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小悪魔*プリンス  作者: 青の鯨
第3話
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喫茶ステラへようこそ-5-





「つーか、コイツの話はどーでもいいんだよ。時間いいのか?とっととやろうぜ!」


飲み終えたカップをカチャンッとカウンターに置き、アイはムッツリ顔で彩那を見た。彩那も時計を確認して頷く。


「ああ、そうね。今日はね、友達とイベントに参加するんだけど…四時くらいまでにお願ーい。」


「あ、すみません私の話なんかで時間使わせちゃって…。」


「やっだー!そんなことないよ、というか固い固い。逆に愛姫さんと仲良くなりたいからもっと話聞きたいよ。あ、あとねー…もしよかったらアキ君って呼んじゃだめかな?」


「へ?」


「あ、嫌だったら止めるよ?私皆のことあだ名とかで呼ぶことが多くてさ、親近感が増すじゃない?だめかな?」


彩那がにっこり微笑むと、愛姫は考えるように上を向いたあと、少し困ったような笑顔を向けた。


「…いいですよ。私も彩那さんと仲良くなりたいですから。」


「ほんと!?ありがとうアキ君!!」


嬉しそうに笑顔になる彩那の表情は幼い子供のように可愛いものだった。



「…――――おい!」


待ちくたびれたようにアイが呼ぶと、彩那はプクッと頬を膨らませる。


「今見るよ、せっかちだなあ!アイちゃん今日どうしたの?」


彩那がカップを置きに向かうときフジに訊ねると、お手上げというようなジェスチャーをしてみせた。


「ちょっと色々あってね。」


「?」


皆がコーヒーを飲み終え、マスターがカウンター向こうへ戻り、愛姫はスタイリングスペースに近いカウンターの椅子に座って作業を見学することになった。


「さて、今日はどんな感じがいいのかしら?イベントって何の?」


テルが置いてある服を見せるように前に出しながら彩那に訊ねる。


「んっとねー、今日のはディナーショーなの。最近人気がでてきたバイオリンの奏者二人組でね、でも小さなレストランだからあんまりきっちり決めたくはないんだ。だけど少し大人っぽい雰囲気は出したいっていうか…。」


「そう…こんな感じかしら?」


テルが手にとったのは青のロングドレスで、前から見るとシンプルだが背中がパックリと開いている。


「んー…もう少し抑え目で!」


「あ、こんなものもあるわよ。」


次に見せたのは淡いグリーンのドレスで膝丈の可愛らしい形のものだった。袖口にはレースが施され、首の後ろにはドレスと同じ生地のリボンがついている。


「んぬぅ…その間!さっきのと。」


彩那は可愛らしさと大人っぽさの両方がはいったものをお望みらしい。


「ふふーん…じゃあこれでどう?」


「おお!」


テルが取り出したのはエメラルドグリーンのドレスだった。丈は前は膝上だが、後ろは長くてふくらはぎまで届く。さらにその中に薄い生地が裾に沿ってヒラヒラとついている。腰より高い位置でクシュッとゴムが入っていて、胸元と同じくらい背中も開いていた。肩にはリボンもついていて可愛らしい要素もバッチリだ。


「いいねー!!さっすがテッちゃん、いいセンスしてるよー!!」


どうやらお気に召したらしい。彩那は早速鏡の前でドレスを合わせてみた。


「これにヒールの高いサンダルと天然石のブレスレットとか合わせるといいんじゃないかしら?」


「きゃー!!いいねいいね♪よーし、これに決ーめた!」


「はい、じゃあ一度着てきて!フジ、片付け手伝って。」


彩那がドレスを持ってカウンター横の部屋に消えていくと、テルとフジで広げていた洋服を片付け始めた。ようやくテーブルや椅子から服がなくなり、アイは近くの椅子にドカッと腰を下ろす。


「手伝いましょうか?」


愛姫が二人に言うと、座っているよう言われたので、そのまま見学することにした。



「出来たよー!!いい感じ♪」


扉を開けて出てきた彩那は、背の低さを感じさせないほどスラッとして見える。ドレスの色も彼女に合っていて、そのままでも十分素敵に見えた。


「わあ…すごく似合ってますよ、彩那さん。」


愛姫のキラキラした眼差しに、彩那は頬を染めながら照れていた。


「えっへへー…ありがとう♪」


「はい、変更無しね。じゃ、着替えて!」


「へ!?」


テルの発言に愛姫は思わず声をあげてしまった。彩那はそそくさとまた扉の向こうに戻ってしまう。


「え、また着替えちゃうんですか!?今着たばかりだったのに…。」


「何言ってるの!これから髪型を変えたりメイクしなきゃいけないの。せっかく決めたドレスを汚したらダメでしょう?」


目をパチパチさせて愛姫はああ、と納得した。確かに汚したらまた選び直さなければいけない。それにまだ時間はあるのに、座ってシワを作るのも避けないといけない。よって大人しく彩那が出てくるのを待った。



