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2月3日 Day.14-3


昼間から大騒ぎして疲れ、夕飯を食べ過ぎて苦しみ、気が付いたら馬鹿二人は爆睡していた。

好都合だと思い風呂に向かい、少し熱いくらいの温泉に浸かる。

極楽極楽、毎日ツッコミに忙しい、安らかな日々が待ち遠しいね。

タオルを頭に乗せて、夜空を見上げる。

やはり山から見る空は格別だな、星がたくさんだ。

美しい景色に目を奪われて、ふと左右を見回した。


したり顔で俺をニヤニヤと見る馬鹿に取り囲まれていた。


はぁ、俺の安息って中々見当たらないなぁ。

一日中イライラせずツッコミもしなくていい日ってないのだろうか……。


………いや、ないないないない。

ありえないな、俺がチーズ大好きになるくらいありえない。

あんな牛乳を腐らせてカビ生やしたような汚染食品を美味しく食すなど、こいつらみたいに頭が空っぽでそれが何なのかすら判断できないようなキチガイの食べ物だ、人の食い物じゃない。


「何でそんな全力でチーズを否定するかなぁ。」

「何でそんな普通に人の思考を覗くかなぁ?」

「まぁとりあえず兄さんに安息の時間など無いと。」

「あっはっは、ブッ殺すぞ?」

「俺たちを舐めてはいけない!例えこの命果て、この身滅んでもお兄さんに迷惑かけてやる!」

「朽ち果てろカス!」

「バタ足!」

「大人しく沈め!」

「馬鹿野郎!男は黙って犬掻きだ!」

「そうか!」

「そういうことじゃねぇ!」

「泳げないお兄さんはそこでじっとしてな!」

「金づちな兄さんは、ウチらのスウィミンクな談議を心淋しく聴いていたまえ!」

「………。」

「Oh、ブラザー、浮かない顔だね。どうしたんだい、体が水に浮かないのかぃ?」

「Hahaha、ナイスジョークだなキヨシ!」

「………………。」

「すぐに心が折れてはいけないよ、それじゃ現代の荒波には勝てないさ。」

「心を強く持とうぜブラザー、Hahaha!」

「…………………来い。」

「What?何が来るんだい兄さん。」

「ヤバい!ホカゾノ、逃げるぞ!」

「え、何で?」

「エクス………。」

「全力疾走!」

「こりゃ死んだぞっと。」

「………カリバー!」


光の帯が夜空を駆ける。

チッ、逃した手応えしかしねぇ。

てか前にも一回あったなこの感じ、確か温泉に行った時だったか。

今日は幸い客を巻き込んだりしてないから大丈夫、俺はちゃんと手加減できる。

まぁいいか、とりあえず一時の安息は手に入れた。


「のんびりと風呂に浸かる、いいね。」

「君は本当に気配がないねヒロト、お兄さんも流石に驚くぞ?」


いつの間にか隣で浸かるヒロト、アサシンかお前は。


「そういえばあの話は考えてくれました?」

「ん?何の話だ?」

「俺がヒロイさんを兄さんって呼んでもいいかって話。」

「まだ続いてたの!?もう駄目って結論出たじゃん!」

「でも実際には呼んでるじゃない?」

「ヒロトくん、そういうリアルに触れる発言はよそうか。」

「そういえば酒あるけど飲む?」

「あ、あぁ頂こうか。」

「はいモルツ。」

「あ、あぁ缶ビールね、地酒の瓶とかじゃないのね。」

「ホカとキヨシが向こうで暴れてたよ?」

「早く言えよ!」

「30分前くらいに。」

「もう終わってんじゃん!」

「この温泉ってさぁ…。」

「あん?」

「温かいよな。」

「冷たい温泉とかないから!」

「いやいやあるから。」

「マジで!?」

「多分。」

「つまんねぇ嘘つくなよ!」

「あんまり叫ぶと逆上せるよ?」

「お前のせいだよ!」


ダメだ、こいつのおかしなテンションの方が危険だ。

てか今更だけど酒の持ち込みって大丈夫なのか、心配になってきた。

そういえばアイツらはどこ行ったかな、あれが野放しってのはやっぱ不安だな。


「ちょっと馬鹿野郎共を蹴散らしてくるわ。」

「何で?」

「だって産まれてきた時点で罪じゃないかあの化け物共は。」


あのゴリラチルドレン達は単体の戦闘力とおふざけ半分で施設を破壊しかねん、やはりタングステンの手錠とかで拘束すべきだった。

ちゃっちゃと着替えて考えてみる、奴らの思考パターンを。

ナイターで人が少ないのを良いことにゲレンデで好き勝手。

あり得る、奴らなら雪崩にでも乗って平気でスリルを楽しみそうだ。

大人しく入浴後の珈琲牛乳。

定番だ、そして出来ればこの状況が一番好ましい、腰に手を当てて一気飲みが基本だな。

ゲームコーナーで大人気なくガンシューティング、エアホッケー、ここまで来てスロット。

あれ?

アイツら馬鹿すぎて行動が読めないだと!?

