1月22日 Day.13-4
「いざ尋常に………始め!」
「我流・疾槍蓮華!」
「我流・虎連爪!」
金属同士の激突音が、これから始まる戦いの前奏曲を奏で始めた。
目にも止まらぬ突きと斬撃の応酬、確かに奴ら、一週間で相当鍛えたみたいだな。
でも厄介なのが一つ。
お互いに高め合ったせいで、お互いの技を知り尽くしている。
この戦い、ろくな終わり方をしない気がするよ。
「潰れろ馬鹿が!食らえ、我流・空落とし!」
「甘いわ!我流・星撃ち!」
上空からの降下斬撃とそれを打ち返すフルスイングが、またも派手な音を立ててぶつかる。
着地してすぐさま突撃、その場に踏み止まっての大激突。
「はぁああああああ!」
「オラオラオラオラ!」
激しくぶつかり、汗が飛び散り、とても晴れやかな笑顔で二人は戦っている。
まるで最高のライバルに出会えたかのような、そんな嬉しそうな闘志。
………暑苦しい戦いだ。
いやもう全然爽やかじゃないよ?
熱い戦いって俺も好きだけどさ、これはなんか気持ち悪いわ。
まぁ会場は歓声でいっぱいだ、何せ普通の人にはあの速さは驚愕だろうし。
はぁ、長くなりそう。
「我流・破魔滅殺剣!」
「その技見切った!奥義!」
ホカゾノの連撃を槍で捌きつつ、キヨシの槍が風を帯びた。
「旋風槍・突風!」
超高速の突きが風の塊を作り出し、ホカゾノを正面から吹き飛ばした、体育館壊すなよ?
「続けて行くぜ!奥義!旋風槍・乱れ風!」
より高速で連弾をたたき込む、これは中々凄い技だな。
すると突くのを止めたキヨシが、くるくると槍を回し始めた。
風は更に大きく強く、あれはまるで…。
「奥義!旋風槍・大竜巻!」
強烈な竜巻を帯びた一撃が、よろめくホカゾノに向けて解き放たれた。
体育館が揺れる程の衝撃、全てを吹き飛ばす風が館内に爆散する。
やるな、あれは相当の大技だ、良く完成させた。
だけどアイツの堅さと重量には、風じゃちと足りなかったか。
「もはやファンタジーの世界を見ているかのような一撃が決まったー!果たしてホカゾノ選手は無事なのか!?」
「やっぱまだ完成度が低かったか、俺も精進が足りないな。」
「はっはっは!甘いぜキヨっちゃん、ウチの豪腕を舐めすぎだぞっと!」
片膝を付きつつも、ホカゾノが刀を構えて立ち上がる。
かなりの傷を負ってはいるが、いずれも致命的なダメージではない、まったく規格外な腕力してやがるぜ。
「まさか剣圧だけであの竜巻を相殺したってか?」
「おうよ!伊達にマウンテンゴリラとか言われてないぜ!」
「なんとホカゾノ選手は無事だー!大自然の力を取り入れた技を受けてなお健在!なんという豪腕、なんという堅牢さ!これがフラトレス最強の腕力を持つ武神の実力なのか!?」
「いやいやあんま褒めるなって、調子乗っちゃうぞ?」
「だが流石に無傷じゃ済まなかったみたいだな。それにその刀、もうボロボロなんだろ?」
「やっぱバレるか。あぁ、次にあれをやったら確実に折れるだろうなぁ。やれやれ、ウチの豪腕に耐えうる物質がこの世界にないのが悔やまれる。」
「この化け物め、巨人の霊でも憑依合体してんのかテメェは。」
「はっはっは、巨人なんて甘い甘い!ウチに宿るは最強の雷神トールその人よ!」
「チッ、化け物風情が神を気取るなよ!」
「キヨシこそ隠れてあんな技まで修得しやがって、竜巻出すような奴に化け物と言われたくないわ!それになキヨシ………ウチだってただお前と鍛えてただけじゃないんだぜ?」
「ほぅ、ならその技とやら、正面から打ち破るまでだ!」
「お前の細腕でウチの豪腕を受け切れるかな?」
ニヤリと笑い、飛び出す。
床を蹴った衝撃で体育館が揺れ、観客は更にヒートアップしていく。
激しい打ち合い。
迸る闘気は苛烈な攻撃に乗り、踏み込む速度は連撃に更なる加速を生む。
まさに死闘と呼べる戦い、俺も今ではその一部始終を食い入るように見ている。
余計な感情は捨て去り、ただ身体は戦いのために最適化されていく。
アドレナリンが痛みや疲労を忘れさせ、もっと強く、なお速く、限界突破の更に上、最高の動きを可能にする。
暫く全力が出せなかっただろう、さぁお前ら、力を解放しろ!
