脱毛ワックスでつ~るつる
「ねぇ、貴女聞きまして。なんでもドラゴンキャッチャーなるものが置いている
店に素晴らしい商品があるとか。」
「えぇ、聞きましてよ。なんでもお肌から毛がぬけてつるつるの肌になるそうで
すわ。けれど、商品ではなく景品ということなので売ってはもらえずに、自分で挑
戦して得なければならないらしいですわ。」
「あら、そんなの私の父上に頼めば問題ありませんわね。」
「いいえ、私が御父様に頼んでみたのですけれど、絶対に手を出すなといわれて
しまいましたわ。」
「なんと、貴女とお父上が無理という事は私の父上でも難しいということね。」
「残るは、正当な取引による譲渡でしょうね。くれぐれも、乱暴な真似をするな
といわれていますわ。」
「そう、ありがとうございますね。とても、有用な情報でしたわ。」
「でも、一つだけお気をつけあそばせ。使用するとたしかに毛が抜けお肌もつる
つるになるのですけれども、なんでも多少痛みを伴うらしいですわよ。」
「大丈夫ですわ。美のためなら多少の痛みなら耐えてみせましょう。」
色々な景品があるドラゴンキャッチャー。その中で、脱毛ワックスのセットが登
場した。初めは人も疎らだったが、女性の美に対する情熱はまさに底なしである。
景品をGETした人から、少数の人の噂が一気に広まるのに一日もかからなかっ
た。その日のうちに、女性達が殺到したのである。
この頃になると、ドラゴンキャッチャーのファンや転売を狙うもの達もいたので
噂を加速させた。しかし、最初こそ女性が多かった脱毛ワックスのドラゴンキャッ
チャーだったが、徐々にだが男性客も増えてきた。男性も美容に気をつかわないで
もないが、本来の目的としての客は少なく、違う目的の人も多かった。
革製品は防具各種に、他はバックや小物などにも利用価値は多岐にわたる。通常
毛抜きにはいくつもの方法があるが、ドラゴンキャッチャーで脱毛ワックスを手に
した職人がいた。皮を剥ぐ前に脱毛ワックスで毛抜きをする。この脱毛ワックス
は、錬金術で作られたものである。面倒な手順が必要なく、使いやすい。そして、
使用後に美容効果と回復効果があるのである。そう、ワックスによる強制脱毛は肌
を荒らすことに近いのである。毛を抜くときの、摩擦やらなにやらでワックス自体
は肌をあらさないが、脱毛という行為が肌を傷つけるのである。それを解決し、あ
る程度痛みも少なくしたものがドラゴンキャッチャーのワックス脱毛である。
それらの効果は、生きていない生物にも少しだが適用される。もしも、十分に効
果を使いたいなら生きているうちに毛を抜いてから、仕留める方法がよいだろう。
「おいおい、最近なんだか革の品質があがったんじゃないか。」
「あぁ、最近皮の毛抜きに新しい方法を試してみたら、これがバッチリはまった
ってわけだ。」
「へー、そりゃよかったな。」
脱毛ワックスの歴史を紐解けば、2万年以上にも及ぶという。かの世界3大美女
のクレオパトラも、ハチミツや砂糖に蜜蝋などを使い脱毛をしていたという。美容
という観点でも、脱毛は大事であるということがわかる。しかし、脱毛は下手をす
れば自分を傷つける行為にもなる。
バラエティー番組では、毛深い人にガムテープなどをはり一気に剥がす痛みを罰
ゲームにしたりしている。しかし、これは毛が抜けヒリヒリする程度であろう。も
しも、それ以上の痛みなら拷問に近いといえよう。そう、たとえば肌ごとと考える
とまさに拷問である。
ある旅の一団が、獣人の盗賊達に襲われた。獣人は力に溺れる傾向がある。ある
意味、力こそ全てが彼らのルールである。
「へへへっ、獲物がまんまとかかりやがった。」
旅の一団に武芸者はいなかった。しかし、旅をする者達だけあって最低限の身を
守る術は持ち合わせていた。
「みんな、ちょっと時間を稼いで。」
一団の一人が馬車の中に駆け込んだ。売り物の商品をびりびりと破いて、幾つか
の布片にした。そして、その先に脱毛ワックスを塗った。そして、急いで戦場へと
戻る。
「皆、これを使って。」
細長い布片に脱毛ワックスが塗ってある。それを見た一団は一様に落胆の色を浮
かべたが、それはすぐに払拭されることになる。
「なにか、奥の手があると思えばそんな布っきれで何ができるってんだ。さっさ
と死にやがれ。」
「さぁね、じゃあくらってみれば。」
この脱毛ワックスをドラゴンキャッチャーで得た少女は、獣人に布を振り回し
た。
「ギャーーー。痛ってーーー、何しやがるんだ。」
脱毛ワックスは肌に触れて使えば、美容効果と痛みを抑える効果があるが毛のみ
だと、その恩恵はほとんどえられない。旅の一団は、その効果抜群の攻撃をみてい
っせいに獣人達へとむかっていった。この痛みはある意味鍛える事が難しい部類の
