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3月3日 Day.16


雲一つない爽やかな快晴、少しずつ気温も上がってきた。

俺はいい気分で自分の布団をベランダに干しながら、布団叩きで細かい埃を落としていた。

すると後ろから気配を消しつつ近づいてくる奴が一人。


「何の用だキヨシ?」

「ありゃ、やっぱバレるのか。」

「当然だ、消すならヒロトくらい消せ。」

「あれは天性の才能だと思うけどね。」

「大体な、わざわざ気配を消す必要があるか?」

「いやぁ朝も早くから自分の布団にSMプレイかましてるお兄さんを邪魔するのも野暮ってもんでしょう!」

「上等だテメェそこに直れ!」

「まぁまぁそんなことより!」

「自分の罪から逃げるな馬鹿め。」

「今日はこどもの日、神様が思わぬ失態をしでかした日だぜ!」

「確かに、天上天下唯我独尊なゴミをポイ捨てした日だな、モラルの欠片もない野郎だぜ。」

「ゴミはゴミ箱にって教わらなかったんだろうよ。」

「人の上に立つ存在のくせにろくなことしやがらねぇ、余計な生き物こさえやがって。」

「おまけに人間の形に作ったせいで人権まで持ってるんだぜ?」

「化け物ふぜいが生きる権利だと?いよいよ笑えないな、神は降りてきて魔物狩りをすべきだ。」

「朝から壮大な話をしてるなぁ……。」

「お、噂をすれば件の君。」

「どゆこと?ファンタジーの話じゃなかったの?」

「似たようなものだけどな。」

「てか兄さん暇なの?朝から布団にスパンキングなんて。」

「朝から眠りたいだなんて精が出ますねクソったれ。」


神様も随分かったりぃ化け物忘れていったな、とっとと取りに来いボケ。

俺は布団叩きをフックに引っ掛け、キッチンに向かう。

因みに今日はフラトレスの休業日、ちゃんと週一で休みくらいあります、かなり不定期だけど。

更に言うと今は午前十時過ぎ、朝と言うにはもう遅い時間です、休みだからって寝すぎだ馬鹿共。

ヒロトは早くから起きて出掛けて行った、恐らく今頃は整理券を貰っているだろう。

カオリは多分まだ寝てる、まぁカオリは良いんだよ。

魚を焼きながら卵焼きも作る、味噌汁は今朝作った分を温めなおす。


「てかゴリラ、テメェは飯くらい作れんだろうが!」


当たり前のようにこたつでぬくぬくしてやがる馬鹿を怒鳴りつける、いっぺん死ね。


「今日のご飯は?」

「魚。」

「兄さん兄さん、お味噌汁と卵焼きもでしょ?」

「全部か?全部言わなきゃ駄目か?つか匂いで判るならいちいち聞くな!」

「ねぇまだ?」

「弟くん、黙って待っててね、死にたくはないでしょう?」


キヨシは無言でノートパソコンを取り出すと、静かにEnterキーを叩き始めた。

流れ始める穏やかなBGMと喘ぎ声、包丁投げ付けたいなぁ。


「そこに入れるのか?」

「あぁ、ケツにな。」

「下衆な台詞しか吐けねぇその口を今すぐに閉じろ!あとミュートでやれ!」


ボンクラーズの二人は渋々といった感じでミュートにした、それでもゲームを止める訳じゃない、元気な奴らだ。

無言なのに無表情ではない、そんな状態でEnterキーを押して画面を覗く二人はかなり気持ち悪い、時折声に出さずニヤリと笑うんだ。

呆れ果てて無視することにした、俺も無言で朝食を並べると自室に戻る。

今日は鉄工所に用事がある、無理言って注文したブツが出来上がってる筈だ。

コートを羽織り、部屋の扉を開ける。


「お兄~さん、何処か行くの?」

「………。」

「あれ~、無視しないでよ~。」

「気持ち悪い猫なで声出すんじゃねぇよボケ!」


おもいっきり蹴りを入れてブッ飛ばす、おぉピンボールみたいに跳ねていった。

リビングに行くとホカゾノ二度寝敢行中、まだ寝るのかこ奴は。


「ウビュルルルル。」


………。

えっと、こたつの電源を切って、冷房を十八度設定に。

俺は靴を履いて、もう一度財布を確認すると、玄関のノブを下ろした。


「きゅーぴぴぴぴぴぴぴー!」


どうやら突発プレミアを引いたらしい。


「シンジ君、集合の時間はとっくに過ぎてるわよ?」


集合の約束をした覚えがないのは言うまでもない。


「悲しい歌だね。」


歌?

