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キングとクイーンの海老祭り

 

 「おいおい、ドラゴンキャッチャーの店に新しいやつが登場しているぜ。」


 酒場に急いで駆け込んできた男が、店内の客に伝えた。すぐに酒場をでるものか


ら、急いで注文したものをかっこんでいる者もいる。


 ドラゴンキャッチャーの設置している店には、いつものように人だかりができて


いる。


 「へー、リヴァイアサンキャッチャーね。だいぶん大げさだな、景品はっと。な


ななにーー、あれはキングシュリンプとクイーンシュリンプ。最高の美食とされる


ものじゃないか。」


 キングシュリンプは金色で、クイーンシュリンプは銀色である。幼体の頃はブロ


ンズの色をしていて、過酷な環境を生き抜くとキングかクイーンシュリンプにな


る。幼体のブロンズシュリンプも、十分に美味しいのだが成長してキングとクイー


ンの名を得たものは別物である。


 ちなみにキングとクイーンシュリンプが生息する海域は、冒険者ランクでいうと


C以上となる。海の強力なモンスター達もキングとクイーンシュリンプは大好物な


のである。


 その美味しさは、言葉ではとてもとても表現できるものではない。あえていうな


ら、キングには力強い、クイーンにはとても繊細な味がするのである。美食家なら


ば、一度は味わってみたい美味としてしられている。それがリヴァイアサンキャッ


チャーの水の中にいるのである。



 リヴァイアサンキャッチャーには、美食家達や一度は料理してみたいと思う料理


人達が押し寄せてきた。その中でも美食家達は目を血走らせている。自由都市には


海にあまり馴染みがないものも多く訪れる。そんな人たちも、海でとれる最高の美


味を一度は味わってみたいと挑戦している。



 その中で特に人気の台が2つあった。いくつかのリヴァイアサンキャッチャーが


あるなかで、なぜその2台が人気あというと、それぞれの台にはみたこともないよ


うな海老がいたからである。



 しかし、高名な美食家達は知っていた。いにしえの美食家が書いたとされる、美


食の本があった。その本の中には、今は失われた美食や、伝説や幻といったものか


ら、怖ろしく希少なものも書かれていたのである。そんななかに、登場するのがそ


の二つであった。


 一つはキングとクイーンが体の中心の線からハーフ&ハーフになっている固体で


ある。キングの外側はキングの味、クイーンの外側はクイーンの味。中心はまさに


キングとクイーンを兼ね備えた味になる。この個


体は2つと混合した味を自由に味わえる奇跡の個体といえよう。


 もう一つはマーブル模様の個体である。こちらは自分の意思で食べ分けることは


できないが、運がよければ全身がキングとクイーンの旨さを兼ね備えており。とき


にはキングの旨みが強く、ときにはクイーンの旨みが強いといったように、胸がわ


くわくとなるような美味さがある。


 その、いにしえの美食家が記した海老が目の前にいるのである。今回を逃せば、


命のあるうちにまた出会えるという確証はない、ある美食家はもてる全財産をかけ


て売ってくれと頼むものもいたが、店は頑なに首を縦に振ることはなかった。その


美食家が全財産をリヴァイアサンキャッチャーにかけたかどうか、景品をゲットで


きたかどうかはわからない。


 しかし、いにしえの美食家がその二つの個体の話を書いた本の原書には、最後に


短く、こう記してあった。『もしも、この二つのうちの個体どちらかに出会えるな


らば、それは一生分の幸運を使ったとしても食するべきだろう。だがしかし、それ


よりも最高の味わいが存在する。もしも、生まれ変わりというものがあるのならば


何度かの人生の幸運を使ったとしても食すべき味がある。』この原書は、異世界カ


ンパニーの地下巨大迷宮図書館の最奥の閲覧禁止の書棚に置かれている。

 



 今回のリヴァイアサンキャッチャーの攻略ポイントは、ずばり生きている生物を


捕獲するということである。そう、生きている海老は跳ねるのである。時には捕ま


る寸前でバックステップを踏み、時にはアームが降りてくる前にゆっくりと歩みを


進め回避する。しかし、何よりもやっかいなのが掴んだときに跳ね回り逃げる事で


ある。景品に的確にアームを落とす技術、そして運を兼ね備えなければGETする


ことはできないのである。




 

