戦闘後、そしてギルドへ
超能力が扱えた俺は、元の世界では“超兵士”と呼ばれる、簡単に言えば“超能力が使える兵士”をやっていた。
それ故に、能力無でも一般人よりは剣は振えるし、戦闘力もあると確信している。
だからこそ、オークの襲撃と聞いて迎撃に参加した。
けれども、アイランさんはそんなこと知らないのだ。
「あの、アイランさん…… なぜここに?」
「治療に決まってるでしょ? それよりアナタこそなんでこんなところにいるのかしら?」
おそらくアイランさんは俺のことを普通の少年だと思っている節がある。
……まあ、初対面でイクスボンバー? とかいう名前からして、妙ちくりんな魔法にぶっ飛ばされる奴だから当然か。……頑張ったんだけどなあ、俺。
「はあ、いや、あの。なんか急に町が襲われるっていうから、反射的に……」
俺のその言葉を聞いて、アイランさんが頭の上に?マークを浮かべる。
「反射で戦っちゃったの? ……すごいわねぇ」
「いや、なんというか、すみません」
「まあ、謝ることはないわ。いやでも、少しはあるわね。……でも、ちゃんと生きててくれたし、町を守るために戦ってくれたんでしょ? ……まあ、それならいいわよ」
アイランさんとそんなやりとりをしていると、俺の頭の上に何者かの手が置かれた。 ……アイランさんの手だった。これもアイランさんのスキルなのか、アイランさんの手は温かくて、癒しをあたえられる。なんというか、気持ちいい。これが、魔法の力か。
「おい、そこでエロ展開やってる二人」
そこで、ディアックさんの投げやりな声が掛かる。エロ展開ってなんだよどこがエロいんだよ?
「俺にはそういうことしてくれないの? 赤の他人どうしだろ?」
「……あ! シュピー君! そこすりむいてる! 治療してあげるわね!」
「おい!」
ディアックさんがニヤニヤしながら話しかけると、アイランさんがこちらに話をすりかえてきた。 俺は終始無言で眺めていたけれども、アイランさんに手をとられてよく見るとそこには俺でも気づかなかった小さな傷があった。 とっさに話をすりかえたにしては良く気づいたなぁ。 というか、シュピー君てなんだよ。
「うーん。 これは魔法でやるほどでもないわね。 包帯を巻いておくわ。 一日二日でとれるようになるはずよ」
「おい! おーい!」
アイランさんはディアックさんの言葉を無視して俺に包帯を巻いていく。 バンソウコウかなんかはないのか。
俺に包帯を巻き終えたアイランさんはディアックさんの方に向き直った。
「……あなたも一応治療してあげますよ。 ……神は平等ですからね」
「なんだよおい、一応ってなんだよ!」
アイランさんの言葉にディアックさんが声を張り上げた。
そんな一幕もありながら、今俺は町を歩いている。
あの後、ディアックさんが、
「しかしまあ、かなりいい腕をしているな」
「セクハラですっ!」
「回復魔法の話だよ!」
なんて会話をアイランさんと繰り広げるなんて一幕もあったけれども、そんなことはどうでもよく。今俺は歩いている。
どこにかといえば、ギルド。冒険者ギルドにだ。
メミルの「カードが無いと捕まる」という言葉に赴いて、神殿で冒険者カードを作る気持ちでいた。けれども、その盲を聞いたディアックさんがこんなことを言い出したのだ。
「あのなぁ、身分証がないから捕まるって、んなもん顔が割れた凶悪犯くらいしかありえねぇよ。そんなもんじゃあ役所もギルドも神殿もないお田舎さんは即捕まっちまうぜ?」
「顔割れ凶悪犯は身分証があっても即捕まりますけれどね」
「まあそうだな」
アイランさんもそんな風に続けた。
しかしまあ、異世界の凶悪犯罪者は顔が割れてしまうみたいだ。さすがファンタジー世界。マンガで時々ある十文字割れとかなのか。
なんて一瞬思ったけれども、あれだ、顔割れって顔バレの方か。
まあ、そんなこんな一面があったものの、結局はカードを作ることになった。
身分証はやはりあった方が良いというのは二者で意見が一致していた。
ちなみになぜ神殿ではなく“ギルド”に向かっているのかというと、単に冒険者を目指すためだけではなく、アイランさんの「神殿でも身分証は作れるけど、“儀式”受けなきゃいけないから大変だよ?」という言葉があったからだ。
ディアックさんも「そうそう、どうせならギルドで一括してもらっちゃった方がいいぜ」と同意していた。ちなみにお役所は、「堅苦しそうなので」と、議論の価値なく却下。少しかわいそうだ。
「さあ、ここがギルドよ。 受付で登録してもらえるわ」
ディアックさんとアイランさんに案内されて、ギルドまでやってきた。 ギルド内では“冒険者”達がテーブルで和気藹々とやっている。 よく見ると、さっきまで“オーク”達と戦っていた人たちもいるみたいだ。 カウンターの方を見ると、受付のうちの一人のお姉さんがこちらの方を見つめていた。 そこに向かう。
「あの、冒険者登録と、身分証の発行をお願いしたいんですけど」
あんまりからまれたくない。手早くお願いしよう。
「え、あ、はい、わかりました。冒険者登録時の冒険者カードが身分証になりますので、そちらを身分証としてご利用ください」
受付のお姉さんが応答する。すこし待っていてください、と言って奥の方に引っこんでいった。
「これに名前を書いて、血をつけてください。その後のことはそれが終わってからいいますから」
そう言われ、俺はカードを渡された。それと、名前を書く用のペンと血をつけるための小型ナイフも渡される。
俺はそれを受け取ると、ナイフで自分の指を浅く切り、血をカードにつけた。 だけれどもその途端、後ろのアイランさんが突然それなりの大声をあげた。
「ちょっと、シュピー君、なにやってるのよ! 先に名前を書かないと……」
「あの、少し静かにしてくださいねアイラン」
受付嬢にアイランさんがそうたしなめられる。 アイランさんが、「うっ」とでも言いたそうに手をあごの辺りに回した。
「あう。 ごめんなさいね、クリス。でもこれじゃあ書けないじゃない! 両利きなら別だけど……」
俺が自分の手を見ると、俺の利き手の右手からは血がしたたり落ちている。 これでは名前など書けそうにない。
――だけれども、これが俺の狙いだ。
「……失敗しちゃいましたよ。 アイランさん、かわりに名前、書いてもらえません?」
俺がそう言うと、アイランさんが「もう、しょうがないわねぇ」と言いながらペンを持つ。 けれどもその途端、
「残念ですが、名前の記入は本人が行わなければいけません」
受付のお姉さんがそう言い、俺のことを見た。 そしてその後アイランさんの方には「そんなことも知らなかったのですか?」とでも言いたそうな顔を向けた。
――なんてこった。
仕方がないので、血が垂れないように受付のお姉さんからハンカチをもらって血をたれないように指に巻きつけながら、カードに名前を記入した。
そうして出来上がったカードを見て、アイランさんと少し空気だったディアックさんが小さく声をあげた。 受付のお姉さんは何も言わずにカードを凝視している。
俺の渾身の力が込められたカード。そこに書かれた字は……
「独創的ですね」
「独創的だな」
「ア、アギ、ル? シュピーゲ? ル?……」
――――ひどく、独創的だった。
つまり、へったくそだってことだ。