そんなものは聴こえないが?


「これが私たちの住む街、第三新東京市よ。」


この何の変哲もない鉄の扉が?

冗談でしょう。

さてそろそろ心の中でのツッコミにも飽きてきたな、手早く片付けようか。

躊躇わず、しかし扉を壊さないギリギリの力加減で蹴り開ける。

面白いくらい額に直撃し、キヨシは声にならない悲鳴を上げて地面をのたうち回った。


「Dummit!Fuckin!Shit!」

「口が悪いぞ、謹みなさい。」

「いや痛かったから!謝れ!」

「ふう…で、何の用だ?」

「何で踏ん反り返って偉そうにした?」

「言葉を謹みたまえ、君はラピ○タ王の前にいるのだ。」

「貴様正気か?」

「黙れ小僧!」

「ラ○ュタは!?」

「お前にサンが救えるか?」

「彼女がマゾならば!」

「何ぃ!?」

「で、お兄さんは何処に行くの?」

「鉄工所。」

「何故?」

「とある物を取りに行く。」

「ミサイル?」

「どうしてそうなった!?」

「じゃあ刀?」

「そいつも魅力的だが違う、まぁ暇なら着いてくるか?」

「そうする、する事ないし。」


多分こいつは何か用意するつもりもないのだろう、本人が覚えてるかも怪しいからな。

キヨシがコートを取りに行くのを待って歩きだす。

しかしよくあんな注文を受けてくれたものだ、あの異質な物はどこかで法律に抵触しそうだからな。

使い道も判らないまま作ってくれたことだろう、ありがたいことだ。

恐らくあんなものを普通に使いこなせるのはホカゾノくらいなものだ、俺でもあれは使いづらいだろう、何より属性が違う。


「あ、紋白蝶だ。」

「……うわ。」

「いい天気に春の気配を感じた心優しい弟に対しうわとは何事か!」

「だって柄じゃないだろ、箒振り回して看板壊すような奴だと特にな。」

「それがギャップじゃん!女の子のハートを掴むんじゃん!てか昔のことを持ち出すとかズルいぞ!」

「同じこと俺がしたら気持ち悪いって言うだろうが、それと一緒だ。」

「あぁ、それは気持ち悪いな!」


この野郎、やっぱ連れて来るんじゃなかった。

それきり大人しくなった愚弟を連れて、町外れの工業地帯にやってきた、普段嗅がない臭いが充満している。

だがこの青空は偉大なもので、鉄や工業用油が満たすここでさえ少し爽やかに見せている、自然って素晴らしい。

俺は工場の中でも一際喧しい一角にある建物に入る、誰にも止められない、大丈夫かここのセキュリティは。

中に入ると何人もの作業員が様々なパーツやフレームを作っていた、あれはパソコンかな。

すると奥の方から書類を睨み付けながら歩いてくる一匹のゴリラ、もとい巨漢が見えた。

男は俺たちに気付くと、口元に笑みを浮かべて近寄ってくる。


「おぉカズタカ、やっと来やがったか!」

「おやっさん、入り口に警備くらいおけよ。」

「ガッハッハ、どうせ盗られるようなもん置いとらんわ!それよりそっちのは誰だ?」

「俺の弟のキヨシ、一緒にカフェ経営してる。」

「ちわッス、よろしくッス!」

「おうよ!にしてもお前小さいな、ちゃんと肉を食え肉を!」


キヨシが隣でプルプル震えてる、怒らない怒らない。


「んでおやっさん、例のブツは出来てるか?」

「あたぼうよ!こっちに来い!」


豪快な歩き方で倉庫へと案内してくれる、良いのか俺たちがこんな奥まで入って。

特に鍵もかかっていない扉を開けると、中の照明が点灯する。

中央のテーブルの上に見えるのは、やたらと馬鹿でかい革のケース。


「頼まれた通りの形状と材質で作ったが、どうすんだこんなもん、持って帰るのも大変だぞ?」

「まぁ俺なら大丈夫だろう、使うのは俺じゃないし。」

