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2月3日 Day.14-1


一面の銀世界。

キラキラと光る光景には、誰もが感嘆の声を上げるに違いない。

踏みしめる大地も白く、サクサクと軽い音がする。

この武骨で重たいブーツも、今日は仕方ない。

その代わりに、風を存分に感じられるんだから。


「いやぁぁぁぁぁ!」

「キヨシー!」


視界の端で、馬鹿が奇声を上げながら林に突っ込んで行った。

鈍く嫌な音を立てて、木に正面衝突、死んだんじゃなかろうか。

おまけに枝に降り積もった雪がしこたま落ちてきた、馬鹿達磨の完成。


「うわダサっ!」

「うっせぇぞゴリラー!テメェも後で同じ目に遭わせてやっかんな!」

「ふ、これが格の違いさ。」

「黙れ!そして転けろ!」

「ボードは友達さ!」

「気取ってんじゃねぇよ馬鹿野郎!似合わねえぞブサメン!」

「雪だるま風情がほざくなよ下手くそ!」

「初めてなんだから当たり前だろカスが!ちょっとやったことあるからって調子乗るな!」

「僅かな差が勝敗を分ける、勉強になったな坊や。」

「死ね黙れ、食らえ雪玉!」

「イテッ、ざけんなアホ!」

「不憫な頭の子たちだな。」


そう、俺たちはウィンタースポーツの最高峰、スキースノボに来ている。

二泊三日の温泉食事付、それなりに値は張ったがまぁ仕方ないだろう。


「スノボの奴はホカゾノに教われ、スキーはヒロトだな。んじゃ後は自由にしてくれ。」


そんなこんなでキヨシはホカゾノと、カオリはヒロトと滑りに行き、俺はスキーで馬鹿野郎共が迷惑を掛けないように見張ってるってわけだ。


「ほら早く下まで行ってリフト乗るぞ坊や。」

「ウゼェぞボケ!何様気取りだ!」

「こらこら、先生に対する口の利き方じゃないよ坊や。」

「死ね!死ね!」

「ぷぷっ、超楽しい!」

「そこら辺で止めろアホ。」

「てか何で兄さんはボードじゃないのさ。」

「今更新しいことにチャレンジする気概はねぇよかったりぃ。」

「俺は絶賛挑戦中だせ!」

「はいはい流石だね~。」

「もっとまともな感想を所望する!」

「わぁ凄い流石はキヨシくん、猪突猛進なチャレンジ精神だね~。」

「いゃあ誉めんなって。」

「四字熟語的に誉められてはいないぞキヨシ。」

「よし復帰!行くぞホカゾノ!」

「おっし、風になるぞ!」

「まぁ何だかんだ大丈夫そうだな、多少なら騒いでも怒られないだろうし。」


大声ではしゃいで雪崩とか起きなければいい、起きても一般人だけは救けだそう、原因たちには死んでもらう。

一切ブレーキもかけずに突っ走っていく二人は放置して、俺は残る二人の様子を見に別のルートから滑っていく。

溢れんばかりの人々を躱しながら、俺は比較的傾斜が緩やかなルートを目指す。

辿り着くとそこには楽しそうに滑る二人がいた。

……嫉妬なんてしてないよ?


