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7.女騎兵、勇者に死を懇願する。

 あ、また墜ちたぞ、と空を見上げる兵士が叫ぶと、同じく目を眇めて上空を飛び交う黒点を見つめる兵士や、市民達から歓声が上がった。

 雲の真下にあった黒い影は、力なく降下を始めたかと思うと、みるみる内に加速して墜落。

 視界の下辺――建物の影へと、隠れてしまう。


「もひとつ墜ちた!」


 大空を舞台に繰り広げられる、点と点――勇者と翼竜騎兵達の決闘は、城塞都市の人々にとっては良い見世物であった。

 かなり短い時間で、1騎、また1騎と、散々辛酸を舐めさせられた翼竜騎兵が面白いように撃墜されてゆくのだから、気持ちがいい。

 視力のいい兵士は、「いまこうやって、あの騎兵はやられた」だとか「あの雲の下にいるのが勇者だ」と、周囲の連中に説明してやっている。

 王女の演説終了直後に現れた翼竜騎兵の編隊に、最初は避難した彼らだったが、爆撃がないことを不思議に思って外を覗いてからは、ずっとこうして空戦を眺めていた。


「おッ、またやったぞ!」


 数秒前から勇者海野に追いかけられていた翼竜が、海野の放った【誘導魔弾】の直撃を片翼に受けた。翼膜が滅茶苦茶に破け、関節が出鱈目な方向に曲がり、翼は用を成さなくなる。激痛に悲鳴を上げた翼竜は、完全に揚力を失うと、騎兵と共に大地目掛けて最後の飛行を始めた。

 地上での暢気な雰囲気とは違う、殺伐とした世界が空にはあった。

 飛翔系の技能を操る海野と、大空の支配者たる翼竜はレシプロ戦闘機と同等の速度(時速600km前後)で、激しい空中戦を繰り広げる。

 速度では、両者互角か。

 機動性では魔力噴射ですぐさま体勢を変えられる海野が有利だが、数は翼竜騎兵の方が優っている。この魔族側の数的優位は、海野を酷く苦しめた。


「グレーシアン、クルルップッ! 俺について来い――上方から殺る!」


 全方位からほとんど同時に襲い掛かる翼竜騎兵に、海野は忙しなく対処しなければならない。

 海野の頭上遥か高空を飛んでいた翼竜騎兵の一個小隊(4騎編成)が、魔弾を撃ち放ちながらの急降下攻撃。翼を折り畳み、一筋の槍と化した翼竜と騎兵の攻撃を避けるべく、海野は前方へ急加速して難を逃れる。


「勇者ッ、勝負!」


 だが前方へ抜きん出たところで、海野は前方から突っ込んで来る翼竜騎兵に気づく。どうやら馬上槍試合が如く、彼は【技能】による真正面の撃ち合いを望んでいるらしい。翼竜騎兵の槍先から、数発の魔弾が発生するのを見た海野は、十数発の魔弾を放ってこれに対応した。

 お互いの魔弾が激突して小爆発を起こし、あるいは交錯する。

 魔弾に遅れること数秒。翼竜騎兵が放った魔弾を全弾防御した海野と、翼竜とがすれ違ったときには、既にその背に騎兵は乗っていない。直撃弾を複数発貰った騎兵は、既に遥か低空へ落下しているところだった。

 それを確認する間もなく、首を捻って翼竜騎兵4騎(先程急降下してきた連中)が後方から追い縋ってくるのを見た海野は、すぐさま複数発の魔弾を撃ち放ち、即席の弾幕を張る。

 素早く散開し、弾幕へ突っ込むのを避ける翼竜騎兵達。

 その一騎一騎を注意深く見つめていた海野は、上昇機動を取った翼竜騎兵目掛けて必殺の【誘導魔弾】を放り投げた。

 弾幕を避けるべく重力に逆らい、上空へ逃れようとした翼竜の速度は、当然減速しており、そんな状態では【誘導魔弾】を振り切ることは出来ない。【誘導魔弾】は翼竜の腹膜を突き破り、肉体を完全に貫徹した後、跨乗する騎兵の下腹部を粉砕。更にもう一発、駄目押しの【誘導魔弾】が翼竜の右翼を貫いたあたりで炸裂し、翼竜と騎兵をただの肉片へと変えてしまった。



