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8.魔族の勘違い! 王女の勘違い?

 王女の演説以降、戦線は微塵も動かない。


 一発の砲弾も交わさないまま、地下施設や偽装された防御陣地に潜み、ただそこで莫大な量の食料を消費する――それが前線の戦士達に訪れた、新たな日常だった。数日前まで繰り広げられていた陣地ひとつ、民家ひとつを巡る死闘は一時中断。


 ……何故こうした膠着状態が訪れたかと言えば、奇妙にも両陣営ともに同じ思考に嵌まっていたからである。


 人類陣営は「魔族攻囲軍100万が必要とする物資など、そういつまでも用意出来るものではない。

 早晩、彼らは補給の問題から撤退するだろう」と考えていたし、一方の魔族陣営も「長期間に渡り市民と篭城している人類軍は、食糧問題から早々に根をあげるはずだ」と思い込んでいた。


 故に両軍ともに、無理な攻撃を仕掛けることはなかった。


 自陣営に攻勢をやる体力が残っていないことを理解している人類軍統合幕僚会議はもちろん、勇者対策も打ち出せていない状況で、無駄な犠牲をこれ以上払いたくない魔王軍参謀本部も、「現状は厳しい。ならば無理にこちらから攻撃を仕掛ける必要はない、時間を費やせば費やすほどこちらが有利になるはずなのだから」と、本気でそう考えていたのである。


 ただ実情は、違っている。


 城塞都市内にはまだまだ余剰の糧食が有り余っていたし、魔族攻囲軍は連日後方から大軍を維持するに足る物資を補給し続けており、つまりは両者ともに思い違いをしていた。

 現在はただ無為に、時間を潰しているだけに過ぎない。


 その思い違い、勘違いが激しかったのは、どちらかと言えば魔族陣営側だった。




「人類軍前線将兵こそ整然かつ頑強に抵抗をしていますが、おそらく市街内部は激しい飢餓に苦しめられているはずです」


 魔族勝利の象徴、人類軍から奪い取った旧王都「ユーティリティ」王城内にある魔王軍参謀本部では、如何にして城塞都市に篭る人類を干上がらせるか、軍議が実施されていた。赤絨毯の敷き詰められた旧社交場に設置された円卓には、魔王軍所属の参謀だけでなく、魔族陣営に属する各勢力の代表者や側近達が着席している。


「私が考えるに、既に食料を巡っての争奪戦、あるいは人肉食が始まっている可能性があります」


 円卓に着席する参謀達に、いま持論を述べているのは額に角を生やした亜人であった。

 彼は鬼族と耳長族の混血であり、額に人差し指大の角を生やしている以外には、何の変哲もない亜人であり、今回は鬼族を取り纏める悪鬼王の名代としてこの会議に参加していた(悪鬼王は、こうした会議の場を好まない)。

 彼は魔王軍の参謀総長や、獅子王の面前でも、臆することなく発言を続ける。


「おそらく今後彼ら一般市民の中では、餓死者や戦死者を食らうことが常態化してゆくでしょう。そこで我々は今後時機を見計らって、こうした食料源を絶つ! 同時に後方撹乱、食糧庫の破壊も狙っていきます」


 鬼族唯一の参謀は、力説する。

 人肉食は、決して非現実的な話ではない。これまでの戦争の最中にも、餓死者が出るような篭城戦では、人肉を食する事例が多々見られた。むしろ万単位の人々を収容する城塞都市で、こうしたことが行われない方が不自然だろう、と彼は考えており、故に人肉食を封じることが、今後人類陣営を苦しめることに繋がる、と主張しているのだった。


「その方法は?」


「戦略儀式を執り行いましょう。城塞都市内の死体をすべて、動屍どうしに変えるのです」


 鬼族参謀の言葉に、円卓の他族代表者達はみな一様にうなった。

 ……賛成の声は上がらない。


 動屍とは、特殊な術式と相応の魔力を通すことで、屍肉を材料に製造される人工の動物のことである。

 生み出された際に刷り込まれる、簡単な命令を遂行する程度の知能しかもたないが、後方撹乱には適しているし、前述のとおり「人肉食を封じる」という点では、これはかなり有用である(いったん動屍と化した死体は、食用には適さなくなる)。また城塞都市内に湧かせた動屍には、食糧庫の攻撃を命令させてもよい。


