2月3日 Day.14-2
「逃がすかよヒロト!」
「美味しい雪玉を召し上がれ。」
「厄介な夫婦だなまったく。」
俺が滑りながら作成した雪玉をカオリがヒロトへと投げつける、これぞ連携プレイ。
ヒロトは左右に蛇行しながら華麗に躱していく、しぶとい奴だ。
コースも中盤、そろそろ仕留めないと逃げ切られる危険性もある。
キヨシもまったく妨害されないぶん追い付いてくる可能性がある、合流されたら確実にヒロトと共闘するだろうな。
ホカゾノは………多分死んだだろう、放置して構わないか。
「いやぁぁはぁぁあ!」
「のわっ!」
「英雄ってのは遅れて登場するもんさ!」
「うわ、ホカゾノ生きてたの!?」
「勝手に殺されてたまるかよ!ウチはこの世にのさばる天才だぜ!」
「ならば今度こそ遥かなる地獄へと落としてやるわ!」
「はははははは、やれるものならやってみろ!ヒロト、協力するぜ!」
「え?いらないよ?」
「まさかの拒否!?」
「無様だなゴリラー!」
「ホカゾノに味方はいないのだー!」
「さ、淋しくなんかないんだから!」
「死ねやツンデレ気取りがー!」
「全然可愛くもないぞー!」
「ウザいぞホカ。」
「ヒロトテメェ!」
「そこでヒロイ夫妻の的になっててくれ。」
「マジ殺す!」
「殺されんのはテメェだぜ!」
「そういえばホカゾノは来たけどキヨシくんは?」
「呼んだ?」
「あ~あ、呼んじゃったよ。」
「呼んだら出てこれるのかよ。」
「呼んでないから帰れ!」
「残念ながら取り消しは効きません。」
「さぁこっからが本場だぜ!」
「ホカゾノは黙って滅べやー!」
「兄さんたまには別の人を狙って!」
「わたし、貴方じゃなきゃダメなの!」
「出来れば女の子に別のシチュエーションで言われたかった!」
「贅沢な願いだな、永遠に叶わぬと知れー!」
「さりげなくトップ、イェイ。」
「逃がすかヒロト!」
「キヨシは家に帰ってEnterを押す作業に戻るんだ。」
「そうだった、失念してたぜ。」
「悲しい作業だね。」
「カオリさんマジ勘弁してください。」
「泣くなキヨシ、君には二周目というやり直しのチャンスがある!」
「よし、今度こそってないわー!」
「何度あろうと変わらないだろう。」
「よ~し、今日こそお兄さんを亡き者にすっぞ!」
「へいへい、そろそろゴールだぜ!」
「ラストスパート!」
「やべぇまだヒロト抜いてない!」
「ボクの華麗なテクはこれからさ!」
「もう終わるんだよ!」
「ふはははは、鶴翼閉じ!」
「ここにきて技だと!?」
「ジジイの戯言もたまには役に立つもんだなぁ!油断は禁物ってやつだ!死ねやホカゾノ!」
「いつの間にか標的チェンジ!?ギャース!」
「残るは二人!」
「ヒロト、俺に構わず行けー!」
「……………。」
「本当に欠片も構わない!?」
「仲間にさえ見捨てられた憐れな子羊よ。私がこの手で面白おかしく、無責任な神のもとへ送り届けてあげましょう。」
「懇切丁寧に誠実で真面目な神のもとへ送り届けてください!」
「はいはいそうする。」
「おざなり!?」
「てか死ぬのはオーケーなわけね?」
「……しまった!これが孔明の罠か!」
「何か勝手に自爆したな。」
「ヒロトくんはあたしが相手だよ!」
「俺が勝者は嫌だと?」
「嫌じゃないよ、敗けたくないだけ。」
「揃いも揃って負けず嫌いですか。」
「大正解、大丈夫痛くしないから。ロッドアターック!」
「よっと。てかカオリさんて実は最強だよな。」
「何で?」
「だって背後に最強の鬼神が控えてる。」
「たまに暴走しそうになったら止めなきゃいけないけどね。」
「あぁ、それは大変そうだ。」
「よっしゃ、キヨシ撃破!」
「次は敗けないんだから!」
「そうこうしてる内にゴールだぜ!」
「いつの間に!?」
「あらま、ヒロトは倒せなかったか。」
「まぁヒロトくんならいっか、馬鹿じゃないし。」