「地上本部、騎兵団長! 駄目だ、まったく歯が立たない!」


 また一騎、また一騎と墜とされてゆく。

 勇者と部下の戦闘から距離を置き、戦況を眺めていた第1翼竜騎兵団の飛行長は、指揮を執る地上本部へ撤退を提案していた。明朝攻撃に向かった第2翼竜騎兵団は、おそらくこいつにやられたのだろう。第2の36騎を文字通り抹殺し、1騎たりとも帰還することを許さなかった相手に、第1翼竜騎兵団36騎が勝てる道理がない。


「……名誉、面目だと? まだそんなことを言っているのか! 敵は従来の魔導兵じゃない――本物だ! 第3、第4の連中や地上部隊と協同しなけりゃ――」


 撤退命令を渋る地上本部と口論していた飛行長だが、次の瞬間には顔面の下半を失い、続けて胸部にもう一撃、魔弾を受けて絶命した。

 彼の生命を刈り取ったのは、海野の狙撃だった。戦闘から距離を置いているのをいいことに、緩旋回をしていた彼は、海野からしてみれば絶好の標的でしかない。海野の狙撃系技能と【誘導魔弾】の組み合わせが、常識では考えられない距離での攻撃を可能にしていた。



「飛行長、戦死! 以降はこの私が指揮を執る――亡き飛行長の命令を遵守し、全騎は即時退避せよ!」


「中隊長どの、そんな命令は一切――」


「黙っていろ。我々は飛行長より、既に撤退命令を受けていた。そうであろう?」


 残された十数騎を取り纏める新たな飛行長は、早くに決断した。戦死直前に前飛行長が撤退命令を下した、という筋書きをつくって体裁を整え、迅速に戦闘空域を離脱してゆく。

 平の騎兵達も仕方なく、それに続いた。

 36騎の戦力でぶつかった際に墜とせなかった敵を、十数騎しか残っていない現戦力で墜とせるとは思えない。

 撤退は心情的にはともかく、戦術的には何も間違っていなかった。


 海野は、これを追撃することはない。

 彼の身はひとつしかない以上、城塞都市上空を離れるわけにはいかないからだ。

 出来ることならば追跡して連中の策源地を叩きたいな、などと思いながら、海野は緩旋回して速度を殺しながら、ゆっくりと市街へ下りてゆく。



「勇者ッ、よくやったぞ!」


「王女殿下の勇者、大勝利!」


「クソトカゲども思い知ったか!」



 勇者海野を迎えたのは、喝采だった。

 この世界の人々は、喜びを全身で表現するらしい。掌で腿を叩き、足を踏み鳴らして靴音を立てる。どこから現れたか、汗臭い老若男女が勇者が着地した通りに溢れ、感情を爆発させた。

 彼らはどちらが勝ったか、よく分かっている。

 先程からずっと降り注いでいた血肉が、勇者勝利の証だった。

 面食らったまま、海野は何も言えない。この人達を救うことが出来たのだ、という達成感よりも先に、もっと早く、あるいはもっと上手く俺が戦っていれば、より多くの人を救うことが出来たのかもしれない、といった思いが脳裏をよぎる。

 だが人々は、勇者の苦悩など分からない。

 彼らは無遠慮に海野の肩を叩き、口々に感謝と祝福の言葉を述べてゆく。


「おっ、そうだ! お前ら勇者に見せてやれ!」


 流石に海野も辟易としてきたあたりで、甲冑に身を包んだ兵士が市民の群れに怒鳴った。海野を取り囲む幾人かの兵士は、「是非見てもらいたいものがある」と笑顔で彼に告げる。

