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3月20日 Day.17-4


「…なにこの惨劇。」

「皆さん大丈夫ですか!?」

「あいつら…派手にやりやがって、幸い死者は出てないみたいだが。」


俺たちは郷土館を見学した後、ここ第三チェックポイントに来ていた。

そこで目にしたのは軍隊のような迷彩服に身を包み、数々の銃火器と共に倒れ伏した男たち。

先端に小さな針が付いた弾薬も転がっていて、何人かはそれが額に突き刺さっている。

これを撃ったであろう男たちは、全員が何かに怯えたような顔で眠っているようだ。

俺は弾薬を拾い上げて呟いた。


「麻酔薬入りの弾丸で襲ったってところか、こっちも随分と派手な連中だな。」

「襲われたのホカゾノさん達なのかな…。」

「間違いなくそうだろうね。」

「こういう時には敵が多いからな。まぁこれじゃどっちが襲ったのか判らないが。」

「でもあの二人がルール守るなんて奇跡だよね。大怪我って訳じゃないし、何処も壊れてないみたいだし。」

「確かに、成長したな。」

「感心してる場合じゃないよ!早く救急車呼ばなきゃ!」

「安心しろ緋結華、こいつら眠ってるだけだ。薬の程度にも依るが、命に別状はないだろ。」

「とりあえずそこのベンチに集めよう、緋結華ちゃんもそれなら安心でしょ?」

「私も手伝う!」

「あぁ、手早く済ませよう。」


三人で眠っている男たちをベンチに移動させる。

流石に大人の男を担ぐには二人とも華奢だったため、結局俺が一人で運ぶ。

全員を運び終えたら早速一人叩き起こす。


「おい、起きろ。」

「んん……あ、お前は!」

「俺に反応するってことは間違いなくホカゾノたちを襲ったってことだな、答えはそれで十分だ。とりあえず他の奴らを起こしておけ。怪我はないが、流石にこの寒さの中で寝てたら風邪引くぞ。」

