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1月22日 Day.13-8


「小峰宗十郎さんの圧倒的な戦いを終え、体育館は建設以来最高潮の熱気に包まれています!さぁ日本最強クラスの武神に続き、もはや無敵とも囁かれ始めた鬼神の登場です!木野塚町のヒロイカズタカ選手対、椿町のシカマ選手の試合だー!」


体育館の中も外も、闘気を含んだ歓声で埋め尽くされる。

兼定を携えた俺、弓を携えたシカマ。

この国でも相当な実力者同士が、こんな片田舎の体育館で、今邂逅する。


「この二人、高校以来の同級生であり、無二の親友とのことです。互いに思い入れもある中で、果たしてどのような戦いが繰り広げられるのか!」

「オレは本気で行くぜヒロイ。」

「……あぁ。」

「手加減とかすんなよな。」

「そのことなんだがシカマ、一つルールを追加しないか?」

「……なんだ?」

「10分だ。」

「ん?」

「10分間俺はお前に攻撃しない。それまでにお前が一度でも俺にダメージを与えたら、俺は棄権する。だが逆に一撃も入らなかったら、お前が棄権してくれないか?」

「は?お前なに言って…。」

「勝手なことを言ってるのは重々承知だ。だけど俺の力は元々……。」

「まさかあの夜の一件をまだ気にしてるのか?」

「………。」

「はぁ、まったくお前は変わらない。今更気にする必要があるのかね?」

「お前を護るために鍛えた力を、お前相手に振るうなんてできない。」

「………。」

「だが今の俺に一撃入れる実力さえあれば、この力は必要なくなる。だから10分、俺に見極めさせてほしい。」

「………舐められたものだなオレも。仕方ない、どうせお前は言いだしたら曲げないんだろ?」

「まぁな、俺はやりたいようにやるだけだ。だからこの問い掛けにも実質的な意味はない、俺の自己満足みたいなものだ。」

「判ったよ。だがあんまり甘くみるとすぐ棄権させっからな、覚悟しろよヒロイ!」

「あぁ、俺としてはそれも本望だ。審判、一応時間を計ってくれるか?」

「勝手なこと言いおってからに、仕方ないのう。そのルール追加もワシが許可しよう。じゃからとっととその腑抜けた考えと決別せい、それではワシにも失礼じゃ。」

「これは借りにしとくぜジジイ。」

「一撃と言わずハリネズミにしてやる!」

「俺はタフではない代わりに見切りには自信あるぞ、抜けられるか?」

「いざ尋常に………始め!」

「我流・月光!」


間合いを取る間も許さない速射が、僅かな距離で飛来する。

更にそれは互いにぶつかり、微妙な方向転換までしてくる。

瞬時に抜刀、囮の矢には目もくれず、有効な攻撃だけ斬り落としていく。

俺は動かない。

始めの場所で10分間、ひたすらに斬り伏せてみせよう。

シカマは一旦距離を離し、一瞬の間に四方から矢を放つ。

俺は体を反らすだけで全て躱し、そこで気付いた。


超極細のワイヤー。


二本一対に繋げたワイヤーが、動かなかった俺をしっかりと縫い付けた。


「我流・影縫い、逃がさないぜヒロイ!」

「やるな、上手く光に隠されてて見えなかったぞ。」