「着替えたよー。」


部屋から出てきた彩那はドレスをテルに預けて、フジのいる鏡の近くにある椅子に座った。


「はい、次は俺の番ね。」


手に持ったコームを振りながら、フジは愛姫に合図するように言った。


「さて、さっきの感じだとアップにして襟足部分は下ろした方がいいかもしれないね。」


そう言いながらスルスルと髪をとかし、くるんと毛先をひねって丸めて見せた。


「わ、いいね、いい感じ♪」


彩那も嬉しそうに同意する。その間もフジは手を止めることなく、無駄のない動きで髪をまとめあげていく。八割は編み込みながら上へ持ち上げ、お団子をつくるようにフワッと丸める。残った襟足部分はサラサラととかしてアイロンで毛先を真っ直ぐにした。こめかみの辺りの髪は下に垂らして、前髪は六対四くらいで分けて斜めに流す。


「ヘアアクセは…そうだなあ。天然石で合わせる感じにしようか?彩那さんはきれいな黒髪だかこんな風に少し紫っぽいのとか。」


すぐ傍に置いていた箱から淡い紫とピンクの石のついたゴムを取り出してつけてみる。そして手鏡を使って合わせ鏡にして彩那に見せた。


「へええ、こんなのもあるんだ!うん、じゃあこれでお願い!」


ニコッと笑顔を見せる彩那。フジは微調整をして、彩那に手を差し出す。


「はい、出来上がりです。お疲れ様。」


「ありがと、フジ君♪」


フジの手をとり彩那が立ち上がる。トップをふわふわと揺らしてアクセサリーがキラキラ輝く。その姿に愛姫は見とれてしまった。その熱い視線に気づき、彩那はにっこり微笑む。


「すごいよね、フジ君におまかせするとちょちょいのちょいってやってくれるんだー♪」


愛姫はこくこく頷いてキラキラした目で彩那とフジを交互に見る。


「すごい…です。本当に。」


二人に誉められ、片付けをしていたフジは照れた様子で笑った。


本当に見事な櫛さばきというような早業に、愛姫は感嘆のため息をもらす。何よりその髪型はとても彩那に似合っていることが驚きの増す要因だ。そして彩那は満足そうな笑顔でアイのいるソファーに近づいた。


黙って座っていれば美少女なのに…とも思えないような偉そうな座り方をしているアイ。お客様に対してもこんな態度をとるやつなのか、と愛姫は目を細める。初めて会ったときは女の子の言葉をしゃべっていたくせに、今では見る影もない。


(この悪魔…一体何がしたいんだ…!)


愛姫は心の中でアイを睨んだ。




テルが服、フジが髪、そしてアイは…。



アイは偉そうに座っていたソファーから立ち上がり、反対に彩那を座らせた。


「じゃ、仕上げな?」


アイはソファーに置いていた二つの箱をテーブルに置き、蓋を開けて中身を取り出した。そこに入っていたのは様々な化粧品だった。


彩那の前に椅子を持ってきて腰掛け、ジッと彩那を見たあとにピンで前髪を横に避ける。


「え?あれ、いいんですか?」


せっかく整えた前髪をアイが崩したことに愛姫は疑問を感じ、フジを見た。


「いいのいいの。普通はメイクの方を先にやったりするんだけど、アイはイメージから入るから先に髪型を決めちゃうんだ。ドレス着たあとでまた直すから大丈夫だよ。」


にこっと笑顔で言うフジに、何も言えなくなる愛姫。またアイの方へ視線を戻すと、取り出した化粧水をコットンにつけ、彩那の肌に染み込ませているところだった。


「彩那さん、ちゃんと肌ケアしてたみたいだね。前よりは良くなってるよ。」


アイが愛想なく誉めると、彩那はフウとため息をはいた。


「良かったー。昨日はちょっと寝不足だったから心配してたんだけど、アイちゃんのアドバイスのおかげだね!」


他愛のない話をしながらアイはメイクする手を止めない。スルスルと撫でるように、彩那の肌はアイによって潤いを増すように見える。


「――――…。」


まさかの光景に愛姫はただ見つめることしか出来ない。というより、その姿に魅せられていた。


まるで可愛らしい女の子同士でメイクを楽しんでいるような、愛姫が憧れる光景がそこにあったからだ。今までからは想像出来ないような優しい顔でメイクするアイ。そんな姿に愛姫の胸の奥がキュンっと跳ねた。


(――――ッハ!!いけないいけない、なんだキュンって!!)


顔を両手で挟んで、熱くなった頬を冷やしながら、愛姫は睨むようにアイを見た。


ファンデーションまで終わり、次はアイメイクに入る。目頭にパールホワイトを、そこにシャーベットカラーの淡いピンクと紫を乗せ、グラデーションになるようにぼかす。茶色いライナーを引き、真ん中が長い睫毛をつけてパッチリ目を作り、アイブロウをする。ふんわりとしたピンクのチークを頬に円くオンして、柔らかいピンクのリップを全体に乗せたあとキラキラのラメ入りグロスをつける。



「――――…ぅっわ…。」


愛姫は思わず声をもらす。少し子供っぽさが残る彩那の顔は、可愛らしさがある大人の表情に変わっていた。うるっとした瞳にかかる長い睫毛、女の子らしい淡いピンクの頬、艶やかな唇。メイクでこんなにも印象が変わるのかと、普段縁のない化粧のすごさに、愛姫はドキドキが止まらない。


知ってか知らずか、アイが愛姫の方に振り返りニヤッと笑ってみせる。一瞬ドキンッと鼓動が高鳴るが、目の前の美少女は悪魔だということを思い出し、頬に当てていた手で今度は目を覆った。





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