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茶目っ気メミル

「はぁっ! はぁっ! はあ! はあ…………」


 町の片隅、誰もこない裏道に、俺の声が響く。


 あの後、アイランさんの制止と、なぜか俺に着いて来ようとしたメミルさんを振り切り、教会を飛び出した俺は、さらなる驚愕に染められた。



 そこにあったのは、まるで中世ヨーロッパといわんばかりの風景。


 レンガ造りの建物に、石造りの道路。そして、町を歩く人々の服装も、毛皮や亜麻といったもの。ときどき鎧などを着た人々も見かけた。騎士とやらか?



やはり、ここは異世界なんだろうか。


 そう思った俺は、人通りの少ない裏通りで超能力の鍛錬をしている。


 いくら超能力が世界に存在しなくても、鍛錬すれば体が異世界に慣れ着くかもしれない。


 そうすれば、俺は超能力を使えるようになる。そうすれば、ゆくゆくはこの力を使って――!



 ……誰だ?


 今誰かがこちらを覗いていたような気がしたのだけれども。


 ……気のせいか?



「しっかし、やっぱり能力は使えないか」


 気にしないで鍛錬を続けることにしたのだけれども、ちっとも超能力は発動しない。


……というか、なんだか何かの存在を忘れている気がするのだけれども、何だろう。




「はあ…… はあ…… やっと…… 見つけた……」


 考えを妨げるように、横から声が聞こえ始めた。俺を瀕死に至らしめた、忌々しき声の持ち主。


 大人しめな外見からとんでもない腕力を持つ、メミル氏が息切れしながら立っていた。


「探しましたよ…… 手加減して引き留めたのに、そしたら振り切って行ってしまうんですから……」


 どうやら引き留めるときには手加減してくれていたらしい。学習能力は高そうだ。



「身分証がないから…… 早くアイランに発行してもらわなきゃ…… いけなかった…… のに……」


 身分証? ああ、そうか。異世界だからあの“冒険者カード”とやらを作り直さないといけないのか。


「身分証がないと…… 宿にも泊まれない…… 最悪自警団に……」


「とりあえず息なおして?」


 ぜーぜー言いながらそんなことを呟くメミル氏。前かがみになりながら言っているので、その紫がかった黒髪しか俺には見えない。



「はあ………… はあ…… は…… よし。大丈夫です」


「速いな!」


 息治るの速くない? ……さすがの腕力メミルさんか。 息切れに関係あるかは知らないけれども。



「とりあえず、身分証、冒険者カードを持っていない人はとりあえず自警団か騎士団に突きだす決まりなんです」


 え。それはもっとマズい。おそらく自警団や騎士団は警察のようなもののはず。異世界で牢屋いりはさすがにイヤだ。どうしよう。 

 そう考えていると目の前のメミルがなにやら俺が少し耳を澄まさなくても聞こえる小さい声でなにやら“ひとりごと”を言い出した。



「身分証は…… あーっと、えーっと、たしか“ぎるど”か、“しんでん”か、“やくば”で発行してもらえた気がしないでもないなー。 あーそういえば、これめのまえのふしんしゃさんにきかれたらまずいなー。 “ぎるど”や“しんでん”や“やくば”にいかれるまえにはやく“きしだん”にきてもらわなくちゃなー。 はやく“れんらく”しないとー」


 ……なにか“ひとりごと”を言っている。 

 これは俺にアドバイスをくれているらしい。


 つまり、メミルの“ひとりごと”を整理すると、



一、 身分証を発行するには、“ギルド”か“神殿”か“役場”で発行してもらえる。(二回言ったので大事)

二、 はやくいかないと逮捕される。



 ということだ。


 それにしても、こんな棒読みであからさまな“ひとりごと”を言ってくれるなんて、黒髪黒ずくめの見た目にそぐわず案外茶目っ気のある人なんだなあ。


 ……まあ、初対面の人を絞殺し掛けるような茶目っ気は最初からあったけれども。



「あ、あと私たちを襲っていたオオカミはあなたが素手で二体と、あと追加で一体撃退したってことにしておきましたから!」


 ……茶目っ気はかなりあるのかもしれません。



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