「最近カオリさんもウチらに対して相当酷いよね。」
「同感だ。中立だと思っていたが、やはりお兄さんの嫁か。」
「さてさて、なら休憩も兼ねて飯にすっか。」
それぞれ板を外して一ヶ所にまとめて刺しておく。
ロッジに入るとむせ返る人の熱気、空いてる席を探すのも一苦労だ。
「席を探すのと飯を買うのに分かれよう、これだけ混んでる中で五人の移動は大変だ。」
「じゃあ俺は席を探してくるぜ!」
「ウチもそうするわ。兄さん、ウチはカレーね。」
「俺はラーメン!」
「はいはい、んじゃ頼んだぞ。」
「行くぞホカゾノ!」
「おう。オラオラ邪魔だカス共、道を開けやがれ!」
「あぁん?」
「何様だテメェら?」
「退けっつってんだよ!アレですか?難聴ッスか!」
「止めとけよホカゾノ、こいつらおつむが弱すぎて意味が判ってないのさ。」
「はっは、どうしようもないな。」
「上等だテメェ、表出やがれ!」
「売られた喧嘩は高値買い取りだぜ!」
「ついでに財布貰おうか!」
「黙れ馬鹿共、歩いて三歩で喧嘩始めんな!大体喧嘩売ったのは明らかにお前らだ!」
「だって兄さん、こいつら邪魔だし蹴散らしたくなるじゃん!」
「そうだそうだ!」
「塵に変わりたくなければ席を探しに行け。」
「ちぇ、仕方ないなぁ。」
「命拾いしたな。」
「黙って行け!」
今の騒ぎを見ていた奴らが道を開けていく、結果こうなるのかよ。
さて、目の前にはとってもキレたお兄さん達、雪焼けした肌が素敵だね、威圧感たっぷりだ。
はぁかったりぃ。
「なんだよテメェは、アイツらの仲間だよな?」
「勝手に喧嘩売っといてこのままで済むはずないよな?」
「そうだな、まったくもってその通りだよ。アイツらには後でキツく言っとくし、この騒ぎも俺が責任持つさ。」
「じゃあ表行こうぜ、こっちは相当きてんだよ。」
「人のいないとこ行くぞ、俺たち詳しいから見られねぇよ。まぁお前が見つからなくて死ぬかもしれねぇけどな。」
「あぁ、そりゃ都合が良いよ。んじゃ行こう。」
怖ーいお兄さん達に囲まれて連れていかれる、カオリ達は不憫なものを見る目でこちらを見ると、そのまま飯を買いに行った。
まぁ………不憫だよなぁ。
ロッジの裏側、普通の奴なら絶対に来ないだろう場所で六人の男に取り囲まれる、嫌な光景だよ。
アイツらちゃんと席ゲットできたかねぇ。
「んじゃちゃっちゃと死ねよ。」
「食後の軽い運動ってな。」
「昼飯代が浮くと良いなぁ。」
「俺はあまり金を持ち合わせていないぞ、大金は持ち歩かない主義なもんでね。」
「ならサンドバックだな、ははは!」
つまんねぇな、品位の欠片も感じない。
薄汚い笑みを張りつけた顔で近づいてきた一人が、俺の胸ぐらを掴み殴りかかってくる。
はぁ、おっせ。
一瞬で拳を握り、できるだけ手加減して腹を殴る。
周りの奴らにはきっと仲間が突然倒れたように見えただろう、御愁傷様。
「テメェ何しやがった!」
「何って、見て判らなかった?」
「ざけんなよテメェ!」
「つまり見えなかったんだろ?やれやれ、相手の力量を計れる程度の観察眼くらい持ちやがれ。」
激情した五人の拳が一斉に飛んでくる、はぁかったりぃ。
足払いで雪を巻き上げて煙幕の代わりにすると、一人ずつ昏倒させていく。
所要時間僅か五秒、食前運動にもなりゃしねぇ。
六人を放置してその場を後にする、ウェア着てるし暫らくは大丈夫だろ。
ロッジに戻って周りを見回すと、ちゃんと五人分の席を確保したカオリ達が既に食事を始めていた。
何食わぬ顔で席に着き、伸び始めたラーメンをすする。
「どうだった?」
「雑魚。」
「まぁカズくん相手じゃね。」
「アイツら喧嘩売る相手間違えすぎだろ。」
「兄さんズルい、ウチにもやらせてくれれば良いのに。」
「大体俺たちが買った喧嘩だったしなぁ。」