「躱せなくとも油断はしない!我流奥義!慈愛なる終焉の(アポロン)!」


瞬間的な超高速移動、一矢乱れぬ同時波状攻撃。

その数にして20、身動きが取れない俺にそれらは降り注いだ。


「そしてトドメだ!我流奥義!捻り貫く魔剣(カラドボルグ)!」


矢の代わりにつがえた一振りの剣。

捻れた剣は銃弾のように回転し、その破壊力を増大させる。

爆発が起きた。


「決まったー!一部の隙もない凄まじい連撃が決りました!シカマ選手縦横無尽に跳び回り、トドメのカラドボルグは直撃か!?」

「いやぁ、流石に怖かった、ワイヤーが細くなかったらやられてたかもな。」

「一応オレの奥義なんだが、簡単に捌くんじゃねぇよ。」

「いやいや、あの時確かに動けなかったんだ、もう少し抜けるのが遅れてたら躱せなかったよ。」


俺は構えた刀を鞘に納め、粉々に砕いたカラドボルグを見る。

一瞬だが完全に捕まっていた、ワイヤーを見えなくする為に極細でなければ斬れなかっただろう。

抜けてしまえばアポロンは問題ない、あれは影縫いと組み合わせることでこちらの余裕を削るための技だ。

カラドボルグは危なかった、あの威力、単発の攻撃力なら最強クラス。

キヨシの槍より速く、ホカゾノの豪腕より強力。

当たっていたら骨どころか内臓までやられてただろう、まさに一撃必殺。

しかしそれもしっかりと相対できるなら捌ける、捻れのせいで剣の強度は脆かったからな。


「かなり真剣だろヒロイ。」

「当然だ、真剣にやらなきゃやられる。」

「ホントかねぇ、オレは奥義も矢も使って打つ手なしなんだが?」

「時間もないぞ、あと7分だ。」

「忙しい戦いだ。因みに10分経ってもオレが棄権しなかった場合どうするんだ?」

「俺としてはやりたくないが、一撃で倒す。」

「そりゃヤバい、まだ死にたくはないな。」

「さ、お喋りの時間は終わりにしよう。こういうのは今度ウチの店で珈琲でも飲みながらだ。」

「そうだな、オレらの話は長くなる。とっととお前を倒して珈琲淹れてもらうとするか!」

「来い!兼定を越えるのは難しいぞ。」


シカマは即座に矢を放つ。

難なく躱すが、すぐに矢の軌跡を斬り付けた。

案の定ワイヤーが張られていた、同じ技とは感心しないな。


「掛かったなヒロイ!」

「む、斬れないだと?」


さっきのワイヤーとは質が違う、まさか。


「さっきの攻撃自体が布石だったのか!」

「それだけじゃないぜ!」


シカマは手元のワイヤーを引っ張る。

すると後ろに行った矢が反転し、戻ってきた。

そうか、今度は矢羽じゃなく先に繋がってたのか。

背後から襲ってくる矢、更に前からも続け様に放たれる。

完全な前後同時、しかもこちらは既に攻撃した直後、刀を戻す僅かなタイムラグがある。

次々と矢は飛んでくる、これを捌いても終わらない。


「我流・影縫い!」


今度は見えても躱せない、どれかを躱せばどれかに当たる。

多撃必中。

ワイヤーを扱うのにどれほど鍛練を行ったのだろう。


「我流奥義!慈愛なる終焉の雨(アポロン)!」


徹底的に余裕を奪ってくる。

流石にこれは躱せないか―――なら!