「やほ~、楽しんでるか?」

「あ、ヒロイさん。」

「カズ君だ、ホカゾノ達は大丈夫だった?」

「一応マナーに反するおふざけはしてないよ、今のところは。」

「てかカオリさん俺が教えなくても普通に滑れるじゃん。」

「久し振りだったから一応先生を付けようとな、まぁ必要ないなら良かった。」

「ふふん、あたしもやれば出来る子!」

「じゃあ俺はホカたちに合流しようかな、また下らないことしてそうだし。どこら辺にいますか?」

「向こうの傾斜がキツい辺りだよ、何かひたすらにレースしてると思う。」

「うん、じゃあ行ってくる。」


凄く軽やかにヒロトが滑っていく、やっぱ東北ってスキーとか上手いのかな。


「あたしたちはのんびり滑ろうか。」

「そうだな、のんびり…。」


………。


「ホワイトディザスター!」

「どのへんがのんびりだー!」

「あははははは~!」

「満面の笑みで雪玉投げないで!」

「見よ!そして食らえ!改良に改良を重ねて漸く完成したこの雪玉専用スリングを!」

「んなもんわざわざ用意したのかー!てかキャラ変わってますよ!?」

「あたしの愛が受け取れないの~?」

「わ~、それ引き合いに出されたら素直にリンチ食らうしかないのかなぁ~?」

「ほら食らえクソ兄貴!」

「前に小学生と一緒になってウチをリンチにした恨みー!」

「確か……こうやって………ガシャコ。」

「いつの間にこっち来たんだお前ら!てかヒロト!どっからショットガン取り出したの、しまいなさい!貴方は銃なんて持ってはいけないわ!」

「砕けろ兄さん!我流・地奔り!」

「武道編は終わりにしませんかー!」

「疾風槍!」

「わぉ、今日は氷属性までついてるね、クールだぜ!」

「ヒロイさんまだふざける余裕あるみたいだね。」

「ロッドアターック!」

「カオリのかさっきから一番痛いよ!」


因みにこれ滑りながらやってるからね、クラ○ドもカ○ージュもビックリだ、かなり躱すの辛い、俺にとってのエア○ス敵になってるし。

ロッドで雪玉砕いてはいるけど、流石は改良型、威力が半端ないぜ。


「てかさ~、レースしないかいお兄さん。」

「そういう提案はせめて雪玉投げる動作を止めてから言いなさい!」

「じゃあやっぱいいや。」

「どんだけ俺に雪玉投げたいの!?」

「判ったよ我が儘だなぁ。」

「しまいにゃはっ倒すぞ!」

「山頂からスタートして、麓がゴール、ルートの指定はなし。」

「初めに訊いとくぞ、妨害は?」

「有りに決まってるじゃないか、お兄さん寝てんの?」

「このやろう。」

「兄さんには雪だるまになってもらうぜ!」

「はっ、吹くじゃねぇか。テメェの足りない脳ミソじゃ正しい未来は見えないらしいな。」

「因みに一位の人は昼飯が一割の値段で食べられます。」

「どゆことだ?」

「兄さん判んないの?ぷぷっ。」

「じゃあテメェが説明しろ。」

「判んない。」

「もう喋んなカス。」

「二位が二割、三位が三割、四位が四割、全部足せば十割になるでしょ?」

「ほぉ、例え一位になれなくても早い方がダメージが少ないわけか。」

「やる気起きるじゃん?」

「確かにこれなら最後まで必死になるな、賢いじゃんかキヨシ。」

「誉めても何も出ないんだからね!」

「じゃあ誉めねぇよ阿呆。」

「やだな冗談だって、誉めて誉めて。」

「………………。」

「誉めろよ!」

「さっき誉めたじゃん!?」

「足りねぇよ!」

「寂しい子かお前は!」

「二人とも早くしてよ、漫才は後にしてくんない?」

「とっとと山頂行こうぜ、昼前には戻らないとロッジが混む。」

「そうだな、早く登るか。カオリはどうする?流石に傾斜がキツいから止めとくか?」

「寧ろあたしも参加するし!」

「マジか!?」

「じゃあ一位は飯代タダ、二位が一割だな。」

「それでいこう、おっしゃ!腕が鳴るぜ!」

「俺も膝が鳴るぜ!」

「もうそろそろ病院行って診てもらいなさい!」

「ヒロイ家の宿命さ!」

「俺を混ぜるの止めて!」

「じゃあリフト乗りに行こうよ。」


二人乗りのリフトにぞろぞろと乗り込んでいく、寂しい子はホカゾノ。


「何でウチだけ一人なのさ!」

「お前みたいな不幸ちゃんとリフト乗りたがる奴は間違いなく自殺志願者だ、ベルト締めとけよ馬鹿。」

「ねぇよベルト!つか失礼だ、ウチはそこまで不幸じゃない!」

「このレースが終わったらまず誰に報告しますか?」

「家で待つ……婚約者に。」

「お疲れ。」

「乙。」

「バイバイ。」

