8月17日 Day.3
夕方になり、静かに夜の帳が落ちる頃。
俺は既に閉店作業を進めていた。
食器を棚に戻したり、グラスを布巾で磨いたり。
このゆったりとした時間が俺は好きだ、今日は邪魔な奴らも出払ってる。
今日は近くに流れる九十九川で、年に一度の花火大会がある。
俺たちが店を出している商店街も積極的に参加していて、今回からは俺たちも出店を開くことになったんだよ。
正直言って金にはならない。
祭りを盛り上げるのと宣伝を兼てるから、まぁ出来る限り安く提供しようって事らしい。
用意した物を売り切ればプラマイゼロ、売り切れなきゃ赤字が確定、要は生産性なしの残業なんだが。
またどういうわけかあの馬鹿共がテンション上がっちゃってさ、やる気出してるし、付き合いってもんもあるからなぁ。
物凄く渋々OKを出したんだが、あの時のアイツの言葉が不安でならない。
「兄さんはお客様だから、手伝わなくて良いから!」
や、偉そうな事を言いやがるけど出費は俺の金だからね?
まぁ資材調達から会場準備まで全部自分達で頑張るからなんて言われたからね、ちょっと感動しつつ頑張れなんて言ってしまったわけさ。
後で通帳を確認したら少し……いや、かなり予定よりも金が減っていたが。
でもこれも勉強だよな。
これで資材調達とか任せられるようになったら俺も楽になるし、最初の頃は俺だって失敗してたし。
それに結構期待してるんだよな、あいつらそれぞれの休みの度に調べたりしてたみたいだし。
………一応カオリを監視役にしたから多分大丈夫だろ。
時計を見てみると既に19時を過ぎている、丁度花火大会が始まった時間だ。
花火を打ち上げるのは確か20時くらいだったかな、今からなら間に合うか。
最後のグラスを磨き終わり、店の防犯を確認していく。
制服から私服に着替えて、よし、行こうかな。
人気のなくなった商店街を、九十九川に向かって歩いていく。
通学路に出ると、はしゃぎながら走る子供達が脇を抜けていった。
いつもなら注意するけどさ、今日はご愛嬌かな。
川沿いに出ると、そこは光の森だった。
川の左右に出店の光が並んでいて、独特の賑わいをみせている。
何処の出店にも出店者の店名が看板になってる、凄い判りやすいな。
さて、ウチの店はどの辺りにあるんだろうな。
あいつら一切位置を告げないで行きやがって、この中から探すのは大変だっつうの。
ん、たこ焼きじゃん。
店名は……あぁ、惣菜屋の菅野さんか。
「いらっしゃい!お、喫茶店のマスターじゃないか、珍しく私服だなぁ。」
「あはは、お疲れ様ッス。」
「あれ?でも確か出店出してなかったか?兄ちゃんは休みかぃ?」
「あぁ、なんか他の奴らが頑張るからって。だから労いの品を買いに。」
「そうかいそうかい!ならこれ持ってきな、二つくらいで良いかい?」
「ありがとうございます、ではまた惣菜買いに行きますね。」
テンション高い菅野さんから出来たてのたこ焼きを受け取って、会釈しつつその場を離れる。
はぁ、相変わらずクソたけーテンションだよまったく、無駄に疲れるなあれは。
土手添いに並ぶ出店に視線を巡らせながら、馬鹿の出した店を探す。
すると、凄い賑やかな一角を見付けた。
そして何故だか溜め息が出た。
何となくだが、あれがウチの出店に思える。
まず看板に「超美味い?これが噂の!」って書いてある、最悪に汚い文字だが。
大体看板に疑問符浮かべてる時点でまともな気がしない、それに最近出店の噂などまったく聞いていない。
何が怖いって、何を売ってるのかが書いてない、食べ物だろうと言うのは判るが。