 態度や表情から察するに、彼ら市民にとって相当面白いものらしい。

 ともかく海野は、しばらく留め置かれた。


「勇者様、どうです! 見てくだせえ!」


 人垣を割って現れたのは、胴体に何本もの杭を打ち込まれた魔族の死骸だった。

 どす黒い血で染まった身体と、不恰好に飛び出た杭。とても見ていられず視線を彷徨わせた海野は、滅茶苦茶に潰された顔面や、指を切断され団子状になった手足を見た。剥きだしになった素肌には、数え切れない切り傷がつけられている。これが魔族の何族か、まったく想像出来ないほどに、それは辱められていた。


「これは……なんだ」


「勇者様と騎兵の戦いの最中、こいつだけは空中でやられた後、不時着に成功したんですわ。そこで俺たちはこいつをひっ捕まえて、よーく懲らしめてやったんです」


 日焼けした顔面いっぱいに、無邪気な笑みを浮かべている中年兵士。

 周囲の兵士や市民も、達成感に満ち溢れた様子でいる。


 ……そんな彼らに対して、海野は「取りこぼしを殺してくれてありがとう」と言うのが精一杯だった。

 お前たちには人の道がないのか、戦いが終わればみな同じ生き物だ、と元居た世界の感覚でなじるのは簡単なことだが、この世界には捕虜の扱い等を定めた約束事が存在しない。

 ただでさえ無差別殺戮で苛立ちを募らせているのだから、そんなことを言っても仕方がない。かつての日本でも先の大戦時には、不時着した操縦士に市民が私刑を加え、殺害してしまった事例があることを、海野は知っていた。


「今後もみんなには迷惑を掛けるだろうが、我慢してくれ」


「いやいやそんな! 勇者様に……」


「申し訳ないが、この後王女殿下や人類軍統合幕僚会議と打ち合わせがある。失礼する」


 海野はまだ何か言いたそうな、あるいは余興を残していそうな兵士らに口早に挨拶すると、飛翔系の技能で空へ舞い上がり一路、情報幕僚アーネの元へ向かった。

 今朝捕獲した女騎兵が、どんな目に遭わされているか分かったものではない。海野は集団私刑で殺された騎兵を見て、まず金髪碧眼の彼女のことが気にかかってしょうがなかった。

 同時に彼は、自己嫌悪にも陥る。

 自身の手を汚すのが嫌、とか高尚な理由ではなく、ただ刃物で肉を貫く感覚が嫌で、女騎兵を殺さず、拷問に掛かる可能性も分かっていて捕らえた。だが実際にその彼女が、非人道的な環境に置かれているかもしれない、と思い当たるや否や、様子を見に行きたくなってしまう。……わがままというか、行き当たりばったりというか、自分の行動に一貫性がないではないか。


 だが人々は、勇者の苦悩など分からない。

 彼らは勇者海野の姿が見えなくなるまで手を振り続けていたし、見えなくなった後は墜死した翼竜の死骸を解体し、焼肉にして祝宴を催した。




◇◇◇




 海野の頼みに情報幕僚アーネは別に不快な顔もせず、女騎兵が捕らえられている地下収容所へ彼を案内した。

 ただ彼女は、釘を刺すことも忘れない。

 あまり面白いとは言えません、捕虜は情報を吐き出させたあと殺す、そういう処遇が慣例ですし、最初から交渉に使わないことが前提なので情報を引き出す係の者は、好き放題やりますので。……アーネは特に嫌悪感もなく、事務的な口調でそう海野に告げた。


 何の変哲もない小道の片隅にある蓋をはね開け、その下にある地下収容所への階段を下り始めると、まず吐瀉物や排泄物の臭いが鼻につく。

 アーネは慣れているのか表情を崩さないが、海野にはまだ辛い。階段を下り終え、幾つかの牢と面する廊下に足を踏み入れた時には、その異臭は更に強いものになっていたが、不思議と血の臭いはしなかった。


