌いじゃない。
春の木漏れ日のような優しい雰囲気に、
人懐っこい笑顔で常連客と楽しそうに話す若い女主人。
種類の少ないながらも美味しいと人気のメニュー。
僕は客の少ない時間帯に、そこで決まったメニューを頼むのだ。
喫茶店”森のひよこ”のドアを開ければ、
来客を告げるベルで気付いたそいつは人懐っこい笑顔で声をかけてくる。
「いらっしゃい。来てくれると思ってたよ」
「……別に。」
このやりとりもいつものことだ。
僕の愛想のなさなど今に始まったことでもない。
これは僕とコイツの挨拶だ。
この喫茶店の女主人であるコイツは此永日和という。
人懐っこい性格で人と関わるのが好きなのだ。
僕の性格の悪さも口の悪さも気にも留めずに、笑顔で話しかけてくるようなやつだ。
「いつものでいい?」
「ん……」
僕が決まって頼むのは、シンプルなケーキだ。
スポンジとクリームでできたケーキ。
僕がイチゴが好きだと知ってからは、時折イチゴをのせてくれる。
……礼は言わないが。
「はい、日和さま特製ケーキ」
ふざけた口調とともに目の前にケーキが置かれる。
ここには他に客はいないが、客のいる時には決してこんなことはしない。
まあ、いるのが常連で気心の知れた
僕の兄やその友人あたりだったらやるだろうが。
「アンタ相変わらず変だね」
ケーキを受け取り、素直に感想を述べる。
自分に様付けなど、相変わらず言うことがおかしい。
第一、コイツは日和様なんて大層なものではない。
精々、人懐っこいぴよぴよ鳴くヒヨコ様だ。
「そんなことを言うなら、これ私が食べちゃうけど?」
ヒヨコがとんでもないことを言ってきたので、
不服の意を込め睨みつける。
「緋月くん、それよく頼むね。気に入ってくれた?」
僕の観察に飽きたのだろう。
日和は目の前に座り、自分の分のコーヒーを飲みながら僕に尋ねる。
「別に。……アンタのケーキ嫌いじゃない。イチゴは好きだけど」
「ありがと。嬉しいな。また作るね」
視線を外し呟くように返した僕の答えが気に入ったのだろう。
嬉しそうに笑うコイツはどこぞの翻訳機が働いたらしい。
少なくとも僕は、常人が喜ぶようなことは言っていない。
とりあえず、一言だけ言っておく。
「僕、アンタが喜ぶようなこと言った覚えないんだけど」
おそらく、嫌いじゃないといった言葉を意訳したのだろう。
……まあ、間違ってはいないので、勝手に解釈を進めてくれて構わない。
僕は遠慮はしないから。
もし気に入らなければ、嫌味たっぷりに言うだろう。
「こんなものを食べさせるのか」と。