俺はワイヤーに向かって突撃する、左腕を突き出して。

左腕にワイヤーが絡み、使えなくなる、だが危険域は脱した。

正面から飛んでくる矢を片手で構えた兼定で砕き、活路を見いだす、あとは。

カラドボルグをつがえたシカマが、口に笑みを浮かべてこちらを見ている。


「恐れも抱かず突き進む、勇往邁進とはお前のことだなヒロイ!だがこれを片手で受け切れるか?」

「正直厳しい、だがここまで可能性を潰されたら行くしかないだろ!」

「たまには負けても良いと思うぞ。」

「悪いな、あの夜から負けないって決めてるんだ。」

「もうあの時のオレじゃないぞ?」

「それでも俺は負けられない、それに俺は負けず嫌いなんだ。」

「ならば受けてみよ、オレの最大出力!」

「砕くぞ、あの日の誓いを守るために!」

「我流奥義!捻り貫く魔剣(カラドボルグ)!」

「我流・龍爪鋼斬!」


剣と刀が衝突し、重い金属音が響く。

俺は背後へ抜けたカラドボルグを感じながら、残心をしているシカマの首筋に刀を添えた。


「まさかあれを片手で抜けてくるとはな、オレの負けか。」

「………いや、負けたのは俺だよ。」


静かに刀を納める。

俺の首筋に刻まれた一筋の紅。

それは俺の敗北を示す証だった。

ジジイもそれを確認すると、高らかに宣言する。


「勝者、シカマ!」


惜しみない拍手が響く。

ルール付きとはいえ、初めて俺に黒星をつけた男を讃える拍手が。


「続けてたらオレの負けだが?」

「続かないのだからお前の勝ちさ。」

「鬼神の血も紅いんだな。」

「喧しいわ!こんなんでも一応人間だっつの!」

「やはり片手じゃ弾き切れなかったか?」

「まぁもともと龍爪鋼斬は両手で出す力技だ、片手じゃ無理だと判ってはいた。」

「つか擦った時点で何故止まらなかった?」

「悔しいだろ、一応勝つつもりでいたんだから。」

「お前のお茶目は心臓に悪い。」

「はっはっは!」

「笑って誤魔化すな!」

「いゃあ、負けた~!なんか清々しい気分だ。」

「もうあの夜のことは気にするなよ?」

「あぁ、そうするわ。もう守る必要もなさそうだし。」

「大体オレはお前に守ってほしいだなんて一言も言ってない、勝手に抱えて強くなるな。」

「悪かった、調子に乗った。」

「これを機に肩の力抜けよ。」

「うん、重くてくたびれた、たまには休む。」


片手を上げる。

シカマも笑って、片手を上げた。

パンッ、とハイタッチ。

さぁ憂いは断った、十二分に戦える。


「もうこういう世界に迷い込んだのだと私納得しよう、そう思える激しい戦いも終盤、残りも僅かとなりました。単なる市内武道大会という枠組みに納まらない試合ばかりでしたが、そろそろ終わりが近づいています。皆さん是非とも最後までその目に焼き付けて下さい!」


マジで今回の実況は心をくすぐるのが上手いな、皆戦いたくてウズウズしてる。

かつてない強敵も、同じくらいのライバルも、素晴らしい相手が集まった。

観客も激しく苛烈な戦いを見て、まるで映画の中に入り込んだような楽しさを感じただろう。

大成功と言って良い、正直来年も開催してほしいとさえ思っている。

ただこの化け物同士の戦いを見て自分もやってみようと思う奴がいるかは疑問だが。

そんなことを思いつつも、試合は着々と進んでいく。

キヨシはシカマの猛攻によって潰された、槍ではワイヤーの拘束と相性が悪かったようだ。

アーチャーとランサーの戦い自体は物凄く熱かったが、結果はやはり厳しいな。

だがホカゾノもキヨシもきちんと緋結華には教えていた。

どこに隙ができるのかをホカゾノが教え、円運動に関してはキヨシの十八番だ。

ハルバートの扱いをしっかり鍛えれば、恐らく最強クラスの攻撃力になるだろう。

皆に期待を抱かれて成長していく、来年が楽しみな逸材だ。


「遂にこの時がやって参りました、次の試合で第一回市内武道大会も終わりを迎えます。残された二枚のカード、史上最強の鬼神と、日本最強の武神。恐らく会場にいらした皆さんが、この大会を通して最も期待と高揚を感じている組み合わせだと思われます。私も震えが止まらなくなっています!互いに侍の気概と武器を携え、数多の戦いを乗り越えてきた猛者!それでは最後の号令です!木野塚町のヒロイカズタカ選手対、椿町の浅田選手に代わりまして小峰宗十郎!」


大歓声。

今までの比ではない、これだけで一つの攻撃になりそうだ。

中央へ赴く。

胴田貫正國を携えた宗十郎が、静かに此方を見据えている。

俺も一振りの真剣を携え、相対する。


「なおこの試合でのみ互いの実力を考慮し、真剣での戦いが特別に認められています!また当施設が激戦に耐えきれない恐れもありますので、総合順位五位以内のシカマ選手、ホカゾノ選手、ヒロイキヨシ選手、御奈坂緋結華選手には四人での特殊審判とさせていただきます!また同選手は施設と一般人の保護及び有事の際のストッパーとしての任も合わせてご了承ください!」

「まぁ当然の措置だよな。」

「兄さん止めるには四人でも少ないくらいだし。」

「私に止められるでしょうか?」

「オレたちもついてるから安心しな。緋結華ちゃんは一般人の保護を頼むよ、厳しいなら呼んでくれて良いから。」

「はい、判りました!精一杯頑張ります!」

「よし、なら行こうか。」

「ウチが華麗に守ってみせるぜ!」

「逃げんなよホカゾノ!」

「当たり前だ、絶対弾く盾となろう!」


四人が各所に散る。

準備は整った。

いざ参る!


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