「これは……」


「悪臭は全て捕虜のものです。血の臭いがしないことを不思議に思ったかもしれませんが、係の者は刃物や鈍器といった野蛮な物を尋問に用いたりはしません。貴重な捕虜を失血死させることがあれば、それは大きな過失です」


 廊下を進むと左右に設置された牢へ嫌でも視線をやってしまうが、そのすべてが空であった。掃除も行き届いている。捕虜収容所と言えば「汚い」「暗い」、というイメージがある海野にとって、これは意外だった。

 この世界の衛生・医療に対する知識がどの程度かは知らないが、おそらく捕虜の健康を不用意に害さないためなのかもしれない。

 もしかすると現在この地下室に収容されているのは、例の女騎兵だけか、とぼうっと考えながら歩いていると、廊下の突き当たり、一番奥の牢の中から、ひとりの男が現れるのを海野は見た。


「お久しぶりです、アーネ・ニルソン情報幕僚。そしてお初にお目にかかります、海野陸勇者。私、係の者です」


 この都市の人間としては珍しい、少し太った中年男性がこちらに挨拶する。

 こざっぱりとした無地のローブを纏っているが、どうも彼の姿勢は胡散臭い。海野はとりあえず、どうも、とだけ返事をした。

 一方のアーネは彼の挨拶を無視したまま、海野に耳打ちする。


「彼がここを執り仕切っている係のものです。私は外で待っています。ここからは、彼が案内してくれます」


「はあ」


 返事をするなり、アーネは元来た道を引き返し、さっさと地上へ戻ってしまう。アーネが彼に挨拶を返さないのには、何か理由があるのか。ちょっと想像だにしない展開に海野は面食らったが、例の係の者が「こちらです」と手招きしているのを見て、覚悟をして彼に走り寄った。


「アーネ情報幕僚より、お話は全て伺っております。……勇者様には、ちょっと刺激が強いかもしれませんが」


 海野をまじまじと見つめ、苦笑いを浮かべた尋問係は、親指を立てて傍の房を指した。そこに女騎兵が収容されているのだろう。

 遅れて覗き込んだ海野は、そこに異界を見た。


 牢の中は、吐瀉物と排泄物に塗れていた。


 床だけではない。壁の一部にはべったりと黄褐色の汚物がなすりつけられており、覚悟を固めていたはずの海野を一瞬怯ませる。血痕や拷問具はみられないが、この光景は彼にとって想像の斜め上過ぎた。

 ここで、何をした? そう傍らの男に問い質そうとした海野だったが、その前に鉄格子の向こう側から声がした。


「お、おまえ……」


 隅には裸に剥かれた女性が、身を丸めて横たわっていた。

 既に凛とした声調は弱弱しく枯れきったものになり、あれだけ殺意を放ち輝いていた碧眼はいまでは暗く澱んでいる。

 これを見た海野は、背筋が凍る思いだった。本当に、何が行われたのだ? これが1ヶ月2ヶ月と監禁された捕虜なのだというなら話は分かるが、現実には彼女が捕獲されてから、まだ数日しか経っていないのに。


「おまえ……おまえ」


 女騎兵はぼうっと海野の方向を見ていたが、遂に自身を捕らえた人間だと認識したのであろう。突然叫び出すと、彼女は野獣めいて四つんばいで走り出し、鉄格子を引っつかんで懇願した。




「だのむうううううううわたじをころじてぐれえええええええ」




 無様だった。

 海野の目の前で、女騎兵は涙や鼻水や涎を垂れ流しながら死を懇願した。ショートカットの金髪、その前髪からは小便さえ垂れている。彼女はまるで駄々でもこねるように、鉄格子を引っ張ったり押したりしながら、海野に頼み込んだ。一生懸命だった。必死の形相で、彼女は死を懇願した。