クソ、とりあえず部屋にこの荷物を置いてこよう、このイライラを理不尽にぶつけるのはそれからだ。




「ぶるる。」

「どしたホカゾノ?」

「今すっげ寒気した、多分兄さんが暴れだす寸前。」

「あぁ来た来た、このあり得ない殺気はお兄さんか。」

「てかお前らずっと隠れてたのか?」

「そうともよヒロトくん、実は気配を極限まで隠して風呂から出てなかったって寸法よ!」

「死ぬほど集中したからめっさ疲れたけどな。」

「確かにヒロイさん気付いてなかったみたいだな、ワクワクとイライラを組み合わせたような顔してた。」

「……兄さんの表情って器用だね。」

「他に何か言ってた?俺たち集中してて外の音とか聞こえなかったからさ。」

「産まれてきた時点で罪じゃないかとか言ってたよ。」

「お兄さんの方が世界に対して最強に有害だろうに。」

「あの鬼神は自分を棚に上げて暴れだすから困ったさんだぜ、ボクらの方が余程知的に行動するさ。」

「そうだな兄弟、あのお兄さんは厄介な鬼だ。」

「これは敗けられない鬼ごっこ。」

「捕まったら死、そして終わりは鬼が疲れ果てるまで。」

「勝算はあんのか?」

「ふっふっふ、お兄さんは今頃俺達を捜し回って走ってるはずさ。」

「つまりウチらはあまり動き回らず隠れるのさ。」

「なるほど、少しは考えたな。」

「だろう、狩られるだけのウサギちゃんで終わらないぜ!」

「賢く逃げるキツネになるのさ!」

「上手くいけば良いけどな。」

「よしホカゾノ、早速行動開始だ!」

「ヒロトも来いよ。」

「まぁ暇だし良いけどさ、俺を巻き込むなよ?」

「まぁお兄さんはヒロトに甘いから大丈夫っしょ。」

「な、ズルいよなヒロト。」

「日頃から大人しく慎ましく生きてれば怒られないのさ。」

「好き勝手やっといて偉そうにすんなテメェ!」

「お兄さんもヒロトが見えてないよな、実は一番悪い奴だよコイツ。」




「一体何処に行きやがった!」


ウゼェ、この拳を早く奴らにねじ込みたい。

もう最初の理由なんてどうでもいい、なんなら戦争でも始まればいい、俺一人で無双してやる。

おや、この気配は。

温泉前の休憩所でまったりしているカオリ発見、マッサージチェアーで珈琲牛乳、羨ましい。


「素晴らしく温泉を満喫してるなカオリ。」

「うん最高だよ、幸せ~。」

「俺も後で来よう。」

「ホカゾノ達ならさっき何処か行ったよ~。」

「流石はカオリだ、俺が何をしてるのかきちんと理解していらっしゃる。てかアイツら風呂から出てなかったのか、気配消すの巧くなったな。」

「あたしには気付かなかったみたいだけど、何か企んでる顔だったよ。」

「面白いな、ウサギちゃん風情が鬼を挑発とは。」


クックック、俺を舐めてると死ぬぜゴミ共。


「カズくん物凄く邪悪な顔してるよ?」

「いやいやとっても機嫌はいいですともよ、今なら何でも斬れそうだ。」

「物だけは壊さないでね。」

「任せろ、ちゃんと手加減はする、一般人も巻き込まないさ。」

「うん、じゃあ行ってらっしゃい。」

「ウサギ狩りの始まりだ。」


索敵開始――標的位置確認――行動開始。




「あれ?」

「どしたホカゾノ?」

「いや、何か感じないか?」

「この会話にデジャヴを感じる。」

「そうじゃなくてさ、もしかしたら兄さんにバレたかもしれない。」

「俺は何も感じないが、ヒロトは?」

「ヒロイさんはまだ温泉付近を歩いてるよ。」

「そこまで判るのか、スゲェなヒロト。」

「気配遮断と気配察知は得意なのさ。」