「……俺たちはあんたの仲間を襲った人間だぞ?」

「だからどうした?お前らは悪く言えば加害者だが、誰が見ても被害者だ。町中で喧嘩するのは勝手だが、もう少し相手を選ぶんだな。」


悔しそうにうなだれる、仕方ないか、奴らは積み重ねた努力による攻略を一切合切弾き跳ばしてしまう。

まぁその分だけあいつらも努力してきてるからな、チートだけど。

俺は振り返って二人に告げる。


「こいつらはもう大丈夫だ、行こうか。」

「この人たちも災難だったね、相手が人間だったら勝てたのに。」

「あはは、ホカゾノさん達も一応人間だよね?」

『………。』

「答えてあげて!」


そうは言うがな緋結華、フラトレスの人間はカオリとヒロトくらいなもんだ。

ヒロトは若干怪しいけど…。


「さて、ここの名物は餅だってさ。」

「パンフレットには美味しいお餅とお茶が飲める店があるって書いてあるよ。」

「お餅ってお正月にしか食べないから新鮮な感じがする。」

「確かに正月以来食べてないな、楽しみだ。」


目的の店に向かって歩きだす、ちょっとしたおやつって感じになりそうだ。




「こいつは予想外だぜキヨシ。」

「あぁ、ヤバいかもしれない。」


疲れた体に鞭打ってやってきた第四チェックポイント。

そこで二人は最大の難関に直面していた。


「クイズに正解しないとスタンプ貰えないとか聞いてないぞ!」

「とりあえずやってみるしかない!」


二人は幾つか用意された受付の一つに向かう。

一番美人が座る受付なのは言うまでもない。


「スタンプカードを拝見します、ご提示をお願いします。」

「それより俺のアドレスに興味はないかなお姉さん。」

「お姉さんならアフターだって即決だぜ!」

「結構です。」


満面の笑みで断る女性、その場で倒れる馬鹿二人。


「何でだよぉ、今の笑顔じゃ駄目だってのかよぉ。」

「ウチの爽やかスマイルで陥落しないだなんて、そんなの嘘だ!」

「落ち着いて下さいお客様、ただ本気で嫌だったんです!」

『うわぁぁぁん!』


目的さえ忘れ真剣で泣き出す中年二人、お姉さんガチ引き。

その余りにも気持ち悪い光景を尻目に次々と他の参加者を受けていくお姉さん、お姉さんも結構容赦ない、男の涙に慣れているのか。

五分ほど泣き喚いても反応を示さないと悟った二人は、諦めてスタンプカードを差し出した。

これこそ本当の営業爽やかスマイルで対応するお姉さん、優秀です。


「それではこちらのガラガラをそれぞれ一回回して、出てきた玉に書いてある数字を教えて下さい。」

「狙うは一番のみ!とぉぉうりゃぁぁぁ!」


先手必勝とばかりに気合いを入れて回すキヨシ、ホカゾノはそこで見てしまう、初めて見せたお姉さんの冷たすぎる視線を。

自分は無言で回そうと心に誓うホカゾノを背に、キヨシは出てきた玉を高々と掲げて叫ぶ。


「百二十…ん?違う…これは、一万二千六百九十三だ!って多くね!?」

「そんなびっしり数字が書いてある玉を初めて見たわ。」

「問題は全部で二万問用意しております。」

「頑張りすぎだよ!絶対そんなに必要ないだろ!てかお姉さん表情変えようよ寧ろ怖いよ!」

「………ウゼェな、これで良いか?ったくめんどくせぇ。」

「変わりすぎだろ!口調まで変わっちゃったよ!もうやだこのお姉さん!」

「ごちゃごちゃうるせぇな、黙って問題聞きやがれ童貞。」

「な、何故それを!?」

「女に下らねぇ期待抱いてる時点で気付くわ、キモいな。」

「お姉さん止めてあげて!キヨシが心閉ざしちゃう!」

「……もう死んでやる………、生きてても楽しくない。」

「もう手遅れ!?キヨシ負けるな!大丈夫、世の中にはお前を受け止めてくれる素敵女子がまだいるから!」

「問題。室町時代に造られた金閣寺ですが、建造したのは誰でしょうか?」

「ナチュラルに問題読み上げただと!?お姉さんはこいつを見て何も感じないのか!」

「あぁ、ウゼェな。」

「鬼かあんた!」

「めんどくせぇ、早く解けよ。後がつかえてんだよ!」

「俺は……負けない!」

「キヨシが立った!」

「はいはい凄いねカッコいいねー。」


バタリ。


「キヨシー!」

「いいから早くしろよ。」

「く……足利義満。」

「マジかよキヨシ、判るのか!?」

「これでも一時はお兄さんより上の高校にいたんだぜ、これくらいわけな……、」

「正解は大工、足利義満はただ依頼しただけだアホめ。」

「グハァ!」

「引っ掛けかよ、ズルいぞ!」

「問題考えたのアタシじゃないし。」

「確かにそうだけどさ。」

「まぁ足利義満で正解だけどね。」

「二重の引っ掛けだと!?」

「いや、しかし正解ならば俺はスタンプが貰える!」