 何を言えばいいか分からない海野の代わりに、横合いから怒声が飛んだ。


「うるせえぞ! 勇者様がお困りだろうが!」


 尋問係の叱責と同時に、女騎兵の懇願は絶叫へと変わった。

 鉄格子の前で崩れ落ち、頭を抑えながら仰向けで七転八倒しはじめた彼女は、意味もない言葉を叫び続ける。そして少しでも尋問係と勇者から離れるためか、その身が汚物に塗れることにも頓着せず、彼女は奥へと転がり始めた。

 女騎兵が離れたことで、余裕を取り戻した海野は尋問係に質問する。


「これは、どういうことですか。彼女に、何を?」


「こいつは頭の中――神経というんですか、それを弄る【技能】ですよ。自害も禁じ、苦痛で弱らせて尋問するのが、私の仕事です。……勇者様は、残酷なことをするとお思いですか」


 微笑を浮かべたまま、自分の頭を小突いてみせた尋問係は、海野に対して逆に質問を返す。

 この光景を見て、残酷でない、と思う人間がいるだろうか。海野は内心そう思いながらも、あまり尋問係の気分を害したくはなかったので、「いや、まあ」と曖昧な返事をしてみせた。

 だが流石は、尋問を仕事にしているだけのことはあるか、それともこうした汚れ仕事に就いているからこそ敏感なのか、尋問係は「正直に仰ってもらって結構です」と言い切り、それだけでなく海野の意図も見透かした。


「召喚に応えた勇者様は、この世界のお人ではないとお聞きしましたが、勇者様の世界でもこの世界でも、拷問は苛烈かつ陰惨だと思います。これを残酷だ、と思わない方がどうかしている。勇者様は、大方この女騎兵を助けに来たのではないですか」


 意地悪そうな笑みを浮かべていた尋問係に対する第一印象は、最悪だっただけにこれほど話せるとは意外な思いだった。人は見かけによらない、と外見で判断することの愚かさを痛感しながら、海野は尋問係に正直なところを話した。


「そうです。私は彼女が、酷い目に遭っているんじゃないか、と気になって。仮に拷問に遭っているなら、それをもう少しまともな待遇に出来ないか、と思ってここに来ました」


「なるほど。アーネ情報幕僚からお聞きになっているかは分かりませんが、私の裁量で彼女の処遇は変えられます。……ですが、私もこの仕事に誇りをもっている。花形の前線職とは違う汚れ仕事、社会的な評価も低いですが、彼女のような捕虜から情報を引き出すことで、戦死者が減り、人類勝利に少しでも貢献出来れば、と考えていつも尋問をしています」


「駄目、ですか」


「いえ。条件があります――勇者様には、彼女から得られる情報分だけ働いて頂ければ。つまり彼女のもつ情報で得られる勝利よりも、多くの勝利を収めて頂きたい。もしそれが出来なければ、彼女を苛め抜いて情報を得た後、市民の好きにさせます」


「わかった」


 即答だった。

 自身の行動が自分勝手なものだ、ということは自覚していたし、ただ窮地に陥っている女性を助けて、自分は英雄面したいだけなのではないか、と海野は思っていたが、それでも条件を呑めば一個の人間――に準ずる生命を救うことが出来る。

 しばらく海野の目を見つめ返していた尋問係は、納得したように頷くと素早く鉄格子の向こうへ怒鳴った。



「おいッ! 女ァ――シュティーナッ、尋問は終わりだ! お前を牢から出す!」



 この瞬間、海野に関わる物事が、ひとつ決定付けられてしまったことに彼自身は気づいていない。

 女騎兵シュティーナの身柄は海野が自由に扱えるようになったが、その代わり彼には「戦わなければならない借り」が出来てしまったのだ。尋問係との口約束とはいえ、シュティーナがもつ情報によって得られたであろう戦果を、勇者海野は獲得しなければならない義務がこの瞬間生じた。


 女騎兵シュティーナは、勇者海野にとっての実質的な人質となったのだ。

 アーネの膝の上で「戦うことに抵抗を覚える」と弱音を吐いたように、彼は戦いを拒否することを少なくとも当座、出来なくなってしまったのである。


 これが仕組まれたものかは、分からないが。

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