「何これ?」

「帰ったら判るさ、お楽しみは後でな。それよりサンキューなおやっさん、これ代金。」

「おう、お前には借りがあるからな、また用があったら来い!」


俺はケースを肩に担ぐと、おやっさんに礼を言って工場を出る。


「お兄さんって何げに人脈広いよね。」

「こっちに来たとき色々手伝ったり手伝われたりしたからな、自然と顔は広くなったさ。」

「いいから早く帰ろうぜ!」

「なら面倒だから瞬歩使うぞ、ちゃんと着いてこいよ。」


一瞬で工場の屋根に着地すると、超高速で建物の屋根を足場に跳んでいく。

後ろを見ると一生懸命キヨシが着いてきている、中々頑張るじゃないか。

景色は次々と後ろへ流れ、普通の人はこちらに気がつきもしない。

人がいないことを確認し、家の前に着地する。

少し遅れてキヨシも着地、既に肩で息をしている、タバコ控えろ馬鹿。


「速すぎだろお兄さん。」

「伊達に鬼神とか言われてねぇよ。」

「ねぇ化け物。」

「呼び方変えようか。」


さて、そういえばホカゾノはどうなっただろう。

リビングに入る前にキヨシへ目配せ。

ニヤリと笑って頷くと、互いに棚からハンドガンを取り出し、構える。

指を立ててスリーカウント、3…2…1…GO!

扉を勢い良く開け放ち、ローリングで突入する。

外よりも寒いリビングに入り、こたつで横になるホカゾノへ一斉掃射。


「隊長ダメです!凍っていて効きません!」

「え、それって死んでないか!?」

「死んでるかもね。」

「とりあえず寒いから暖房つけよう、すぐに溶けるだろ。」

「溶けて動きだしたら化け物確定だけどね。」

「ふぁぁ、よく寝た。」

「あ、化け物。」

「何だよキヨシ、人の顔ジロジロ見て。」

「化け物って実は神秘の生き物だよな。」

「それがどうした、当たり前だろ?」

「何であれは生きて活動してんの?」

「気持ち悪い生き物だ。」

「酷くない!?寝起きからいきなり侮辱の嵐とか。」

「まぁいいや、とりあえずこれやるよ。」


俺は肩に担いだ革のケースを、寝転がったホカゾノに向けて放り投げる。

軽く100キロはあろうかという中身が、容赦なくホカゾノの腹を押し潰した。


「おっふ!」

「お、いよいよご開帳か!」

「テメェ誕生日だろ?だからそれはプレゼントだ。」

「ならせめてもう少し優しく渡して!」


起き上がったホカゾノはケースのジッパーを下ろし、中の物を引きずりだした。


「これは……。」

「まさかあれを作ったのか。」

「あぁ、思い付きだ。握りやすくするために多少デザインは変えてあるがな。」

「また武器のバリエーションが増えたぜ!」


ホカゾノが掴み構えるは白銀の十字架。

かつてキヨシが書いていた小説に出てくるホカゾノ専用兵器。


「強度は保証付きだ、あのおやっさんは無意味に何でも堅く作るからな。」

「おぉ、もう少し早く手に入れば武道大会で使えたのに。」

「また来年にでも使うんだな。」

「サンキュー兄さん、大事に使わせてもらう。」




そして翌日。


「テメェもあの割れていった皿のように砕けろや!」

「いやぁー!」

「斬り裂け兼定!」

「今だ!」


俺の兼定を受け止めたのは白銀の十字架、チッ、大事に使うじゃないか。


「まさか兄さんのプレゼントで命を救われようとは、世の中って不思議!」

「甘いな坊や、それはテメェの土葬用だ!」

「ぎゃあああああ!」


木野塚商店街のフラトレス珈琲店。

その前に新しい十字架のモニュメントが出来た日でした。


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