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3月20日 Day.17-1


それは昨日のことだった。

俺が割れた皿の数だけホカゾノを蹴りつけ、休憩がてらカウンターで発注の確認をしていた時だ。


「マスター、ハロー。」

「ん?緋結華か、いらっしゃい。随分早く来たな、学校はどうした?」

「今日は開校記念日なんだ、だからお休み。」

「ほぉ、それは良かったな。」

「マスターは何してるの?」

「色々備品の発注、たまにまとめ買いしとくんだ。」

「色々することあるんだね。あ、そういえばマスター、これ知ってる?」


緋結華が鞄から取り出したのはA4のポスター、表には大きく町内スタンプラリーとプリントされている。

ポスターを受け取って裏も見てみると詳細なルールが載っていた、どうやらまた勝負形式のようだ。

緋結華が楽しみといった様子で覗き込んでくる。


「マスターなら勝てるでしょ?」

「それより何故この街はとにかく勝負にしたいんだ…。」

「良いと思うけど?学校の体育祭とかも頭使って戦うようなの多いし、きっとこの辺りの伝統なんだね。」

「まぁ勝負は別として結構興味はそそられるな、チェックポイントも見て回れる場所が多い。」

「ちょっとした小旅行って感じじゃない?」

「そうだな。どうやら鉄道会社とも提携してるみたいだ、参加費は一人五千円か、交通費も含めたら安いな。」

「私も参加するよ、師匠に一度きちんと自分が住む土地を見てきなさいってお小遣いまで貰っちゃった。」


あのクソジジイ、緋結華を勝手に孫扱いか。


「俺もカオリを連れて行くか、日頃のリフレッシュにはなるだろう。勝負に興味はないが。」

「良いの?賞金とか景品もあるみたいだよ?」

「一位は十万円と小型液晶テレビ、二位は五万円とデジカメ、三位は一万円とPS2…いやPS2って。」

「PS2って何?」

「……俺も歳をとったなぁ。」

「え、何でマスター遠い目をしてるの!?」

「いや、気にするな。多分中古ゲーム屋に行けば判るよ。」

「あ、ゲームなんだ。」

「正確にはゲーム機だけどな、俺が高校生くらいの頃の。」

「知らないよ流石に。だってマスターって確か…。」

「言うな!年齢に関しては触れるな!」

「ご、ごめん。」

「まぁいい。とりあえず明日は一緒に行くか?カオリも緋結華なら良いって言うだろうし。」

「うん行く~!」


あぁジジイ、気持ちが判ってきた、こいつ素直すぎるわ。

そりゃお小遣いくらいやりたくなる、きっとこっちが期待した通りに使ってくれそうだ。


「そういえばマスター、お腹すいた。」

「ん、待ってろ。」


俺はカウンターに入り、二人分の昼食を作る。

今日は客足も少なく、カウンターもホカゾノが居ればどうにかなる、他の奴らはそれぞれ頼んだ仕事に行っているはずだ。

キヨシは板橋さんのとこへおつかい、生豆が少なくなってきたからな。

ヒロトには野菜を買いに農家に直接行ってもらった、俺が発注していたのはストローみたいなものだ。

カオリは部屋でのんびりしてるだろう、今日は休みにしたから。

出来上がったパスタを皿に乗せて、甘めに作ったキャラメルラテもトレーに乗せる。


「兄さん、暇。」

「まぁそういう日もある、耐えろ。」

「あれって緋結華だよね?」

「平時の視力は相変わらず悪いのなお前。」

「いざ戦いになれば弾丸さえ見切る自信はあるんだけどね、あれは疲れる。」

「内容は後で話す、暫らくは我慢しろ。」

「う~い。」


返事をしつつ壁に寄りかかって料理本を読み始めた、一応仕事に関係してるから大目に見てやるか。


「ほれ、マスター特製パスタだぞ。」

「美味しそう!頂きます!」


ちゃんと行儀よく食べ始める、ますますジジイの気持ちが判る、バイトに雇ったら素敵だが多分ジジイがキレて斬りかかってくるだろうな。

クリームスープパスタを器用に食べる緋結華を眺めながら、俺は発注に見切りをつけて書類をしまう。

丁度昼御飯を食べにカオリが降りてきて、満面の笑みでパスタを頬張る緋結華を見つけて笑った。


「そろそろだと思って作っておいた、食べるだろ?」

「ありがとうカズくん、緋結華ちゃんこんにちは。」

「こんにちはカオリさん、お邪魔してます。」

「何か緋結華が面白い話を持って来たぞ、ほれ。」

