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1月22日 Day.13-7


「ぷぷっ、マジざまぁ!一発も入れられないでやんの、やっぱ口だけの男は違うね!」

「お兄さんと最後まで戦えず棄権した腑抜け野郎には言われたかねぇなあ!ほらほらチキンちゃん、医務室行って女医さんに癒してもらえよ~!」

「あんなむさいオッサンが居たら寧ろ悪化するわ!テメェだってさっき運ばれたんだから知ってんだろ!」

「ホントだぜ、我らが愛しの美人女医はいずこへ行ってしまわれたのか!」

「仲が良いのか悪いのかわからんな貴様ら、まぁ仲良しなんだろうが。それよりホカゾノ、出番だぞ。」

「遂にあのじい様か、腕が鳴るぜ!」

「あいつ一切容赦とかしないから覚悟しとけ。何でも戦いは神聖だから手加減とかは無礼に当たるんだと。」

「燃えるじゃんか!老兵の時代は終わったんだとその身に刻み込んでやる!」

「老いて短い人生に幕引いてやれホカゾノ!」

「もう知らないからな。」

「さぁいよいよこの方の登場です!木野塚町のホカゾノ選手対、椚町の春川選手に代わりまして、小峰剣術道場師範代、小峰宗十郎!」


真打ち登場で会場が熱気に包まれた。

俺やキヨシ、ホカゾノやシカマの人間離れした戦いを常に間近で見ていた者。

巻き込まれる事もなく、それでいて逃げていた訳でもなく、激しい攻撃の度に全てを躱し続けたご老体。

遂に奴が刀を握る。

中央へ移動する二人。

俺も審判として中央へ移動する。

にやけたホカゾノと、目を閉じ、刀を杖のように床に突き立てる宗十郎。


「開会式の借り、利子付けて返してやるよ!」

「………。」

「おい爺さん無視は良くねぇなぁ、淋しくて泣いちゃうぜ?」

「………存分に泣いておくがよいぞ小僧、今であろうが後であろうが泣く事に変わりはない。」

「寝言いうにはまだ早い時間だぜ爺さん、ご老体にしては威勢がよすぎるだろ?」

「戯け者が!!」


一喝。

空気が研ぎ澄まされ、ただそこに居るだけで首筋に刀を押しあてられているような威圧感。

相変わらず馬鹿げた気だな、一般人はこれ向けられただけで吐くぞ。

ホカゾノも力量差を感じたのか、腑抜けた表情から引き締めた。

流石は現世に生きる武神の一角、あと100年は余裕で生きそうだ。

宗十郎は刀を袋にしまい、静かに俺へと預けてきた。


「貴様なら扱い方も知っておろう、この試合の間預かっておれ。」

「あぁ、しかと受け取った。」

「まさかあんたまで刀を抜かないつもりか?」

「あの刀は九州肥後胴田貫藤原正国が拵えし一振り、銘は「影裂き」、ワシが武神であるが故に手放さずに済んでいる国宝級の代物じゃ。歴史上には記されず、小峰の家に影で加藤清正殿より賜った家宝である。貴様如き戯け者に使うには無礼に当たる。故に貴様はこの小峰宗十郎の身一つで倒そう。」