 ただし問題があった。


「その献策に7万の竜族を統べる余は反対する、と陛下は仰っております」


 二足歩行の大蜥蜴、と陰で渾名されている竜人がまず口火を切った。

 誇り高い竜族としては、動屍製造の施術を到底許すことは出来ない。城塞都市内には魔王軍に所属していたとはいえ、騎兵達に協同していた翼竜の遺骸が存在しているはずであり、仮に市域全体に動屍を生み出す呪術が掛けられれば、彼らも自然の摂理に反する姿を晒すことになる。それは彼らにとってすれば、竜族全体への汚辱と同義だ。

 ほとんど同様の理由で、竜族の隣席で丸くなっている獅子王も「動屍。悪い。反対」と意見を述べた。彼ら獅子王軍もあの不可解な空中爆発により、死傷者を出しており、また遺体の全てを回収しきれているわけではない。


「私は生命の尊厳、という面だけでなく、戦闘行為の過激化をより促すのではないか、という懸念から反対させて頂く」


 この場で一番の年かさ、耳長族の魔王軍参謀総長も反対の立場をとっていた。


 世界には一般的に使用が回避される、【技能】というものがある。禁呪、禁術といってもいい。

 植生破壊を目的とする【大地殺し】、動植物を変異せしめる【異形変容】、そして全世界破滅の可能性を呼び込む【勇者召喚】――こうした禁忌の【技能】達に、動物の死骸を兵器転用する【動屍製造】は肩を並べてしまっている。

 仮にこちらが【動屍製造】を用いれば、向こうも同等かそれ以上の禁術で反撃してくるかもしれず、そうなるとこちらも禁術で対抗するほかなくなる――、【動屍製造】を持ち出したが最後、際限なく戦闘行為が過激化する可能性も否定出来ない。それが彼の危惧するところであった。

 しかも参謀総長からしてみれば、禁術運用と戦闘行為過激化の危険性を冒す割には、【動屍製造】は効果が薄いように思えてならなかった。城塞都市内部でどういった遺体処理が行われているかも分からなければ、食糧事情も不透明なのだ。

 しかも相手は、あの唯一生き残った王女である。

 こちらが【動屍製造】を発動すれば、嬉々として前述の禁じ手を用いた報復攻撃を仕掛けてくるに違いない。気でも狂ったか、彼女の言葉を信じるのならば、既に【勇者召喚】を起動しているのだ。

 ならばこのまま、包囲環を維持して連中を締め上げ続けるだけでよいではないか。


「……参謀総長どのが、そう仰られるならば」


 と、鬼族参謀は素直に自策を引っ込めたが、内心ではやはり不服であった。

 文字通りの弱肉強食、鬼族の世界で生きてきた彼の感覚からすれば、敵味方の死骸を食べるのは普通のことであるし、戦友であっても死ねばただの肉と骨でしかなく、名誉も糞もないではないか。弱者は人類であり、強者は魔族なのだから、例え禁術の撃ち合いになったとしても最後には魔族が勝つ――彼は本気でそう考えていた。


「流石は暁に血を啜り、黄昏に死肉を漁る賤しき民よ」


 そんな彼がもつ、心中の不満を嗅ぎつけたか。

 竜王の言葉を伝える竜人は、その金色の瞳を細め、鬼族参謀に対する揶揄を口にし始める。

 竜人の言葉にぎょっとなった参謀総長や、他族代表者達は、とっさにやめるように注意を促そうとしたが、やや遅すぎた。


「悠久の時を以てしても、未だに解呪はならないか。否、その呪いはより一層進み、脳髄までもを侵したか、と陛下は……」


 仰っております、とまで竜人に鬼族参謀は言わせなかった。

 彼は猛然と立ち上がり、絶叫する。



「我々苦難と努力の歴史を、ただ安穏と糞するだけの日々を積み重ねてきた貴様らが語るか!」



 会議は終わり、円卓上を舞台とした乱闘がはじまった。

 帯剣を抜き放ち、猛然と卓上を駆けて竜人に斬り掛かろうとする鬼族参謀を、横合いから飛び掛った獅子王が押し倒し、爪を立てることなく優しく、だが力強く押さえつける。

 だがしかし竜族の不用意な言葉に激怒したのは、鬼族だけではなかった。


 ギギギ、と翅を震わせながら、蟻族の代表たる蟻人が鬼族参謀と獅子王の横を駆けてゆく。得物はない。だがその外骨格に包まれた腕(前脚)は、それ自体が武器になる。

 もしも誇り高い竜族を他族が傷つけたら、大変なことだ。まずい、止めろ、と叫んで、自ら止めに入ろうとする参謀総長。だがその脇から、小人族の作戦参謀であり彼の部下でもあるエイリスが「クソトカゲ一発殴らせろ!」と叫びながら、卓上に足をかけたので、参謀総長は慌てて彼女の腰を抱き締めるように引っ掴んだ。


