表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/26

さよなら超能力

1/11、一話をまるごとこちらに移植しました。

 二千二十二年。

 二年間続いた戦乱も終わりを迎え、世界には平和が戻り、人々はそのようやく訪れた平穏な日常を噛み締めていた。

 本作の主人公、アギル・シュピーゲルもそのうちの一人である。


 平和になった世界。軍の役目などほぼ無くなった世界で、コードネーム、“アギル・シュピーゲル”を持つ少年は、車を走らせていた。


 ただの哨戒任務なので、それほど気負っていない。超能力を使って飛んでも良いのだけれども、超能力の使用が制限されている戦後世界では、この程度の任務で使うほどじゃない。それに、車というのはなかなか楽しいものだった。


 一応万一の為に、超能力――正確にはニューワー・ヒューマンズパワーというらしい――を補助するユニット、“デステロイド”は後部座席に積んではいるものの、まあ使う機会はないと思いたい。


 少年は自分の本当の名前を知らない。ただ“シュピーゲル”の名を与えられただけで、記憶のある限りでは常にそう呼ばれ続けている。


 超能力者の証である、紅い地毛の髪を揺らしながら、そしてお気楽に歌いながら、少年は運転を続けた。ぶるるーんという自分の乗るバギーの音と、タイヤが巻き上げる土埃。そして吹き抜ける風の音だけが耳に響く。


「本当に何も無いな…… エリシアにでも連絡してみるか」


 少年はそう呟くと、普通の車ならラジオなどが付いている場所を弄る。

 そしてしばらくすると、ピピピ、という音ともに、中から声が漏れだした。のだが。


「ガガ…… 連絡くれるのガガガガ…… 私は今Vガガガで忙ガいガガガ……」


「駄目だなこりゃ」


 中から聞こえてくるのは、少年の仲間である少女の、ノイズで荒れまくった声だけであった。少年は通信を切った。


 

 と、そんな風に少年が注意散漫になっていた時に、それは起きた。


 唐突に、タイヤの接地感が薄れた。

 いや、無くなったのだ。 それも、突然に。


 何事かと少年が前を見ると、そこには空の青と、ただ真っ黒な穴。


 そして、少年が“デステロイド”で飛翔する暇もなく。



 ――少年とバギーは、その穴に吸い込まれていった。




--------




「……は?」

 それが俺の第一声だった。

 

 目の前に広がるのは、ただ青い空と、どこまでも深く続いていそうな真っ黒な、穴。

 ただなんともない、ドライブのような哨戒任務をしていたはずの俺は、今、浮いていた。


 まあ、浮くくらいならよくある。なぜなら俺は、超能力者だからだ。


 だが、俺は今超能力など使っていない。当然“デステロイド”は着けていないし、飛ぼうとは微塵も思っていない。


 それが、なぜか、浮いている。

 なぜ?



 まあ、その理由はすでに分かっている。

 地面がないからだ。


 地面がないからだ!


 え? なぜ? そう思っても、もう遅かった。



 ただの平野、平地だったはずのこの草原に、いつのまにか大きな穴が開いていた。

 こんな大きな穴が、なぜ?


 ……ここで俺が、冷静になって超能力を使って飛翔していれば、この先の恐怖を体験することもなかったのかもしれない。


 ――だが、俺は冷静でなかった。 冷静でなかったのだ。


 

 だから、そのせいで。


 そのおかげで。



「のわあああああああああああああっ!」


 そんな台詞を最後に、俺は。

 超能力を永遠に失った。


お読みいただきありがとうございます。

感想・批評など、お待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