「流石は武神、端から端まで化け物だ。」

「全力で来るが良い小僧、ワシは手加減せぬ、せめて1分耐えてみせよ。」

「1分と言わずずっと付き合ってもらう、ウチのタフさを舐めるな!」


俺は相対する二人を見ると、大声で言い放つ。


「いざ尋常に………始め!」

「小峰流・天衝峰砕!」

「んなっ!」


開始直後、巨大な気を込めた拳がホカゾノを吹き飛ばした。

……腕を上げたなジジイ、前より鋭くなってやがる。

回避も防御もできぬまま直撃したホカゾノは、血反吐を吐きながらゆっくりと立ち上がった。


「ゴホッ……ったく、いきなり内臓潰しに掛かるとは殺すつもりとしか思えないな。」

「無駄口を叩くな痴れ者が!戦いの最中に隙を見せるでないわ!」

「やべっ!」


既にホカゾノの目の前に来ていた宗十郎が、胸ぐらを掴み、凄まじい勢いで宙に放り投げる。

深いダメージを負った状態で無防備、こりゃ沈むかな。

すぐさま宗十郎は跳び、更なる追撃を仕掛ける。


「小峰流・絶影!」


天井、床、壁、手すり。

およそ足場とできるあらゆる場所を使った空中連撃。

相手を落とし、上げ、吹き飛ばす。

影さえ追い付けない速度、まさに絶影。

ボロ雑巾みたいになったホカゾノがボトリと落ちてきた。

どうやらもう戦えないな、やれやれ。


「勝者、小峰宗十郎!」

「これが日本最強クラスの力なのかー!?武神として格の違いを見せ付けました、私では何が起きたのか判らない戦いです!」

「一度戦いになったなら終わるまで油断すべきではない、そう教えておけカズタカ!」

「はいはい、怒鳴らなくとも聞こえてるって。」

「まさか次の奴まで同じではあるまいな?」

「………多分。」


流石にこいつのやられっぷりを見て同じことをするとは思えないが、どうだかなぁ、微妙だ。


「続いても小峰さんの試合です!木野塚町のヒロイキヨシ選手対、並木町の三田村選手に代わりまして小峰宗十郎!」


先の試合を見てその凄さが判ったんだろう、歓声が凄い。

ジジイはまだ刀を取りに来ない、まぁ使う必要はないだろうさ。

キヨシが槍を携えて向かい合う、言葉はない。

キヨシの目は真剣だ、しっかりジジイを見据えている。


「いざ尋常に………始め!」

「小峰流・天衝峰砕!」


初撃は変わらず神速の掌打、だが……。


「………やるな貴様。」

「無駄口叩くと舌噛むぜ!我流・烈光刺!」


拳を槍で受け流したキヨシは、穂先を思い切り蹴りあげる。

視界の外から襲ってくる穂先を、宗十郎は素早く後退することで躱そうとした。

だが更に追撃をするため、キヨシは低く体勢を落とす。


「奥義!瞬光槍・疾風(ハヤテ)!」

「うぬ。」


宗十郎は光が瞬く速さで突き出された槍を躱し、それでもまだ余裕を見せる。

キヨシは冷静に、更に技を放つ。


「奥義!瞬光槍・天雷!」


さっきと同じ速度で、機関銃のように突きを連ねていく。

流石の宗十郎も腕で穂先をずらすしかなく、躱すことができない。


「貴様には刀を使うべきだったな!」

「甘く見んじゃねぇー!奥義!瞬光槍・四面楚歌!」


一瞬、キヨシが分身したように見えた。

実際は残像が残るほどの高速移動を行いながら、天雷を放っているのだ。

逃げ道を閉ざす刺突の壁。

自分より強い相手を倒すなら、相手が本気を出す前に最大級の技で潰す。

キヨシにとって不幸だったのは、小峰宗十郎が見切りの達人だったことだろう。


「馬鹿な……。」

「同じ系統の技を使った連撃は感服じゃが、ワシには効かぬよ。」


キヨシの槍は宗十郎によって掴まれていた。

緩急がついた攻撃でなければ瞬時に見切り、止める。

同じ系統の技、パターンが決まった技は、如何に速くとも見切られてしまう。

奴を倒すには、一撃必殺の単発攻撃のみ。

これこそが武神と認められた、生きる神話の実力だ。


「貴様の突きは驚嘆に値するほど速い、故に見切るのに時間がかかった。じゃがもっと早く決着をつけるべきじゃった、更に鍛練せよ。」

「ったく、お兄さんはこんなのを倒したのかよ。」

「あの男を今日こそ倒す。見ておれ小僧、貴様の兄がワシに敗れる様を。」

「期待しとくよ、武神。」


槍を引き寄せられ、そのまま腹部に肘を食らうと、キヨシは電源が落ちたように気絶した。


「勝者、小峰宗十郎!」


拍手喝采とはこのことだ。

皆の歓声が、強敵へ立ち向かったキヨシに注がれる。

本人には聞こえていないが、良く頑張ったと俺も思うよ。


「激しい技をものともせず、小峰さん勝利!この圧倒的実力差に恐れず立ち向かったキヨシ選手に、もう一度拍手をお願いいたします!」


盛大な拍手の中、俺は宗十郎に胴田貫を返しながら言う。


「相変わらず見切りは化け物じみてるな。で、どうよウチの奴らは。」

「図体がデカい方は礼儀がなっとらんが、他の試合を見る限りでは十分じゃな。弟の方は十分な鍛練を積んでおる、単に相性で負けたのじゃろう。その辺りをしっかり鍛えておけカズタカ。」

「別に弟子でもないし、俺が鍛えるまでもなく勝手に強くなるさ、この大会はいい刺激だな。」

「まぁ貴様はワシに倒されるのじゃがな。」

「お、何だそれ、今朝見た夢の話か?」

「言っておれ。ワシが敗けてからどれほど経ったと思っている、ただ静かに余生を楽しんではおらぬわ。」

「そうか、それは楽しみだよ。」


互いに昂ぶった精神が、自然と覇気を発し始める。

それは濃密で、熟練の武道家でなければ耐えられない強さ。

覇気に当てられ、気絶していたキヨシが目を覚ます。

ホカゾノもシカマも、緋結華も。

この密度の中で普通にしてられる奴らこそ、この辺りの最強クラスだろうな。

俺の黒く、他者に威圧と畏縮を叩きつける覇気。

小峰宗十郎の白い、他者に威圧と気高さを感じさせる覇気。

だがな、白とは黒に呑み込まれるって相場が決まってるんだ。

同じ刀を使う者同士、技と力、覇気と気概が勝敗を左右する。

あの頃は気概以外は俺が圧倒していたが、覇気に関しては並んできたな。


――もしかしたら、シカマやキヨシたちに止めてもらうことになるかもしれない。


その前に、俺はアイツと戦わないといけないが。

俺はシカマを見る。

シカマも、弓を掴み、こちらを見据えた。

最も戦いたくはない相手が、本気の目で俺を見ている。

この力を得るに至った理由。

親友を傷つけてしまった弱さを克服したくて、その為に鍛えた力。

結果を理由にぶつける、それは結果を壊すことに他ならない。

かつての俺自身を、今の俺が殺すのと変わらないんだ。

かといって、棄権したらシカマは怒るだろうな。

さて、どうしようかね。


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