「なんだこの変態総長!」


「ふざけてる場合か作戦参謀! こんなことで魔族の大連合が崩壊してたまるかーっ!」


 もがく作戦参謀を押さえつけるように、参謀総長は老いた全身から力を振り絞る。

 ともすれば引き摺られそうになりながら、彼女の尻を額で押さえつけ、しがみついたまま自身の体重を重石に使って、彼女を絶対に行かせまいとした。


「ブブッ――ブッ!」


「おうっおうっ!」


 竜人目掛けて脇目も振らずに突進した蟻人は、目の前に転がってきた水棲勢力代表の海獣アザラシに躓いて、卓上に突っ伏する。

 これを見て、蟻人を援護しようと、咄嗟に立ち上がりかけた蟲族代表の大蜘蛛だったが、周囲の参謀達が素早くこれを押し止めた。

 また先程の鬼族の反駁を侮辱と捉え、普段から携えている一筋の槍を構えた竜人の前には、制止のために翼人族の代表者が大翼を広げて立ちはだかる。


「侮辱。悪い! 喧嘩。反対!」


「この変態総長ッ、いつまで尻に顔埋めてやがる!」


「獅子王閣下ッ、頼む退いてくれーっ! こいつを八つ裂きにしなければ気が済まん!」


 魔族陣営の弱点は、多種多様な勢力の連合体であることだった。

 彼らのもつ歴史は複雑であり、またその発生過程も、自然発生した竜族から、伝説の勇者が遊び半分で生み出した(とされる)鬼族や蟻族まで様々だ。不用意な発言、不用意な行動はすぐさまこうした騒動を生んでしまう。

 参謀総長は必死にエイリス作戦参謀の腰にしがみつきながら、事態が収まりつつあることを察して、ようやく安堵した。どうやら今回も大事にならずに済んだ、と。


 だが、募る憎悪や憤懣は、予想もつかないところで爆発するものだ。




◇◇◇




 やった。


 やったやった――護衛を引き連れて某所の地下通路を歩む、正統ユーティリティ王国第一王女ヴィルガイナは、心中で幾度となく呟いている。人類最後の王族としては相応しくないような、下品な笑みも止めることも難しい。あまりにも我慢ならず、周囲の付き人に「少しひとりになりたい」と告げてから、一人部屋でにやにやと笑い続けることもしばしばある。

 身勝手な賭けに勝利した彼女は、いまや全能感や達成感に浸りきっていた。

 ヴィルガイナにとって、戦争は自身が絶対権力を手に入れるまでの過程に過ぎない。

 正統ユーティリティ王国は、元々の魔族勢力圏から最も離れた位置にある人類国家であり、策謀を張り巡らす余裕が大いにあった。魔王軍と睨み合う他国に援兵を率いて向かった父が亡くなり、心労で母が倒れた時から、ヴィルガイナは蠢動をはじめた。

 前線への支援はそこそこに止め、余剰物資はすべて城塞都市アナクロニムズに蓄積する。近隣人類国家の滅亡、正統ユーティリティ王国軍の大敗、王都ユーティリティの陥落。その混乱の最中で、王女は次々と他の王族を謀殺し、他国から亡命してきた有能な人材を扼殺した。

 そして自分以外の有力者が消え失せた状態、最後の最後で王女は【勇者召喚】を起動。


 全ては再興した人類に君臨する、絶対権力者になるためであった。


 かつて大地を統一していたという大帝国は、召喚した勇者に国土を破壊され、王族も民も辱められたという「勇者伝説」がある。だがしかしヴィルガイナは、同じ轍を踏むつもりはなかった。勇者海野陸には、保険が掛けてある。更に掛けてゆくつもりだった。


 ヴィルガイナは、微笑んだ。

 付き人達は一斉に、「どうかされましたか」と穏やかな調子で尋ねる。彼らからみれば、王女殿下はいつもより弾んでいるように思えた。翠の瞳と、ふたつ巻きの長大な銀髪はいつにも増して輝いて見えたし、頬は少しばかり朱く染まっている。


「勇者に会えることが、うれしいのだ」


「そういえば召喚以来お会いしていない、と伺っておりました」


「うん」


 王女は、少しばかりの照れ笑いを浮かべてみせた。

 保険とは、これだ。彼女は心の中で笑った。健全な青年を繋ぎ止めるのに必要なのは、やはり美少女ではないか。彼の世話役に情報幕僚アーネを付けたのは、勇者海野を男女の情で手許に縛り付けるためであった。

