2月26日 Day.15-1
朝の爽やかな空気の中、俺は黙々と店の前の雪かきをしている。
あぁ、穏やかな日々に感謝。
すると、商店街の向こうから見慣れた中年男性がこちらに歩いてくる、あれは。
う~ん、これは前にも見たな。
「助っ人募集?」
「そうなんだよ、足首を捻挫したらしくてね。」
やっぱりか、だと思った。
「まぁ別に構いませんが、何故ウチに?」
「いやぁこの前の武道大会の活躍ぶりなら絶対勝てると思ってね。」
「どんだけ勝ちたいんですか。てかウチの面子を入れたら先方に嫌われますよ?」
「大丈夫、向こうも似たようなことしてるから。」
「はい?」
「武道大会優勝者と最強の女子高生を雇ったらしいんだよね。」
「あぁ、納得です。」
「だからチームフラトレスから二人、助っ人頼めないかな?」
「そういうことなら構いませんが、俺は出ませんよ?」
「え、何故だい!?」
「いくら相手にあの二人がいるとしても流石に文句言われます、それに店を放置出来ません。」
「そうか、残念だが仕方ないね。」
「代わりにホカゾノとヒロトを向かわせますんで、まぁ適当に使って下さい。」
「判った、助かるよ。」
「但し助言を一つ。」
「ん?」
「奴らは自分のテンションでしか動きませんので、手綱を取るのは難しいですよ。」
「ははは、肝に銘じておくよ。」
「因みにいつなんですか?」
「明日。」
しれっと言ったな~こいつ。
「あ、明日ッスか?」
「急な誘いでごめんね。」
「まぁ構いませんが、合同練習とかしなくて平気ッスか?」
「それは大丈夫、元々そんな本格的な練習とかしてないから。」
なら何で武神を投入すっかな。
まぁ、どちらにせよアイツらはワンマンプレーしかしないだろうけどさ。
「というわけで、お前らは明日野球の試合に出てもらうことになった。」
「ふ~ん。」
「いやいやウチユニフォーム持ってないから。」
「それについては問題ない、私服で構わないそうだから。」
「店はどうすんの?」
「三人で捌く、平日だしどうにかなるだろ。」
「兄さん来ないんだ。」
「出場しないからな、大した時間も掛からないみたいだし。」
「一試合だけなんだ。」
「商店街同士のお遊びだ、そんな本格的でもない。」
「なら別に良いかな。」
「因みに試合が終わったらお前らはフリーだ、店で働かなくてもいいぞ。」
「それは楽、助かる。」
「つまんないだろうなぁ、だって相手はオッサンでしょ?」
「あぁ、シカマと緋結華も出るらしいぞ。相手チームの助っ人だそうだ。」
「その為の俺達か、納得。」
「武道大会の雪辱を果たす良いチャンスだ、ゼッテー敗けない!」
でも厳しいだろうな、シカマ野球経験者だし。
「とりあえず今日は店だ、真面目に働きやがれ。」
「ウホッ。」
「んあぁぁ!」
「急に奇声上げんな気持ち悪い。」
「ウホッ?ウホウホ!」
「ТФЮЛд!」
「判るか!」
カランカラン。
「あ、いらっしゃいませ~。」
「マスター、カルボナーラ二つとお冷や、あと食後にカフェオレ二つお願いします。」
「ありがとうございます、少々お待ち下さい。おらそこのゴリラ、お客様にお冷やとおしぼりをお渡ししろ。」
「ツーマッスル入りま~す。」
「きゃはっ!」
「死ね!」
二人を厨房に蹴り飛ばす、派手な音がしたが後で片付けさせよう。
「お待たせいたしました、お冷やとおしぼりです。」
「………あの二人大丈夫ですか?」
「えぇ、お客様がお手を拭く頃には戻って来ますよ。」
「いって、兄さんいくらなんでも酷いぜ。」
「初めて蹴られた、マジに痛いな。」
「お前初めてだったの!?」
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
「あ、ははは。」
「忌々しいくらいに丈夫ですから、40mm機関砲でも死ぬかどうか。」
「や、流石に死ぬからね?」
「チッ、ゴミが。」
「ヒロイさんが一番お客さんの前で暴言多いよな。」
「………この店怖ぇ。」
まだまだこの店の雰囲気に慣れてない人も多いんだな、向こうじゃアンティークランプの隙間のP90を気にしてるみたいだし。
慣れない内は武器庫、慣れても異常な喫茶店だからな、十回くらい来てくれたら慣れるよ。
まぁ全部居合い刀とかモデルガンだから殺傷能力はないけど……いや居合い刀なら殺せるが、とりあえず一応安全だしな、法には多分触れてない。
「来たぞトシユキ!いざ尋常に勝負!」
「来やがったなじいさん、そろそろ諦めたらどうだ?」
「ワシは負けたまま引き下がるのが嫌いなんだ!」
「だったら今日も負けたら朝飯食っていけよ!」
「今日こそ婆さんの飯を食わんと殺されてしまうわ!」
「どうせお迎えが近いんだ、最愛の婆さんに送ってもらえ!」
「ワシはまだまだ死なんわ、鍛えとるからな!」
