君の本当の美しさ-1-
「―――――っ…良かったあ…!」
目の前で抱き合い、両想いだとわかった二人の姿を見て、一番嬉しそうにしていたのは愛姫だった。一気に緊張がとれたのか、へろへろとその場にへたりこんでしまったが、本人は満足そうに笑顔だ。
「何が良かったよ、このバカ!!」
べちんっと愛姫の頭を叩いて、美冬は頬を膨らまして怒っている。が、その痛さも気にならないらしい、愛姫はヘラヘラ顔をやめない。
「痛いなあ~。エヘヘ、いいじゃない、喜んだって。」
「良くない!!私が優里ちゃんを呼ばなかったらどうなってたと思ってんの!?絶対ボコボコにやられて痛々しいカッコで学校きて、女子にキャーキャー騒がれて犯人探されて、反対に彼がボッコボコにされてたに決まってるわ!!あんただけの話じゃないの!!わかってんの!?」
あり得ない話ではないと愛姫にも思えるから恐ろしい。それだけ愛姫が女子に人気があるということだが、それ以上に団結した女子のパワーは強いのだ。
「は、はい…。すみません。」
もしもの場合を想像し、愛姫は素直に謝ることにした。
「あ、あの!」
気がつくと、愛姫の前に健太と優里が立っていて、心配そうに愛姫を見ている。
「だっ…大丈夫です…か?」
先ほどまで因縁をつけていた相手に、健太は恥ずかしがりながら手を差し伸べている。愛姫はにっこり笑顔を向けて彼の手を取った。
「あはは、ありがとう。優しいね。」
「っ…いえ。」
引っ張られてお礼を言うと、健太は更に恥ずかしくなり、パッと手を離して体の後ろに引っ込めた。怒っていたときとまるで違う態度に、思わずクスッと笑ってしまう。
「アキ先輩、美冬先輩、ご迷惑おかけしました!」
ペコッと頭を下げた優里、隣に立つ健太も一緒になって謝った。
「もういいよ、頭を上げて?それより…ちゃんと気持ちが伝えられたんだから、これからは言いたいことは言って、ケンカしないで仲良くしてね。」
にっこり微笑む愛姫。その笑顔には今まで以上に威力があったようで、優里はドッキュンっと心臓を鳴らしてその場に崩れるように座り込んでしまった。健太はというと、男ながらにキラキラに目が眩むように目を細め、うわっと奇声をあげて優里と共にしゃがんだ。
「…あれ!?」
二人が視界から消えてしまい、驚いて愛姫は目をぱちくりさせている。
「――――…こ、これが王子の力、か!!」
健太はようやく愛姫が王子と呼ばれる所以を知り、不思議と納得した。
「ほら、健ちゃん!!アキ先輩はかっこ良すぎて憧れちゃうんだよ!!私、ちゃんとほんとのこと言ってたんだよ!!」
顔を真っ赤にしながら優里は健太の肩をバシバシ叩いて興奮している。驚いた表情のまま健太はコクコク頷いた。
二人の反応に愛姫はどういう表情をしていいか分からず、ちらっと美冬を見て助けを求める。
「…あれよね、つまりは芸能人的存在な訳よ。会えたらラッキー、話せたらチョー幸せ、みたいな?」
ため息しながら美冬が説明すると、健太は納得してなるほど、と呟いた。憎しみを抱いていたときにはそれほど愛姫の見た目に何も思わなかったが、今となっては確かにモデルのような愛姫に、負けたと堂々宣言してもいいと思ってしまう。
「…そ、そんな大した人間じゃないんだけどな…?」
複雑な気持ちの愛姫は困った顔のまま、座り込む二人にさっきとは反対に手を差し出した。
「だっ、だいじょぶっす!」
優里が手を取ろうとするのを見て、健太はハッと我に返ってすぐさま立ち上がった。
「優里。」
そう言って彼が優里の手を握って優しく立たせてあげる。その光景を見て、愛姫は伸ばした手を引っ込めながら嬉しそうに微笑む。
「さすが彼氏だね、羨ましいよ優里ちゃん。」
愛姫に言われて、優里はエヘヘと恥ずかしそうに笑う。幸せそうな表情に、愛姫もつられて幸せな気分になった。
「…?羨ましい?」
「「――――――!!」」
冷静になった健太のツッコミに、その場(主に愛姫と美冬)が一瞬凍りついた。
そう、未だに健太は愛姫のことを男だと勘違いしたままなので、優里のことを羨ましいと言う愛姫の発言に違和感を感じたのだ。が、ここで愛姫が女だとバラすとどうなるのだろう?