 平和な世界から引き摺り出し、殺戮行為に従事させるのだから、心理的に不安定になるのは道理。そこで適当な異性と触れ合わせていれば、深い絆が芽生えるのも当然の成り行きであろう。子供でも生まれれば、もう元の世界に帰りたいとは思わないはずだ。

 今後は情報幕僚アーネだけでなく、次々と異性を送り込む算段をつけている。


 それどころか自身の身体さえも謀略の計算に入れている彼女は、自分が勇者海野と結ばれてもいいくらいだ、と考えていた。


 人類の救世主と人類唯一の王族。

 新たな人類統一国家の礎には、最高の組み合わせではないか?




 人類軍統合幕僚会議が設置されている地下施設、その外れの一室で海野はひとり食事を摂っていた。


 片隅には椅子や机が積み上がっており、どうやらこの部屋は物置として普段は使われているらしい。

 壁紙も張られていない土壁と石材の肌と、放置されたがらくたを見ながら、食べる食事はあまり美味とはいえない。


 小さな卓に出されたのは5種類の穀物から成る粥と、何の肉か検討のつかない焼肉、何の野菜か検討のつかない漬物。

 篭城戦の最中であるから、生野菜のサラダだとか、そういったものは期待出来ないようだ。


 粥はまあまあ美味しかった。


 彩りも豊かだ。

 白米を連想させる白、トウモロコシめいた黄金色、小豆そのものの赤、例えるなら粟か稗か、薄黄や濃黄もある――食事を運んできてくれたアーネが、退出前に教えてくれたのだが、正統王国の習俗では粥に用いられる穀物の種類が、身分によって変わるのだという。

 庶民は2種類、王国軍将兵や一般官吏は3種類、王国高官で5種類、王族が7種類。海野に供された粥は、5種類の穀物が用いられていたから、ここから自身が高官待遇だということがわかった。


 焼肉は味付けが薄い鶏肉、淡泊な塩味、といった感想しか海野はもたなかった(実際は海野が撃墜した翼竜の肉である)。


 輪切りにされた白い漬物は、食感こそ沢庵に似ているが、それよりもしょっぱいだけでたまったものではない。

 粥と一緒に頂いて、それでも食べきれない分は残してしまおう、と海野が思うほどだった。


 一番閉口させられたのは、木製のコップに注がれた水の不味さである。

 何故不味いのか理由は分からないが、風味を一言で表すなら、「土臭い雨水」といった感じか。


 しかし漬物の味、水の不味さはともかく、しっかり食事を摂らせてもらえるのだから、ありがたいと思わなくては。

 この食事も、防戦中の城塞都市内では上等な部類に入るに違いない。海野は、素直に感謝した。


 同時に、あの女騎兵――シュティーナには食事が与えられているだろうか、と思い当たる。


「どうですか、調子は」


 あとでアーネに聞いてみるか、とまで考えたところで突然部屋の扉が開き、そちらから声が掛けられた。次からはノックをお願いします、と言いかけて、扉を叩く風習などこちらにはないのか、と考え直した海野は、顔を上げて扉の方向を見る。

 ……そこには、王女がいた。


「殿下、申し訳ありません」


「謝ることはありません。こちらこそ貴重な休憩時間を」


 美しい銀髪をふたつに分けて巻き下ろした所謂ツインドリル、こちらの世界で初めて見た魅力的な翠眼、慈愛さえ感じさせる微笑み、白無垢のドレス。極めて不利な情勢を感じさせないその外見と凛々しい姿勢に、海野はつい見惚れてしまった。


「きょうは是非、お話したいと思いまして」


 止める間もなく、王女は隅に置いてあった椅子を持ち出すと、海野のすぐ隣に着席してしまう。それも肩が触れ合うか、触れ合わないかくらいの距離にだ。咄嗟に自身の椅子をずらして距離を取ろうとする海野だったが、王女の「もしも不快でしたら、仰ってください」という言葉と、微笑みが翳るのを見ては、もはや微塵も動くことが出来ない。

 海野は、酷く緊張した。

 ただ異性と近距離にいる、という状況に対して緊張したのではない。相手は王族、住む世界が違う人間とふたりきりで隣り合っている状況で、何を話していいのか分からない、失礼にあたることは出来ない、そういう意味で緊張してしまっている。