「ん?スタンプラリーかぁ、何するの?」

「その名の通りです、スタンプラリーですよ。」

「勝負形式のな、景品まであるらしいぞ。」

「好きだねそういうの。」

「まぁ格安で小旅行も出来る企画だし、せっかくだからこの三人で見て回ろうと思ってな。」

「あたしは構わないけど、あそこで立ったまま寝始めたホカゾノ達は?」


カウンターを見るとホカゾノが眠りながらぐらぐら揺れていた、荒ぶるな。


「奴らはどうせ汚い手を使ってでも勝負にいくだろうし、俺らはゆっくりしよう。」

「汚い手って?」

「一般人相手に本気で走ったり、瞬歩でショートカットしたり、優勝候補とか言われてる連中をとりあえず潰したりと。」

「そこまでするんだ…。」

「でもまぁ、今回は敗けるだろうなぁ。」

「え、敗ける要素ないよね?」

「緋結華ちゃん、あいつらには修正不可能なくらいダメな欠点があるの。」

「そんな風には見えないけど。」

「あいつら極度の方向音痴なんだよ、人の域を越えた感じで。」

「明日になったら判ると思う、期待してて。」

「期待するようなことなの!?」

「ただいま~。」


ちょうどそこにヒロトが帰ってきた、随分疲れた様子だ。


「お疲れヒロト、珈琲飲むか?」

「ん、飲む。」

「なんだ、またたくさん貰ったのか?」

「うん、もうあのおばちゃんやだ。」


最近取引を始めた有機栽培農家のおばちゃんがヒロトをいたく気に入ったらしく、ヒロトを行かせるとおまけの野菜を死ぬほど貰ってくるのだ。

お陰で随分取引も上手くいっているのだが、ヒロトが壮絶な勢いで嫌がる。

今朝もかなり説得して行ってもらったのだが、やはりダメだったか。


「温かい緑茶とお煎餅貰った、美味かったけど逃げれなくなった、若い頃の話を延々された、キラキラした瞳でずっとガン見された、ダメだヒロイさん、俺はいつか食われる………。」

「すまなかった、もう頼まない、今は休め。」


ヒロトは猛烈な勢いで煙草を吸い始めた、止めはしない、存分に吸え。

するとホカゾノが目を覚まし、目の前でやさぐれるヒロトを見た。


「遂に犯されたか!」

「黙れ死ね殺すぞゴミカス。」


ヒロト君、恐ろしいという言葉じゃ生易しいくらいの目付きですよ、ほらホカゾノ固まっちゃった。


「おいホカゾノ、明日スタンプラリーがあるそうなんだが出るか?」

「やだよ面倒な、記念品とかしか貰えないでしょ?」

「一位は十万円と…。」

「さて、キヨシと作戦会議だな!色々手を回さないと、ふっふっふ。」

「勝負がかかってるからって法に触れるなよ?」

「兄さん、ルールは良く調べて裏をかくためにあるんだぜ!」

「無駄にそういうのだけ賢いなお前は。」


すぐさま電話を始めたホカゾノ、大丈夫だろうな。


「ホカゾノさんヤル気満々だね。」

「多分キヨシ君もノリノリで楽しむでしょ。」

「二人で協力して賞金は山分けか、狡賢いな。」

「ヒロト君は参加するの?」

「しないよ面倒な。」

「だよね。」

「なんだよヒロトやらないのか?」

「賞金には興味あるけど頑張る気力はない。」

「ヒロトさんってこのお店で一番人間ですよね。」

「鬼神、武神、キングコング、銃の名手、こんなんばっかだと普通だよな俺。」

「おいおいヒロト、認識さえさせない気配遮断をするお前が普通だと?はっ、冗談にしてはキレがないな。」

「遠くの人の気配まで探れるのに普通って…。」

「ヒロト、いくら何でも言いすぎだぞ。」

「マスターたちの方が言いすぎだと思う。」


この店って気持ち悪いな、一番スペック弱くても化け物扱いか。

でも緋結華、実はヒロト、俺の次に強いかもだぞ。

本気を出したヒロトはきっとキヨシたちじゃ捉えきれない、気が付いたら敗けてるだろうな。


「じゃあ私はそろそろ帰るね、部屋の掃除しなくちゃ。」

「それはいいな、誰かさんにも見習ってほしいものだ。」

「兄さんの部屋もそんな綺麗じゃないよね。」

「お前の人生の断片を積み重ねた部屋よりマシだと思うがな。」

「あはは、ではではマスターとカオリさん、また明日ね。」

「うん、気を付けて帰ってね。」

「は~い。」


元気よく店を出ていく緋結華、あぁ和む。


「話は聞かせてもらったぁー!とうっ!」


厨房から飛び込み前転で現れたキヨシは、格好よく決めポーズまでして帰ってきた、床汚いぞ?


