モンスター襲撃、初戦闘
裏通りを飛び出した俺は今、アイランさんの神殿を目指して歩いて―― いや、走っている。 はやくしないと通報されるかもしれないからだ。役場はどこかわからないし、冒険者になるつもりもないからギルドにも行けない。 もう一度神殿に行くのもアレだけれども、背に腹は代えられないってこういうことだと思う。
しかし。 そうしてしばらく走り続けていた時、突然町のはずれの方から鐘の音が聞こえ、それから何かが迫ってくる音が聞こえ始めた。
「なにが始まるんです?」
なにかの芸が始まるのかと思ったので、俺は立ち止まっている道行く人にそう声をかけた。 だけれども、返ってきた言葉は……
「モンスターの襲撃だよ! 子供は早く逃げな! 喰われるぞ!」
「なんですって!?」
子供扱いされていることより、モンスターの襲撃の方が俺の気を引いた。やはり魔法があるファンタジーっぽい異世界。モンスターもいるらしい。
彼は「子供は早く逃げな、喰われるぞ」と言った。つまり、町にモンスターが辿りつけば……
「……行こう。戦う」
「お、おい!? ちょっと待てよ!?」
俺はその通行人の制止の言葉を振り切って音のする方、つまりモンスター達が向かってきていると思われる方向へと向かった。
しばらくすると、また今度は違った声が聞こえてきた。
「オ、オークの群れだー!」 「逃げろ―!」 「にぃぃぃげろぉぉおおおおお!」
……オーク? まあ、モンスターの一種なんだろう。 それが群れでやってきたというわけか。
よし、と俺が気合を入れたところで後ろから肩を引っ張られた。
「おい、子供は戦おうなんてするな! 戦いはカッコイイもんじゃない! 死んだら死ぬんだからな! こういうのは大人にまかせとけばいいんだ!」
そう話しかけられたので、その方を見ると、さっき俺が事情を聞いた通行人の人だった。 どうやら俺を追いかけるために走ってきたみたいだ。
「俺はもう15才ですよ! 戦える!」
「……! ……それでも、その恰好じゃ冒険者ってわけでもねぇだろ! 一般人は下がっときな!」
「俺は素手で3体のオオカミ撃退したんですよ! 少しぐらいはっ!」
「そうかい! そんじゃあお前が例の奴だな! だがまだ病み上がりだろうに!」
「行けますよ!」
通行人さんが止めようとしているけれども、俺は反論する。 向こうは俺のことを知っているみたいだ。
メミルさんめ…… 俺は出任せのつもりで言ったのに、すでにかなり“素手でオオカミ三匹を倒した”って噂はかなり広まっているらしい……
しかし走っているうちに町の門のところでまで着いてしまった。もうすでに何人かの冒険者が集まっている。 俺と通行人さん以外は鎧などを着込んだ“いかにもファンタジー世界の戦闘職らしい”恰好をしている。 あれが、“冒険者”なのか。普段着のようなのは俺と通行人さんの二人だけだ。
“冒険者”たちを見て、一瞬俺は足が止まったけれども、また走り出した。 それを見たのか見てないのか、通行人さんから声が掛けられる。
「……どうせやめろと言っても聞かないんだろ? だったらこれを貸してやるよ!」
そう言われ、通行人さんから剣が投げられた。 ちょうど俺の腕の長さくらいある剣だ。 両手で持つ用の剣だと思うけれど、俺なら片手でも持てるかもしれない。 と、思って掴んだのだけれども、その剣はずしりと重かった。 かといって使えないかと言えば、そんなことはないくらいの重さだ。“俺の体力面が制限されているのかもしれない”この世界なら、これが一番良いかもしれない。
俺が両手で渡された剣を持つと、それを見た通行人さんが剣が刺さっていた方の反対側の腰から杖を取り出した。ここに来たということはもしやと思っていたけれども、やっぱり彼も冒険者だったみたい。杖はちょうどファンタジー世界に出てくる魔法杖そのものだけれども、想像していたよりもかなりゴツい。 むしろ無反動砲とかのように見える。というか、本当にあれから魔法が?