「食いやがれー!美味いに決まってるのさ!」
「暇なら食え、腹一杯食べよ!」
「もぐもぐ……美味いよこれ。」
ソースの匂いがするから、焼きそばかなぁ。
匂いは美味そうだ、こういう場所だと尚更だな。
「よぉ、意外に盛況じゃないか。」
「へいらっしゃい!美味いよ焼きそば、お兄さんも食ってきな!」
「いやウゼえから、もうそういうノリはお腹いっぱいだから。」
「ノリ悪いねぇお兄さん、冷やかしなら帰んな!」
「……仕方ない、この差し入れは俺が一人で食うかな。」
「お疲れ兄さん!流石は兄さんだぜ気が利いてるなぁ、もうこの照れ屋さん。」
「いただきま~す。」
「いやごめんなさいマジ調子乗りました。」
「初めから健気にそう言えば素直にくれてやるのに。」
俺は屋台の裏側に回ると、置いてあったテーブルに袋を置く。
「さてヒロト、ちょっとお兄さんとお話しようか?」
「いや、大丈夫。」
「黙りなさい阿呆予備軍!何でお前はもりもりと焼きそば食いやがってる?」
「腹が減ったから仕方なく。」
「ったく、赤字が確定する様を身内に見せられるとはな。カオリはどうした?」
「今は休憩。アイツらが頑張ってるから暇だって。」
「だろうな、アイツら無駄に清々しい顔してやがる。ウザいうえに暑苦しい、おまけに呼び込み方に礼儀がなさすぎる。まぁ残念なことにそれが最近じゃウチの売りになってるが。」
てかマジで売れてるな、あのテンションの高さが客を呼んでるのか。
またあの馬鹿は調子に乗りそうだ、欝陶しいだろうなぁ。
振り替えると既にヒロトがたこ焼きを貪っていた、どんだけ食うんだこいつは。
「んじゃ~ちょっとしたパフォーマンスといきますか、キヨシ!」
「はいよ!さぁ燃え盛れお兄さんの秘蔵酒!」
「おのれ貴様ー!」
俺が買っていた高級梅酒が、焼きそばなんぞをフランぺしてやがる。
次の休日に飲もうと思ってたのに…。
「やーめーろーよー、高いんだよー。」
「あ、兄さんが泣いた。」
「あっはっは、これで邪魔者は戦闘不能だぜ!」
「さぁやりたい放題だ!みんな見てごらん!この梅酒の炎の向こうには、なんと悪魔がみっともなく泣き喚く貴重な光景が!」
「ほらほらもっと燃えるぜーってギャース!俺の前髪がー!」
あはは、あははははははは。
だから嫌になる、自分の浅慮さに腹が立つ。
やはり馬鹿で阿呆に店を任せるなんて間違いだった、夢物語も甚だしい。
カオリがいなくて良かった、俺が起こす光景は壮絶だからな。
実はこの時は既にカオリは帰っていたらしいのだが、俺がゆらゆらと馬鹿共に歩くのを見て静かにヒロトを避難させたらしい、懸命な判断に恐れ入る。
俺がズボンの裾に隠していた忍者刀を二本取り出すと、お客様が笑顔のまま後ろにさがった、お気遣いに感謝致します。
左右逆手の体勢で、躊躇いなく二人の首筋に振り下ろした。
だが流石は百戦錬磨のゴミカス共、抑えきれない殺気を感じて一瞬で避けやがった。
置いてあった酒ビンが、代わりに首とさようなら。
「ヤバいねキヨシ、兄さんガチだ。」
「まさか真剣まで手に入れていたとは、流石はお兄さんだぜ!」
「いやいやそこの前髪チリチリ、冗談じゃなく殺されちゃうよ!」
「空から見下ろす世界はきっと美しいだろうなぁ。」
「既に死亡確定!」
「ふはははははは!神も憐れむゴミ共め、悪魔を怒らせた痛みを知るがいい!」
そこからは大暴れしたからあまり記憶にない。
覚えているのは、細切れになった服を必死に抱えながら走る馬鹿共と、それを見越したカオリがヒロトと一緒に店を回す光景だった。