「俺も当然参加だ!ホカゾノ!参謀はテメェに任せるぜ!」

「ふっふっふ、甘いなキヨシ!既に裏工作まで終わってるぜ!」

「流石だホカゾノ!これで俺たちの勝利は確実だな!」

「参加者には血のスタンプを捺してやるぜ!」

『あっはっはっはっはっは!』


爽やかさとは無縁な元気だ、暑苦しいなぁ。

裏工作とか凄いんだろうなぁ、事前の根回しはホカゾノ得意だし。

頼むから店の評判を落とすのだけはやめてくれ。

奴らは悪さしかしないからな、君たちが破るために法律はあるのとちゃいますよ?

そういえば飯とかも安く食べれるみたいだったな、少し楽しみになってきたぞ。


「カオリ、ここら辺の特産品って何があったっけ?」

「お肉はそれなりに有名だよね、豚さん。」

「良いね、まだ寒いからしゃぶしゃぶとか食べたい。」

「今夜は鍋にする?」

「キムチ鍋食いたいぞ!」

「キヨシにしては悪くない意見だ。」

「ウチは海鮮鍋がいい、鱈が美味いのよ。」

「あぁ、白身魚は美味いし、淡白だから出汁の旨味を吸うからな。」

「最強の鍋とはすき焼きである。」

「ヒロト……お前は天才か!」

「だがしかし、我々には中々手が届かない食事であるのもまた事実。」

「でも美味しいよね~。」

「生卵を絡めた牛肉と汁の旨味ときたらもう……ねぇ兄さん?」


キラキラした眼差しで俺を見つめる四対の瞳。

こんな期待をされたら応えないわけにはいくまい、家主として、何より美味いもの大好きとして。


「……キヨシ、ホカゾノ、ヒロト。お使いを頼めるか?」

『応!』

「買うべき物は判っているな?」

「大量の肉!」

「椎茸!」

「白滝!」

「厚揚げ豆腐もヨロシクね!」

「葱も忘れんじゃねぇぞ!」


俺は財布をキヨシに手渡す、恭しく跪いて受け取るキヨシ。


「皆の者!………出陣じゃあ!」

「腹が鳴るぜ!」

「俺は用意を済ませておく。カオリ、手伝ってくれ。」

「了解。」


三人は意気揚々と買い物に出かけていった、さぁ、準備するか。




「で、予定より随分多いな。」


俺はグツグツと煮える鍋を見ながら、箸を持って合図を待つ面々を見渡した。


「普通に店に食いに来たら面白いこと計画してたからな、そりゃ参加だろ。」


そう言って箸を構えるシカマ。


「鍛練の後で買い物してたらホカゾノさん達に誘われて。あ、ちゃんとお母さんには連絡したから大丈夫!」

「ワシも緋結華と一緒じゃったからな、たまには肉も食いたいしの。」

「宗十郎さんがウチにいらっしゃるのは初めてですよね?」

「久しぶりじゃのカオリ殿、今宵は世話になるぞ。」


天真爛漫な緋結華と、図々しくも着いてきた宗十郎。

俺がホカゾノ達を睨み付けると、ホカゾノが慌てて否定する。


「兄さん違うから、ウチらは誘ってないから。この爺さんに脅されたんだって。」

「失礼な小僧じゃの、ちょっと刀を素振りしながら聞いただけじゃろ?」

「はぁ………まぁいい。鍋は大勢で囲むもんだからな。」

「判っとるじゃないかカズタカ。ワシも鍋は婆さんが死んでから久しく食っとらんかったからのぉ。」

「師匠…。」

「宗十郎さん、飯の前にするにはちょっと重いッスよ?」

「おぉすまぬ、気にするな!もう随分昔の話じゃからの。」

「まぁ気にしてないが。」

「早く食べよう兄さん!」

「だな。んじゃ皆………、いただきます!」


『いただきます!』


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