「通行人さん、魔法使いなんですか?」
「おう、俺は遠近両用の魔法使い、だな。 弱い敵ならこのグレイトな杖でぶん殴ればノックアウトだぜ! 強い敵ならコイツの魔法をぶっ放す! それと、通行人じゃなくてディアック・ラエスタの名前で呼んでくれ!」
俺の問いに、通行人さんはそう答えた。 名前はディアック・ラエスタさんというらしい。 それに、ここでは本当に魔法が存在するみたいだ。
そんなこんなをしているうちに、モンスター達、つまりオークの群れの足音はかなり近づいてきていた。 俺とディアックさんの後ろからも続々と冒険者たちが集まってくる。 みんな鎧などを着込んだ完全装備。
冒険者たちは門から少し出たところで迎え撃つ作戦らしい。 剣持ちということで前衛の俺は最前線へと向かう。 それと、魔法使いのはずなのにディアックさんも前衛として俺の隣に来てしまった。
結局普段着っぽい服装なのは俺とディアックさんだけになってしまった。 後ろで方で冒険者たちの声が聞こえた。
「……おい、あいつら普段着だぞ? 大丈夫か?」
「ああ、足手まといにしかならないんじゃないのかね?」
まあ、こんだけフル装備な冒険者の中で二人だけ普段着じゃあそう言われるのも仕方ない。 というか私服で出撃なんて、軍隊なら処刑されても文句は言えないだろう。
そう思っていると、隣から大声がした。 ――ディアックさんが大声をあげていたのだ。
「おい、お前ら、俺の隣のコイツは素手のオオカミ殺しだ! コイツには俺の剣を渡してある! 戦力に関してはこの俺が保証しよう!」
ディアックさんがそんなことを言っている。 カッコイイと言えばカッコイイけれども、正直ハードルが無駄にあがっただけだ。 そもそも出任せだし、まだこっちの世界で自分の体がどのくらい動くかも正確にわかっていないのに! 言ってしまえばキャラや武器の下方修正後のオンラインゲームでいきなり超高難易度ミッションをやらされるようなものだ。 ……まあこの世界はファンタジーゲームの世界に似ているから割と間違ってなかったりするかもしれないけれど。
そんなことを考えていると、ディアックさんの言葉を聞いたらしい後ろの方の冒険者たちからまたしても声がした。 ……かすかに。
「あ、アイツ…… もしかして“誤射のディアック”か!?」
「マジだ…… トラップにはまったパーティメンバーと、なんとなくトラップに近づいて仲良くひっかかったあの“仲間想い(笑)のディアック”だよ……」
「アイツが保証ってことは、隣の奴もたいしたことないんだろうなあ」
「ああ、オオカミを三匹素手で撃退なんて、俺だってそもそも怪しいと思ってたんだ……」
……あれ? なんだか話が変な方向に……
もしかして、ディアックさんてここらへんでは結構有名な“変な人”なのか!?
というか、そのせいか俺まで下方評価されてしまったみたいだ。
――なんだか少しずつジワジワとムカついてきた。 ここは暴れまくって俺が強いところを見せよう。 過小評価は超能力者のプライドが許さない。
……さて、いよいよオークの群れが近づいてきた。 俺は剣を構えて臨戦体勢をとる。 他の冒険者たちも同じだ。 当然ディアックさんも。
モンスター…… オークの数は、約40くらいか? 結構多いけれど、今ここにいる冒険者たちの数はざっと20人くらい。 冒険者たちの実力は知らないけれど、ひとり1、2体ならそこまで難しいノルマではないハズだ。 オークがよっぽど強いなら別だけれども、冒険者たちの間には強敵を相手にする前の負のオーラは出ていないから大丈夫なんだろう。
そんなことを思っていると、おもむろに隣りのディアックさんが杖を振りかざし、何やら呟いた。 するとオークの群れの先頭部分が爆発した。 10匹くらいのオークがそれで吹っ飛ぶ。 爆発の魔法? よくわからない。 とにかくわかることは、それを皮切りに冒険者たちが突進し、戦闘が開始されたってことだけだ。 ……待ちかまえるんじゃなかったんですかね。
とりあえず周りの人が突撃したので俺も戦果を挙げるために前に出た。