「はいどうぞ、お疲れサヨナラ早く消えて。」

「最後まで冷血さを崩さない!?」

「よしホカゾノ、お前もクリアするのだ!」

「あ、あぁ。やってやる。」


ガラガラガラガラ……。


「二万一。」

「あれ?二万問じゃなかったっけ?」

「あ、それラストオー……、」

「はいお姉さんストップ!それ以上はあきません。」

「何だよ真面目だなぁ。チッ。」

「ちょいちょい舌打ち挟むの止めてもらえませんかねぇ?」

「まぁいい、もう一度回せ。」


ガラガラガラガラ……。


「十四。」

「逆にレアだな二桁!」

「え~と、十四だな。問題。戦国時代、彼の武田騎馬隊を鉄砲にて打ち破った織田信長。さて、この戦いは何の戦いでしょう?」

「俺が答えちゃまずいんだよな?」

「ったりめぇだろが、ちったぁそこで大人しくしてろ!」

「マジで扱い悪くない!?」

「長篠の戦い。」

「そんなバナナ!」

「そんなカバな!」

「お姉さんまでノッた!?」

「とりあえずスタンプだ、受け取れ。」


ホカゾノのスタンプカードにも四つ目のスタンプが捺され、無事に第四チェックポイント通過となる。


「それじゃお姉さん、また会おう!」

「いや会いたくねぇし。」

「スタンプありがとうございました。」

「あぁ、頑張れよ。」

「やっぱ扱いが違う!」


お姉さんに手を振って、その場を後にする。

目指すは第五チェックポイント、終わりは確実に近づいている。




「穏やかだね~。」

「のんびり~。」

「ふやけてるな二人とも。」


赤い番傘の下、背もたれのない、桃色の布を敷いただけの簡素な木椅子。

時代劇に出てくるような団子屋っぽい風情の店で、俺たちはのんびりと餅を食べていた。

これが非常に柔らかく、よく伸びる餅で、薄口醤油の磯辺焼きはついつい食べてしまう美味しさだ。

店員の話では毎朝特別な餅米でついた餅を炭火で焼くことで柔らかくしているとのこと。

段々と暖かくなってきたそよ風を浴びながら、晴れ渡った青空を見上げる。


「今日は平和だねぇ。」

「今日はって言っちゃう辺りが切なくなる街だね。」

「あはは。」

「キヨシくんたちはもうレースに復帰したのかな?」

「流石に帰って来てるだろ、もうトップ争いに参加してるんじゃないか?」

「ものの数十分で東京間を往復できちゃうのは異常ですよね。」

「あの武道大会に比べたらどれだけマシなことか。」

「キヨシくんなんて魔法使ってたよね。」

「私の周りっていつからこんな人達ばかりになったのかな…。」

「そりゃ決まってる、フラトレスに入り浸るようになってからだろ。」

「やっぱりそうだよね。」


おふざけ半分で肩を落とす緋結華。

女子高生があのレベルでハルバート振り回すのも十分に異常だって判ってるのかな?

来年もまたやるのだろうか、緋結華も更に強くなって大変なことになりそうだ。


「さて、そろそろ次のポイントに向かうとしますか。」

「うん、お餅も十分堪能したしね。」

「次も食べ物だったら私肥る……いやぁ~。」

「お前は十分に痩せてるだろ。」

「女の子はもっと痩せたいって思うものなんだよカズくん。」

「そうですよ、カオリさんは判ってるなぁ。」

「現状を享受せず更に上を目指すか、俺たち武人と同じかな。」

「そうですよ、だから私は両方に忙しい、大変ッス。」

「緋結華ちゃんは趣味とかないの?」

「趣味ですか?実は意外に料理が得意です。」

「うわ、何かあたし負けた?」

「あの炒飯のレベルだと負けてると思います。」

「思い出さなくていい!」

「何ですかその炒飯って?」

「ご飯を様々な具材と一緒に炒めた中華料理。」

「いやいやそういうことじゃなくて。」

「まぁ話すと長くなるんだが……。」

「話さなくていいから!緋結華ちゃんも気にしちゃダメよ!」

「りょ…了解です。」


カオリの威圧発動、緋結華萎縮。

因みに次の観光スポットは森林公園、唯一の自然公園だ。

そこでゆっくりと森林浴して、美味い空気をたくさん吸うってプラン。

チェックポイント自体は駅前にあるみたいだから、恐らくゆっくり森林浴できるはずだ。

………日頃のストレス解消する千載一遇のチャンス、無駄にしたくはないな。




その頃、ホカゾノたち二人はというと…、


「テメェには負けねえよ、いつかのお返しだ!」

「負けたら最後のダッシュで十秒停止だからな!」

「約束は守れよゴリラァ!」

「そっくり返すぜ豆粒ぅ!」

「いざ尋常に………始め!」

『うぉぉぉぉぉ!』


苺早食い勝負を始めていた。


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