元気な爺さんとホカゾノが腕相撲を始めるため、店の隅のテーブルに向かう。
この爺さん街じゃ有名な筋トレマニアで、元は軍人だったらしい、第二次世界大戦を生き残った豪傑だ。
軍隊で鍛えた体を持て余し、退役した後も筋トレを続け、今となっては腕ゴリラ。
銃や刀が飾られるここをいたく気に入り、アクティブな性格もあって暇さえあれば顔を出すようになった。
朝飯を賭けて勝負を始めたのはここ最近の話で、真性のゴリラであるホカゾノとまさかの互角。
まだ勝ったことはないようだが、結構お互いガチらしい、テーブルが壊れなければいいが…。
近くにいたカオリが、手を組み合った二人を見て審判を勤める。
「それじゃ二人共、力を抜いて~。」
「カオリさんは今日も可愛いのぉ~。」
「おい爺さんそれはっ………。」
「あ゛ぁ!?おいコラジジイ、ざけたことしてんじゃねぇよ!ババアより先に俺がテメェを送んぞ?」
「あ……あぁすまん、悪かった。」
「低姿勢だな~。」
「爺さんあんまりお兄さんを怒らせると来世分の死期も早めるよ?」
「そ、そうじゃな。」
ったく調子に乗りやがって、出禁にすっぞ。
「殺されずに済んで良かったですね。それじゃREADY…FIGHT!」
「はあぁぁぁぁあ!」
「うらぁぁぁぁあ!」
ゴリラ同士の暑苦しい戦いが始まる、あぁ五月蝿い。
「この店って激しいな、面白いぞ。」
「これってここのイベント?」
違いますよ~、別に企画してるわけじゃありませんから。
気が付くといつもこんな感じになっちまう、厄介な生き物だよ。
こんなんでまた変なファンが増えるのか、売上が良くなるのは助かるけど。
「Winner!ホカゾノ!」
「ウチの実力はこんなもんじゃないぜ!」
「たまには人生の先輩を立てんかい!店主、いつものやつじゃ!」
「ありがとうございます。キヨシ、珈琲を。」
「了解。」
「また鍛え直しじゃー!」
「ふっふっふ、また来いよじいさん、朝飯食いにな。」
「ワシが勝ったらあの刀は貰うぞ!」
「いいぜ!」
「ちょっと待て、刀ってどういうことだ!?」
「兄さんの刀を担保にして賭けてるからね、大丈夫、ウチは負けないから!」
「ざけんなよテメェ、人のもん勝手に賭けやがって!最近やけに爺さんが熱心だと思ったらそういうことか!」
「刀は日本の心じゃ。」
「気持ちは判るぜ爺さん、だがその賭けは無効だ、俺が許可してねぇ!」
「今更無効だなどと納得できるか、既に何度も婆さんに怒られておる、後には引けん!」
「家庭の事情なんぞ知るか!文句があるならそのゴリラに言え!」
「ウチに話を振らないでよ兄さん。」
「元を正せば貴様が原因だろうが!」
「というか貴様、何でワシの朝食食べとるんじゃ!」
「そこに飯があったからさ!」
『…………。』
「あれ、二人ともどしたの?」
『もういいテメェ表出ろ!!』
爺さんと俺の二人がかりで馬鹿を掴む。
「消えて無くなれこのゴミがぁ!」
「灰塵と化せ小僧ぉ!」
「すみません確かにウチが悪かったですいやぁぁぁあ!」
「ホントあいつは懲りないよ、ねぇヒロトくん?」
「そうですよ、ねぇカオリさん。」
「やっぱマゾなんじゃねぇのあいつ。」
「いやいやいやいや兄さん兄さん!ウチを殺したら明日の約束破ることになるよ!?」
「む、それはまずいな……キヨシで代用しよう。」
「いやぁぁぁあ!」
「何じゃ約束って。」
訊きながらも全く殴る速度を緩めない、流石だぜ爺さん。
「あぁ、何か明日野球の試合があるそうで、その助っ人にこいつも含まれてんですよ。」
「ほう、貴様も出るのかトシユキ!」
「ウチへの質問は殴らない人に限ります!」
爺さんは黙って蹴り始めた、う~んお茶目なバイオレンス。
「痛っ、ちょっ、暴力反対!」
「それで、出るのかと聞いておるじゃろトシユキ。」
「あぁ出るよ!いいから蹴るの止めろよ!」
「では明日負かして欝憤を晴らすとしようかのぉ。」
「なんだ、じいさんも出んのか?」
「当たり前じゃ、ワシはキャプテンだぞ。」
「え、マジで!?」
「国重は、実は意外と、野球好き。」
「爺さん、そういうのいいから、季語入ってないから。」
「野球と言えば夏じゃろ!」
「今は冬だろ!」
「季語の話じゃろ?」
「あ、そうか。」
「兄さんは、実は意外と、早とちり。……ぷぷっ。」
「ゴミ野郎、そろそろ真剣で、やっちゃうぞ?」
「何じゃ二人して五・七・五で喋りおって。」
『テメェが始めたんだろ!』
「おぉ!」
『この野郎。』
このジジイ、ノリがウザすぎる。
俺の周りのジジイはすべからくウザいな、とっととお迎えが来ればいいものを。
ゴリラ爺さんを追い出して、通常業務に戻る。
多分明日は荒れる試合になりそうだな、一人くらい監視として送るべきだろうか。
俺は不安に感じつつも、明日はのんびりと仕事が出来そうだと喜びつつ、お客様の珈琲を淹れるのだった。




