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小悪魔*プリンス  作者: 青の鯨
第2話
8/32

プリンスと悪魔 -3-




「ちょっとアキヒちゃん!?」


へこんだ愛姫にテルが声をかけようとすると、アイが無言で彼女の元に歩いてきた。


「――――…何?バカだって思ってるんでしょ…昨日みたいに笑えば?」


アイに気づいてふて腐れたように言った愛姫。しかしアイは床に座っていた愛姫の腕を掴み、グイッと引き上げた。そして膝で立っている愛姫の頬を反対の手でつねり始めた。


「―――――っ!?いっひゃ…!」


「煩いんだよ床の上でギャンギャンわめきやがって。んなお前を誰が女だと思うよ?大体お前可愛くなりたいっていうわりには口だけだよな?神様のせいにしてんじゃねえよ、てめえの責任だ。お望み通り言ってやるよ、バァカ!」


アイは顔を近づけると、イライラ込めた大きな声で怒鳴った。愛姫はポカーンと口を開けて呆けていたが、次第に目頭が熱くなって唇を噛みしめ、悔しそうに顔を歪める。


「な、アイ!!言い過ぎよ!!」


テルが慌ててアイから愛姫を引き離して、フジが間に入りアイを止める形になった。愛姫は目に涙を溜めて唇を噛む力を強める。


(――――――っ…悔しい悔しい悔しい…!またバカって言われた!だけど…言い返せない自分がもっと悔しい――――!!)



フンッと鼻を鳴らしながらアイはフジの手を振り払って、近くの椅子に座った。


「…アイ君。」


様子を窺っていたマスターが声を低くして呼ぶと、アイは顔を背ける。


「はあ…。愛姫さん、アイ君の態度は本当に申し訳なく思っています。…もし愛姫さんが辛いなら、無理して働こうとしなくていいんですよ?責任を感じる必要はないんですから―――――…。」


「………。」


テルが支える形で愛姫はマスターの言葉を聞いていた。


(―――アイのことは嫌いだ。働くことになったのも、弁償することになったのも、元をたどれば…。でも、私に責任はないなんて…言い切れるのかな…?)



『中途半端に辞めないこと、仕事先の人に迷惑をかけないこと――――いいね?』



「あ…。」


愛姫は昨日の電話で父親に言われたことを思い出した。


自分はどうしたいのか、もう一度心の中で考える。何のために今日ここに来たのかを――――…。



「…マスターさん…。」


テルにお礼を言って手を離してもらい、正座をするように姿勢を直したあと愛姫はマスターに視線を向けた。


「私…――――やっぱりちゃんと働いて弁償します。…そこの人は大っ嫌いですけど!」


愛姫はアイに睨みを効かせるが、すぐにマスターに視線を戻す。


「…私、今まで人に流されるように、ううん…人の目を気にして、女の子になる努力を確かにしていませんでした。あいつの言ってることは正しいです…でも、だからこそ悔しいんです!――――お願いします、私にあいつを見返すチャンスをください!私、変わりたいんです!!」


愛姫はマスターにバッと頭を下げた。



「アキヒちゃん…。」


テルとフジは心配そうに愛姫を見たあと、マスターを見て判断を待った。アイはそっぽを向いたまま動こうとしない。



「…。」


しばらく沈黙が続いたが、マスターが重い口を開く。


「愛姫さんがそう仰るなら…これからよろしくお願いします。」


マスターは愛姫に顔を上げるよう肩に手を置き、優しい笑顔を向けた。愛姫の顔はパアッと明るくなり、フジとテルもにっこり微笑み喜んでくれている。


「よく言ったわアキヒちゃん!!応援するわよ、アタシ!!」


「俺も!よろしくね、アキちゃん!!」


「テルさん…フジさん…!ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」


皆の温かさに触れ、愛姫の心はホカホカしていた。


(うう…皆いい人ばっかり!私、頑張ろう!!)



決意を新たにする愛姫。そしてアイに向かって強い視線を送った。


「…ということだから!絶対見返してやるんだからね!!見てなよ!!」


やる気に燃える愛姫はここぞとばかりにガツンと言ってやった。…と思ったが、アイはそっぽを向いたまま、ニヤリと口元を動かす。同時に愛姫にゾワッと悪寒が走り、振り払うように首を左右に振った。

そして口を閉ざしていたアイがゆっくり喋りだす。



「はあん?…やってみろよ。もし俺を認めさせたら、女になる手伝いをしてやってもいいぜ?」


「…な、何を言ってんの?別にあんたに手伝ってもらおうなんて思ってないし!それにあんたに何ができるって――――!?」


アイの発言に戸惑っていると、フジが口元に手をつけてコソッと耳打ちする。


「あ、アキちゃん、言い忘れたけど…アイはメイク担当なんだ。昨日の女装も、さっきのお客さんのメイクも、みんなアイがやってるんだよ!」


「…………………は?」



キョトーンとしていると、アイは椅子の手すりに腕を置いて頬杖をついた。


「まあ、どこまで女に近づけるかは知らねえけど…頑張れば?無理だろうけど。」


悪魔のような微笑みで見下すアイの姿が、愛姫のヤル気を簡単に折ろうとした。



「はっ…はあああ―――――――――――!?!!」




そしてその日も、店内には愛姫の叫びが木霊したのだった。






第2話*終わり


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