嫉妬して、ケンカを売って、危うく殴ろうとまでしてしまった相手。しかもやっと両想いになって仲直りできた直後に、女だと言ってしまったら…。
男だと勘違いして女にケンカ売ったイタイ男だと自分を恥じて、今までのことを一生悔やんでトラウマになって、せっかく両想いになれたのに優里ともギクシャクした関係になってしまうのでは?
若干考え過ぎかもしれないが、無いとも言えない未来を想像して、愛姫はゴクリと唾を飲み込んだ。そうなってしまえば、さっきまでのことが全て水の泡。最悪、茶番として彼を傷つけることになってしまう。幸せからどん底へ、それだけは絶対に避けたかった。
「…健ちゃん、アキ先輩はね?お…。」
「わ――――――!?優里ちゃんストップ!!」
危うく優里がバラしそうになったのを必死に止める愛姫。優里は戸惑いつつ両手を口に当てて言葉を飲み込んだ。
「え?な、なんなんすか?」
疑問に思う行動は健太の不信感をまた煽ってしまい、逆効果になりかねない。愛姫はアワアワと美冬に視線を送るが、美冬もどうやら良い案は浮かんでいないらしい。眉を歪めてしかめっ面で両手を上げて、お手上げのポーズをしていた。
「…優里のことは納得しました、けど…やっぱなんか俺に隠してません?」
「い、いや!?そ、んな、ことは…。」
カミカミの言葉とヒクヒクする口元。全然説得力のない愛姫に、健太は不服のようだ。優里が心配そうに見ている中、また表情が曇ってきた。
(ど、どうしよう…今私が女だって言って、もし…でもこのままでも…誤解が誤解を生んでとんでもないことになったら…あ―――――!?)
愛姫の頭の中はすでにパニック状態だった。すると健太は思い出したように話を始める。
「『お…』?そういえば、あの人もなんか言おうとしてましたよね?」
そう言って健太はアイの方に振り返った。
「ハッ!!」
愛姫はすっかりアイの存在を忘れていて、健太の言葉でようやく思い出す。こうして話をしている間、アイは無言でずっと立って腕を組んでいたらしい。
「あ、あああ…アイ?」
恐る恐るアイに声をかけるが、アイは愛姫と視線が合うと、物凄い黒いオーラを纏って、見下すように愛姫を睨んだ。愛姫は思わずヒィッと声を上げて恐れおののき、周りにいた他の皆の背中にも悪寒が走った。
「そ、そういえば…あのめちゃ可愛い人はどなたですか?」
途中から来た優里は、アイとは面識がないためキョトンとしていたが、黒々しいオーラだけはやはりジリジリ伝わっているらしい。健太の腕の服を掴んで彼の後ろに顔を引っ込めた。
「え、えっと…バイト先が同じで…。」
モゴモゴした口調で愛姫が答えていると、突如としてアイが四人の元に近づいてきた。
「初めまして。そして両想いおめでとう。とても素敵なカップルね。」
パッと明るい笑顔を見せて微笑むアイ。先ほどまでの黒いオーラは消えている…ように見えたが、愛姫は目が笑っていないことに気づいていて恐ろしかった。あれだけ面倒くさがってバラそうとしていたアイのことだ。このままポロっと愛姫が女であることを言ってしまうのではないかと恐れ、パタパタとアイの元に行き、こそこそと小さい声で頼み込む。
「――――アイっ、おねがい…!私のこと、言わないで…!」
「…。」
返事が返ってこない。愛姫の焦りはさらに濃くなる。
「なあ!!ここまできたら隠し事なしにしてくださいよ!?こんなんじゃ、俺…気になってしょうがないんすけど!!」
健太の苛立ちも不安も積もり積もっているらしい。優里が宥めようとするも、愛姫に止められているので真実を話すことも出来ず、困った顔をしている。美冬も同じで、じっと愛姫を見守っている。
「うう…ど、どうすれば…!」




