異世界の風景
視界が開けた。
辺りには、草原が広がっている。
「元の、場所か?」
それにしては、空が綺麗だ。……それに、なんだか空気が違う。
俺たちの世界は、戦乱で荒れに荒れ果てた。
だから、ある程度復興したとはいうものの、ここまで空が青くもないし、感じ取れる雰囲気も良くない。
「……とりあえず立つか」
俺、コードネーム“アギル・シュピーゲル”は、自分が先の衝撃で寝っ転がっていたことに気付いて、俺は立ち上がった。隣にはバキバキに砕けたバギーが転がっている。バキバキになったバギー…… バキバキになったバ……
と、頭の中でおやじギャグのようなことを連呼していると、当のバキバキにな(ry)の中からあるものが目に飛びこんできた。
「お。“デステロイド”は健在っ! とりあえず飛んでみようか?」
俺はそう叫ぶと、バキバ(ry)からちょこんと顔を出していた“デステロイド”を引っ張りだした。そしてその“デステロイド”を背中に装着する。
“デステロイド”には、直接超能力を発現させるような力はない。ただ、超能力者が装着すれば、超能力の発現をサポートして、能力の効果や発動時間に補正を付けてくれる。そしてまれにある、超能力が発現しない、という現象も格段に少なくしてくれる。
――――くれる、のだけれども。
「……? ……!? ……なんで? 発動しないっ!?」
――超能力は、発動しなかった。
「あれえ? なんで?」
もう一度。 と背中に力を込めてみるけれども、やっぱり超能力は発動しない。
つまり、これは――
「壊れちゃった、のか」
うん。そうだな。壊れたんだろう。まさかそんな急に超能力が使えなくなるはずがない。 ……ないよな?
まあ、戦乱のときにも敵の超能力者に“デステロイド”を撃ち抜かれて動作不良になったことがある。 それと同じだ。
ちなみにその戦乱というのは、超能力戦争と呼ばれている。
ストなんとか、とかいうテロみたいな組織が、超能力者の少年を集めて世界中に宣戦布告したのだ。
俺もそのストなんとかに所属した超能力者の一人で、色々こき使われた。
――まあ、そんな超能力戦争も、相手側にも超能力者が現れはじめたことで俺たちは敗北してしまったのだけれども。先の、“デステロイド”を撃ち抜いた超能力者とは何度も戦ったものだ。
そんなことを思い返していると、俺はあることに気が付いた。
「しかし、まったく飛べないというのは……」
“デステロイド”なしでも超能力者なら飛べるはずなのだけれども、なぜだかちっとも飛べやしない。
――この時俺は、気づいていなかった。
――俺が飛べなかったのは、“デステロイド”のせいでも、俺の能力が消え失せたわけでもなく。
――――この世界に、“超能力”という概念が存在していなかったからだったということに。