「確かにお前、よくウチらが襲われるときこそこそと事前に逃げるもんな。」

「よく襲われるって現実をナチュラルに受け止めてるね。」

「人間の環境適応能力を甘く見てはいけないわ、すぐに慣れるわよ。」

「ミ○トさん!」

「え?」

「どしたヒロト?」

「……ヒロイさんの気配が消えた。」

「キヨシ、逃げるぞ!」

「オーライ!ヒロト、行くぞ!」

「既に気配遮断して逃げたよ、マジで汚いなアイツ。」

「こんばんはゴミ共、冥土に旅立つ準備は出来たか?」

「ははは兄さん、窓から入ってくるとか非常識だぞ。」

「てかここ七階、どうやって来たの。」

「跳んできたに決まっているだろう、寝てるのかい弟くん。」

「今世紀史上最高におかしな台詞だせお兄さん。」

「さてと疾風の如く逃げましょうかキヨシさん。」

「えぇそうねトシユキさん、この息をする暴力からね。」

「でも見て御覧なさいよキヨシさん。あんなにも爽やかな笑顔に狂気を含められる殿方はそういなくってよ?」

「その通りだわトシユキさん。ほら見てください、足が震えすぎて壊れてしまいそうよ。あらやだ、お手洗いに行っておくべきだったかしら。」

「今すぐ色々出てしまうかもしれないわね、脳ミソぶちまけられそう。」

「でもトシユキさん、あなたは私たちが塵にされる理由をご存知?」

「えぇキヨシさん。そちらの殿方は産まれてきたことが罪だと仰っていたわ。」

「まぁ理不尽。」

「下知な芝居は終わりか?では始めよう。」

「あらやだ何が始まるのかしら。」

「きっと私たちの解体ショーよトシユキさん。」


『いやぁぁぁぁぁあ!』

「待てやコラァ!」


女の子の走り方で逃げ出すゴミ共、ウザさ倍増。

でも走る速度はいつもと変わらず速い、いっそ殴られたいのではなかろうか。


「違う!俺達はボケないと個性が失われるのさ!」

「キャラクター作りは大事だよ兄さん!」

「喧しい!貴様らの個性なんぞ生命ごと剥奪してくれるわー!」

「この読心術ってスキル気に入ってるんだ、失うわけにはいかない!」

「ウチも超回復スキルをなくしなくないわ!」

「化け物共め。」

「兄さんに言われたくない!」

「そうだそうだ!」

「よし祈れ、今すぐ祈れ!せめて死んでも肉片くらいは残りますようにってな!」

「助けてくださいベルゼブブ様!」

「いやいやキヨシ、ブブさんは後ろにいらっしゃるよ。」

「貴様ら、素敵なアトラクションを用意してやる。ミンチにされて雪山に飛び込むってやつだ、最高に楽しめよゴミ共が!」

「ナイターゲレンデに舞う肉塊、新しい雪山伝説の誕生だね!」

「以上第一の犠牲者候補でした~。」

「いらっしゃいませゴミ共ー!本日全アトラクションは無料にてご利用いただけます!」

「アトラクション一つしかないやんかー!」

「黙って遊べやー!」

「死ぬと判ってる遊びを誰がするかー!」


喧しく喚きながら走り回る。

あれ、これってかなり迷惑じゃね?

心配ご無用。

俺たちの声が聞こえた頃には、俺たちが通り抜けている。

視認できないのなら怒られない止められない。


「そろそろ終わりにすっか!」

「Don't tuch me.」

「I am a braver!」

「No!You are Devil!」

「サヨナラゴミ共!」

「Nooooo!」


その日ゲレンデに、奇声を発しながら飛んでいく二つの流れ星があったとさ。

めでたしめでたし。


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