「今までありがとう、別に楽しくはなかったよ。」

「死ぬの!?ウチ死ぬの!?」

「そりゃあんだけ盛大にフラグおっ立てりゃ死ぬよ、その願いは叶わないよ。」

「そもそも婚約者いないのに嘘吐いたから死ね。」

「寧ろ殺される!?」

「世の中は不条理なものさ。」

「あれ、まだ生きてたの?とっととその薄汚い面を灰に変えて消え去ってくれる?」

「炎で燃えカスにされる死に様なんだ!?てか実は味方の魔法が飛んできたんじゃね?」

「あぁ、その手があったか!」

「素っ敵な名案だ、わざわざ手加減して魔王に殺させる手間が省ける。」

「いつの間に魔王と戦う設定に!?このリフト何処と繋がってるの!?」

「ム○ーの城行きでございます。」

「観光地かよ!」

「まぁ最初の訪問は石化の呪文で手厚い歓迎を受けて彼方へ飛ばされるけどな。」

「よし降りよう、今すぐ降りよう!」

「うん、降りろよ。」

「いや止めて、今一番高いとこだから!」

「え~、やっぱ口だけかよ。」

「ホカゾノ飛ぶとこ見たいなぁ。」

「ほら飛べよホカ、恥ずかしがらずに、見ないでおくから。」

「どうせなら見ろよ!飛ばないけど!」

「やっぱゴミだな、死ねば良いのに。」

「酷くない!?」

「え、どこが?」

「もう良いよ………。」

「じゃあ飛べよ。」

「しまいにゃ泣くぞ!」

「うわ、ウザッ。」

「どこまで酷いの!?」

「どこまでも酷いよ?」

「ぐすん。」

『…………。』

「せめて反応して!」


リフトから降りると、無言でホカゾノを置いていく、すすり泣きが聞こえても振り返ってはいけない。

言い換えるならば愛、そう、これは愛ゆえに生じるちょっとだけ激しいツンなんだよ。

俺たちは比較的上級者向けのコースの始まりに立った、中々に壮大な光景だ。

遥かまで広がる白き山脈、麓には白い絨毯のように雪が降り積もっている。

うん、カオリのように美しい。


「うわ、頭ん中でデレた。」

「何度も言うが弟くん、読心術はプライバシーの侵害だよ?」

「戦いに関しては読めないのが難点だ。」

「彼方へと吹き飛べカスがー!」


スキー板を付けたままで蹴りを叩き込む。

背中を海老反りにして飛んでいったキヨシは、上手く着地してこう叫んだ。


「レーススタート!」

『なにぃ!?』


俺たちも急いで滑りだす。


「はっはっは、お兄さんの蹴りが俺に最高の風をプレゼントしてくれたぜ!一位は貰ったー!」

「ズルいぞキヨシくん!」

「カオリさん、勝負は無情なのですよ。」

「兄さん!ウチにも蹴りを!」

「よっしゃ、アイツに一位は取らせるか!歯ぁ食いしばれ!」

「おっし、ってあぁぁぁぁぁぁ~!」

「誰がテメェなんぞに協力すっかよボケ、先に天国行きやがれ!」


ホカゾノを崖下に蹴り落とし、何事もなく滑っていく。


「カズくん、流石にホカゾノ死んだんじゃない?」

「いや、アイツはこの程度じゃ死なないように出来てますから、心配はいりませんよカオリさん。」

「あ、別にこれっぽっちも心配はしてないから大丈夫だよヒロトくん。」


いやぁ相変わらずカオリの言葉はキツいぜ、ここにいなくて良かったなホカゾノ。


「じゃあヒロイさん、俺は先に行かせてもらいますよ。」

「ヒロト速いね、俺たちも行こうか。」

「とりあえず奢る相手くらいは選びたいね。」

「勝つためならプライドすら棄てる奴らには奢りたくないな。」


すいすい滑るヒロトを目指し、俺たちは急斜面を降りていく。

キヨシを追い抜く時に、ロッドで一太刀入れる。


「な、いつの間に追い付いたお兄さん!」

「貴様が余裕ぶっこいて風を楽しんでる間にさ!」

「良く見るとヒロトが既に前に!?カオリさんまで追い付いてる………一人足んなくね?」

「え、あたしたちはもとから四人じゃない?」

「あ………あぁ、そうでしたねカオリさん、ボクうっかりしてましたよ。」

「ナチュラルにホカゾノ消滅。」

「じゃあとりあえずキヨシくんにはペナルティだね。」

「え、何故?」

「身体を張ったとはいえ、フライングだったのは事実でしょ?」

「あ、あぁそゆことですか…。いやでももう追い付かれてますしっていやぁぁぁぁぁ!!」


カオリによるロッドアタックが容赦なく刻まれた、哀れ愚弟。

みっともなく雪に突っ込んだキヨシを放置して、更に速度を上げていく。

残るは一人、ヒロトを出来るだけ優しく葬るとしようか。


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