「お前らが行ったら六人まとめて行方不明だろうが、手加減ってもんを知らないんだからよ。」
「塵に変えます!」
「春になったら雪解け水になって天然水になるよ。」
「だから嫌なんだよアホ。」
「ねぇ、食べ終わったらどうする?」
「夕飯を美味しくするためにも滑る!」
「まぁそれ以外にないけどな。」
「自由気ままに滑りたいね。」
「のんびりするかね、滑るだけでも楽しいし。」
「んじゃあ各自自由に…って言っても自然と分かれるけどな。」
「俺と!」
「ウチと!」
「俺だな。」
「ボンクラーズ完成。」
「ヒロトくんは除く。」
「意外にヒロトもボンクラーズっぽいぞ。」
「ざまあヒロト!」
「ヒロイさん、こいつら殺して。」
「ヒロトズルいぞ、鬼神は使用禁止!」
「彼の英雄王も裸足で逃げ出しそうな戦闘力なんだから、もはや宝具じゃんか!」
「いいから食い終わったなら食器かたせ、行くぞ。混んでるのに長居は無用だ。」
「了解。」
「さぁはしゃくぞー!」
「羽目を外すぞー!」
「なにお前ら、怒られたくてそういう発言してんの?」
「No!断じてNo!」
「せっかく遊びに来てるからはしゃぐなとは言わないが、周囲の方々に迷惑となる行為は極力避けること、これだけは守れ。」
「はーい。」
「貴様らの場合、テンション上がって雪崩発生ともなりかねん、くれぐれも破壊行為はしないこと。」
「言われてるぞそこのマウンテンゴリラ。」
「ウチはキングコングだ!」
「マジで頼むぞ、面倒は御免だ。」
雪崩が起きたらせめて一般人だけでも救助せねば、こいつらは勝手に生き延びるだろうが。
ぞろぞろとリフトに乗る、前の三人は相変わらず五月蝿い。
やがてギャアギャアとじゃれあいだし、リフトが上下に揺れだした。
「ちょ、揺らすな!」
「うるせぇなジャンプしろジャンプ!」
「ジャンプしたら余計揺れるわボケ!それにこれは飛空挺じゃねぇ!大体テメェ誰に向かってその口調だあぁん?」
「ツッコミに忙しいねカズくん。」
「兄さんなら落ちても何ら問題ないでしょ?」
「そういう問題じゃねぇよ!」
「落ちるのが恥ずかしいの?いやいや、人間堕ちてしまえば楽ですぜお兄さんや。」
「途中から意味合い変わってるっつーの!てか貴様らは俺しか見えてないのか!」
「私の目には貴方しか映らないのよ!」
「揺らしたら他の人達も迷惑すんだよボケ!」
「あぁ、そゆことか!」
「ホントに今更気付いたのか!?」
「はっはっは、ウチらを舐めるな!」
「今すぐにそっちへ跳び移って壮絶なコンボを決めたい。」
「実は武道大会終わって一番寂しいのヒロイさんだよね。」
「うるさいよ!うるさいよ!」
「この戦闘狂!」
「殺戮マニア!」
「テメェの血で真っ赤な雪だるま作りてぇのはどっちだぁ?」
「二人ともです。」
『ヒロト!?』
「今から行くよ、ぴょ~ん!」
『可愛い効果音で鬼神きたー!?』
「いらっしゃいました~。」
『お帰り下さいませ、サヨウナラ~!』
「遥々来たのに酷いなぁ。」
『いえ!ホント!マジ帰れ!』
「ヒロトは歓迎してくれるか?」
「まぁ俺に被害が及ばなければ。」
『ヒロト最低!』
「今日ははもるね二人とも。そんな仲良しな二人をバラバラに落とすなんて可哀想だよねヒロト。」
「そう思う。」
「いやいやキヨシを先に!」
「ホカゾノくんこそ先に!」
「大丈夫、お兄さん頑張っちゃうぞ!」
『こんなとこで頑張るなー!』
二人の言葉は全く意に介さず空へ放り投げる。
「あぁぁぁあ!」
「飛んでる、ボク飛んでるよ!」
「すかさず追撃!」
「No ThankYou!」
「遠慮すんなって。」
「雪に埋もれる前に言いたい!」
「何だ?」
「兄さんが一番迷惑かけてるよ!」
「エクスカリバー!」
「また何処からか剣が!?」
あえなく散っていった馬鹿二人、雪に立つオブジェ完成。
騒ぎだすと止まらない、いつもの風景だったとさ。