オークたちはある程度まとまってはいるけれども連携はとれていない。 バラバラだ。 一匹、いや一人か? ……人殺しはしない。 一匹だ。 一匹目を切り裂いた俺はそのまま動揺している二匹目の首を半分抉り取る。 そのままジャンプして三匹目の頭をスイカ割りのようにカチ割り、囲まれそうになったので後ろに回り込んでいた四匹目を振り向きざまに切ってから一度下がった。 とりあえずノルマは軽々達成。
たまたま近くにいたディアックさんが「これじゃあ魔法が撃てねぇ」とつぶやいていた。 本当にそうだ。 おそらく一番の正解はディアックさんのような魔法使いが遠くから狙い撃つことなんだろうけど…… 魔法なんてのはよくわからないけれど、おそらくそれが正解なはず。
でも俺が引いたところで他の冒険者たちが引くはずもないので、俺ももう一度突進する。
ん? ―― 一人の冒険者が転んでしまっている! ……あ、そこに一匹のオークが近づいていって……
「こんのぉ! やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は反射的に声をあげて、手の剣を投げる。 幸いにして投げた剣はオークの頭をつらぬき、最悪の事態は逃れた。
そのまま俺は途中のオークの頭を踏み台にして剣が刺さっているオークに近づき、剣を回収した。
転んでいた冒険者はただ茫然としていた。 よく見るとそこまで大きくない。 装備でよくわからないけれども、おそらく少年だろうか。 冒険者はこっちを一瞥した後、うつむきながら逃げるように去っていった。
――気が付くと、他の人たちの戦いも終わっていたみたいだ。
どうやらケガ人はいても死人はいないらしい。 唯一の死人になりそうだった冒険者も、俺が助けられた。
――ふう、良かった。 本当に。
人間側の完全勝利だった。
「よう、大丈夫そうだな。 やっぱり俺の目に狂いはなかったぜ。 ずいぶん派手にやってたじゃねぇか」
戦闘が終わると、ディアックさんに声をかけられた。 どうやら一部始終を見られていたらしい。
「ディアックさんの方が大変だったじゃないですか。 あんなに人がいたら、魔法撃てないんじゃないですか」
本当にそう思う。 実際にディアックさんが嘆いているの聞いちゃったし。
だけれどもディアックさんは。
「いやいや、俺は魔法撃つだけじゃないからな。 この杖は素手で殴っても強いんだぜ? ほら、『弱い奴なら殴ればノックアウト』って言っただろ?」
……ああ、言ってましたね。 それにしても、殴れる超威力な無反動砲って。
「……ディアックさん、その杖『グレイト砲』って呼んでもいいですか?」
「『グレイト砲』? ……おう、いいぜ! そもそもコイツの本当の名前は俺も知らないからな! ……いっそ俺も『グレイトバレット』って呼ぶか!」
……なんだか俺のせいで杖の呼び方が「グレイトバレット」になってしまったらしい。
そんなとき、町の門から大きな声が鳴り響いた。
「治療士が来たぞー! もう大丈夫だー!」
治療士?
そういえばこちらには死人はいないけれどもケガ人は結構いる。 その人たちの治療に来たみたいだ。
門の方で冒険者たちが治療を受けている。 なんだか魔法で治療しているみたいだ。 あと、治療士さんは女の人かな? それも結構若い。 治療士さんが若い女の人っていうのは軍隊でもよくあったね。 士気が上がるから。 それが美人だと特に。
うん、治療魔法かあ。 使えるようになれるなら使えるようになりたいな。 自分にかけられたら便利だな。 ……助けられる人も増える。
考えていると門の方の冒険者さん治療を終えた治療士さんがこちらの方に来た。
あ、あれ? なんかあの人見覚えあるぞ。
そうか。あの人アイランさんだ……
俺が後ろを向いて姿を隠そうとしたところに、アイランさんの手が肩にがっちりと掴まれる。
「なんでここにいるの? ……なんで戦っているの?」
……後ろを向いているので見ることはできなかったけれども、おそらくそのときのアイランさんの顔は、とても“イイ顔”をしていたと思う。
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