 一方で王女は固まった海野の姿を見て、やはりこの戦略間違ってはいない、と確信していた。ここで勇者を墜とす。そして永遠に、あるいは不要になるまで自身の手駒にしてみせる。

 にや、と思わず薄ら笑いを浮かべた王女は、次の瞬間海野を押し倒さんばかりの勢いで抱きついた。




 ある種のずれ、認識の違い、勘違いに気づかないまま、全ては進行してゆく。

【正統ユーティリティ王国】


 勇者海野を召喚した王女が王位に就くと、彼女は第144代正統王となるが、彼らは歴史を数字と共に語ることをしないため、この正統王国が建国から現在までどれくらいの時間を生き永らえて来たかは不明である。

 ただ人類国家群の中では、最も長い歴史をもつと考えられている。

 事実、古今東西の伝承・伝説や遺物の蒐集量、また【技能】開発に必要となる魔力操作の研究では、他国をおおいに優越しており(このあたりが、【勇者召喚】成功の要因であろう)、未だ魔族が大連合を果たす以前(数多くの人類国家が平和を謳歌した時代)は、相応の発言力をもつ国家であった。

 ただしその実力(軍事力等)は、特別他を圧倒する程のものではなく、やがて始まった魔族・人類間の絶滅戦争において正統王国は、他国家に「後方から前線を支援する中堅国家」としての働きを求められた。


 開戦直後に在位にあった第143代正統王は、その期待によく応え、編制した救援軍を率いて前線で戦ったが程なくして戦死。

 妃は心労に倒れ、また他の王族が相次いで「不運」に見舞われる中、続いて指導者となった正統ユーティリティ王国王女は戦略を転換。


 以降、正統ユーティリティ王国は、自国防衛を第一に考える利己主義の下に動き出す。


 前線国家へ送られるはずであった支援物資は、全て城塞都市アナクロニムズ強化に費やされ、また正統王国は、近隣国家、自国領土、人類軍将兵、王都ユーティリティ――持てる全てを時間稼ぎに利用し、そうして獲得した時間を、『勇者伝説』の分析と【勇者召喚】完成に費やした。





【城塞都市アナクロニムズ】


 正統ユーティリティ王国及び人類陣営が所有する最後の拠点。


 人類史上最も堅牢な城塞であり、街壁や堀のような旧来有効とされてきた防御施設のみならず、現代戦に対応する形で砲爆撃に堪え得る地下施設が市内に張り巡らされている。


 異種間大連合を成立させた魔族陣営と、人類国家の小競り合いが始まった時期は、「魔族勢力圏から最も離れている一地方都市」に過ぎなかったが、その後正統ユーティリティ王国王女が指揮を執り、敗戦を重ねる他の人類国家を尻目に、要塞化が進められた。

 王女は魔族勢力圏に接する前線国家への支援を渋り、本来援助に送られるはずであった建材や武器、備蓄用の食糧の殆どをこの都市に注ぎ込んだのである。

 他の人類国家の高官達は、これに気づかないはずがなかったが、抗議をする間もなく多くが魔族との抗争の最中に生命を落とし、あるいは生き残った者も、最後には正統王国に亡命した為、表立って王女が糾弾されることはなかった。


 城塞都市アナクロニムズが収容する人口は、公称4万(前線将兵は僅か4000名程度、他は民兵・非戦闘員)であるが、実際には滅亡した近隣国家からの避難民を無秩序に収容している為に、実数はその倍とも、それ以上とも言われている。




【王都ユーティリティ】


 かつては正統ユーティリティ王国の首都であったが、現在は魔族陣営の占領下にあり、王都中央に位置する王城には、城塞都市アナクロニムズ攻撃のために、魔王軍参謀本部が進駐。

 また城塞都市を包囲する前線部隊を支援する後方部隊や、戦略予備として温存されている部隊が駐屯していることもあり、今や魔族陣営の軍都といった様相を呈している。

 元々第40代正統王の御代に、100万都市を目指して設計された関係もあり、一方面軍を収容するだけの能力がこの都市にはあった。


 この王都ユーティリティは、凄惨な市街戦の舞台とはならなかった。

 防衛戦を念頭に手が加えられた城塞都市アナクロニムズとは異なり、王都ユーティリティは、市民の居住性や交通に、最大限便宜が図られるよう設計が為されており、外周を囲む街壁や防御施設が存在しない。むしろ市内に張り巡らされた下水道等、攻め手に利用されやすい施設が多く、防衛戦には向いていない為、散発的な戦闘の後に放棄された。

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