 普通のキングとクイーンシュリンプを得る事ができた美食家や料理人は、問題な


く調理するだろう。普通に素材を楽しんでもよいし、自分の好きな料理に使うのも


よい。


 しかし、普通の人や冒険者ではそうはいかない。素材がよいということは、下手


な料理方では味がいくら落ちるかわからない。これが、コネをもった普通の人や冒


険者、強力な冒険者はどこかに伝手があるかもしれない。それらがない景品を得た


人達は、異世界カンパニーの経営する様々な食事処へとむかった。



 とある定食屋の場合


 「おいおいおい、見てみろよ。こんなに大きなエビフライなんてみたことない


ぜ。では、一口。うひょー、味も最高だぜ。」



 とある和食処の場合


 東方にあるという国からきたであろう女性がいた。それはそれは見事な、黒く長


い艶髪。畳のうえで正座をして、その背には一本ピンと筋が通っている。そんな彼


女が食べているのは刺身である。


 「ふむ、見事なり。この繊細な美味さに、臭みの欠片もない。よほど鮮度がよい


に、相違ない。これらを、捕まえた御仁に会いたいものだ。」




 特別な2つの個体を得た人は、異世界カンパニーの最高級レストランとやってき


た。一人はこのために全財産をはたいて譲ってもらったという美食家。彼の幸運


は、無闇に挑戦せずに全財産の価値を減らさなかった事にあるだろう。運が悪けれ


ば、何も得られなかっただろう。多少、運がよければキングかクイーンシュリンプ


が手に入り、さらに運がよければ複数得れたかもしれない。しかし、それでも目的


のものを得られた喜びにはかなうまい。


 もう一人は、古の美食本を書いた子孫であった。運命の導きか、彼女と特別な個


体は出会ったのである。


彼女もその特別な個体の価値を知るものである。全財産というわけではないが、そ


れでも多くの財産を消費


して自らの力でGETしていた。食べる喜びでは、自ら苦難を乗り越えた彼女の方


が上かもしれないが、食材を得るということでは、もう一つの個体を得た男は文字


通り全財産をはたいている。そのために、彼が働いてきた事は嘘をつかない。その


味は、どんな味がするのだろうか。


 

 最高級レストランでも、やはり羨望の眼差しであった。もし、その場にいたのな


らどんなことをしてでも、味わいたいと思うほどであろう。


 席は別で、それぞれに生と火を通した品がだされた。男はその味に涙を流しなが


ら感動し、女は言葉を失い身悶えている。


 「「これ以上の味など存在 しない。しないわ。」」


 誰もがその美食家二人の言葉にうなずき、そこまで断言させた美味の味をそうぞ


うしている。


 「いえ、あるわよ。」


 誰もが、異を唱えた方へと首をむけた。


 「「お前は 貴女は この味を食べた事があるというの。か。」」


 

 すっと彼女は立ち上がる。肌の露出が多いが、気品を漂わせ、高級な生地を使っ


ている事がわかる。そして、何より彼女の研ぎ澄まされたしなやかな肉体美に、気


配に、美しさにだれもが目を奪われていた。



 「彼女は海の美食家とよばれる、大海賊連合の船長じゃないか。」


 誰かが、彼女の素性を知っていたようだ。彼女の力で手に入らない、海の幸はな


いとよばれている。


 「貴女のことは知っているが、貴女はこれ以上の美味を食べた事があるというの


か。」


 「そもそも、貴女はこれらの個体を食べた事があるというの。」


 美食家二人が、女海賊の船長に問う。


 「私をだれだと思ってるんだい。もちろん、その二つの個体も食べた事がある


よ。その上でもう一度言おう。それ以上の美味は存在する。」


 二人の美食家は、怒りをあげたときに立ち上がっていた。そして、膝から崩れ落


ちた。まるで、海に下ろす錨の様に。


 「そもそも、貴女。あの美食本の子孫でしょ、なんでそんなことをいうのかし


ら。」


 そう、彼女の家は一度没落しそうになったのだ。そのときにご先祖様の、美食本


の原書などお金になりそうなものは全て売り払ったのである。


 「あら、知らないの。ごめんなさいね。その顔じゃ、そちらの男の方も知らない


みたいね。可哀想に、くくっ。」


 二人の顔に、絶望が浮かぶ。自らの全てを否定されたような気になったのであ


る。


 「あれを手に入れた者がいるという事実。もしも、興味があるなら探すといい


わ。答えをいうほど私は優しくないの。」

 

 二人の美食家に、生気がもどる。自らの知らない、あの味以上の美味があると知


って。

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