痛みに位置する。そして、肉体的ダメージと共に精神的ダメージも期待できる。攻
撃を受けた獣人は無残に、でこぼこのハゲができている。
「撤退っ、撤退だー。早くしないと、丸裸にされるぞ。」
死線を生き延びた旅の一団は、勝利の喜びと滑稽さで大笑いしたという。
あるところに、万年B級の冒険者がいた。彼は才能はあったのだが、年を経るに
つれ限界を感じつつあった。もう少しでA級にあがれるというところでの限界を感
じてしまった。しかし、彼はまだ限界をむかえていない。彼は、まだ数年の間一線
級の働きができるのである。
「ふう、俺のことをいったいなんだと思っているんだ。」
彼の冒険者仲間の中に、ドラゴンキャッチャーの脱毛クリームをGETしたもの
がいた。これが普通のものだったら問題なかったのだが、脱毛クリームの製作者が
イタズラ心があったのであろう。ラベルにはこう書かれていた『超強力 取り扱い
注意』、肌と防御力が低い人は注意しましょう。
これを手に入れた者が試しに使用してみたところ、ひどいめにあったらしい。し
かし、この万年B級の男はタンクの役割をしていた。ようはパーティーの壁役なの
である。強靭な肉体に、重装備の防具で仲間をまもる。そんな彼ならば、この面白
グッズを使っても笑い話ですむだろう。
彼はここ最近、限界を感じてA級に上がる事を諦めるしかなかったのだ。なら、
耳は遠くなり、臭いといった感覚が弱くなったからである。優秀な盾は、6感全て
に優れているべきである。
耳は隠れている敵のどんな動きも見逃さず、臭いはゾンビなどの敵の襲撃を知ら
せるサインとなる。これらがだめになれば護衛は対処が一歩ずつおそくなり、それ
はパーティー全滅のうきめにあるかもしれないのである。
街中で超強力脱毛クリームをもって、愚痴を言いながら歩いていると、剛の者が
あるいていた。年は若い方だろう、自由都市には色々な人が集まるので、たまにこ
ういった御仁にであることがある。
『しまった、なんと情けないことを聞かれた。』
万年B級冒険者は、自分より高みにいる御仁にそんなことを聞かれたのを恥じ
た。しかし、彼は思わぬ声を聞くことになる。
「なにを悩んでるかは知らないが、強くなりたいのなら鼻と耳にそれを突っ込め
ばいい。」
普段の彼ならば、何を馬鹿げたことをと思っただろう。しかし、彼には他に頼る
手がなく。なによりも、自分よりはるか高みに位置するであろう御仁のお言葉だ。
信じてみるのも悪くない。さっそく試す事にした。
「ぐっわぁー、こちゃ痛い。」
小さな棒を用意して、両鼻と耳にワックスを塗り突っ込んだ。しばらくして、棒
を抜く。他の部位ならともかく、鼻と耳という普段刺激がないところへの刺激とい
うのは敏感に感じるものである。たとえば、それが錬金術で抑えられたものであも
である。
その日はそれで終わったが、冒険にでてみると実感した。
「わかるわかるぞ。俺はまだ冒険者としてやっていける。高みを目指せるぞ。」
毛で覆われた部分が、クリアになったことにより世界がひらけた。鼻の通りがよ
くなり、呼吸も楽になり臭いもわかるようになってきた。耳の毛がぬけた事によ
り、音がよりクリアに聞こえる。
当然、毛の抜く事によるデメリットというのは存在するが、彼の場合メリットが
勝ったようである。彼は埃っぽいところを多く冒険してきたのかもしれない。人間
髪が長くなれば切る。束ねることも可能だが、その間に目に髪が入ってししょうを
きたす事もあるだろう。猫や他の動物も爪などが伸びれば、何かでそれを解決する
それらと同じ事である。バビルサという動物は牙が伸びすぎると、頭に刺さり死ぬ
という。理髪店では耳の外側の毛を剃る所がある。しかし、中はあまり聞かない。
なぜなら、危険だからである。しかし、
今でも細く長い剃刀を使い耳の中を剃る技術を持っている人もいる。
「A級昇進おめでとう。しかも、結婚までしやがってこんにゃろう。」
「ははは、ありがとうありがとう。俺も、A級に上がりしかも、結婚できるなん
て思いもしなかった。」
そう、彼は脱毛後に力をつけて、A級への高みへの上ったのである。しかも、結
婚というおまけつきである。
「えぇ、新婚でまいにちいちゃいちゃしてるんだろう。」
「まぁな、夫婦で脱毛ごっこなんてしてるよ。なんせ、俺がA級にあがれたのは
それのおかげだからな。」
「っけ、幸せやろうが。で、どこを脱毛してやってんだよ。」
「どこって、全部だよ。」
「………変態やろう。おまえなんてもげちまえ。」
「まあ、あそこのあれはもがれちゃまったがな。」
「ぐぇ、へんなもん想像させんじゃねえよ。」
「ははは、悔しいならお前もそういった相手を探すんだな。」