「唸れ!奥義!心臓破りの魔槍!」
「砕けろ!奥義!豪腕にて生じる矛盾!」
一撃必殺の刺突、それより速く到達する光速剣。
僅かな差で、キヨシに奥義が直撃した。
だが奥義を食らってもなお、キヨシの槍はホカゾノへと届く。
しかし強烈な一撃ではなく、追撃をさせない牽制にしかならない攻撃。
吹き飛ばされたキヨシは着地するも、槍を支えに膝を折る。
ホカゾノは胸を押さえ、己が刀を見た。
二度に渡る物理的限界攻撃は、金属製の刀を真ん中から折ってしまっている。
ホカゾノは苦笑すると、折れた刀を床に置き、すぐに拳を構える、まだ終わりじゃない。
よろよろとキヨシは立ち上がり、しかし衰えぬ目付きで槍を構え直す。
「ウチの膝を折った借りは返したぜ!」
「上等じゃねぇか、このままじゃ済まさないぜ。」
「ほら来いよ、格の違いってやつを見せてやる。」
「吹くじゃねぇか三下ぁ!武器が折れたことを後悔しやがれ!」
「ウチは拳の方が戦いやすいんだ、病室の予約しろよ、待っててやる。」
「その言葉、そっくりお返しするぜ!塵になれバーカ!」
「うっせぇアーホアーホ!」
「うらぁ!ぶっ飛びやがれー!」
「槍ごと叩き折ってやるわー!」
お互い奥義を食らったとは思えない覇気で、再びの突撃。
てかせっかくカッコいい展開だったのに、挑発が稚拙すぎるだろ。
しかしリーチの違いは大きい。
槍と刀でさえ三倍の力量差がなければ戦えないと言われているが、あれでは本来戦いにすらならない。
だがあの馬鹿は、圧倒的な腕力で相手の攻撃回数を減らし、大きく外側に攻撃を弾くことで間合いの中へと踏み込んでいた。
今も素早いステップとフェイントで何とか食い付いている。
するとキヨシが放った斬り払いを、ホカゾノが拳で上へといなした。
「はぁぁぁ!豪腕鉄砕・鋼牙!」
「なんのこれしき!」
渾身の正拳突きに対し、キヨシは体を浮かせると足裏を両足とも拳に突き出した。
拳はキヨシの足裏に直撃するが、その衝撃を膝をクッションとして減退させたのだ。
それでも打ち消せない威力はキヨシの体を吹き飛ばし、舞台の縁に叩き込む。
「ちっくしょー、ムカつくわ!」
「ふふん、拳で槍を打ち破れるって教えてやるよ!」
「言ってろボケ!すぐに貫いてやる。」
「ぷぷっ、そう言いつつまだウチを倒せてないじゃん!」
「…………ブチッ!」
あぁ、あれはムカつくわ。
俺が出たらダメかなぁ、すっごいムカついたわ。
あの人を本能的にイラつかせる顔、意外と手強い実力とタフさ。
更には猛烈に稚拙な挑発、あれが意外なほど殺意が湧く。
でもこの状況、ちょっとヤバいぞキヨシ。
「テメェは欠片も残さねえ、跡形もなく消え去れゴミがぁ!」
「ヘイヘイカマン!」
「我流秘奥義・雷庭!」
キヨシ………あの技使うの!?
マジ止めさせないと、確実に体育館使えなくなる。
昔書いてたファンタジー小説の技。
魔力を雷に変化させ、空中から地上へと超高速連撃する。
話の中では礼拝堂がぐちゃぐちゃになったクロニクルの奥義。
俺は刀を掴み、飛び出す姿勢になる。
小峰のジジイも刀に手をかけている、流石にあの闘気なら感付くか。
するとホカゾノが上のキヨシを見ながら、こちらを制止した。
「大丈夫だ兄さん、止めなくてもウチは死なない!受けきってみせる!」
「止めろボケェ!誰もテメェの心配なんぞしとらんわー!大事なのは体育館の方だー!」
「え……?」
ホカゾノが驚愕に目を見開いて、こちらを見た。
その瞳は、とっても悲しそうな小動物みたいで、物凄く腹が立ちました。
小峰のジジイもムカついたらしく、目を吊り上げて刀を鞘に戻しました。
俺は躊躇いなく叫んだ。
「その馬鹿殺せキヨシー!」
「ワシらのためにもやってくれー!」
「おっしゃー、死ねやホカゾノ!雷庭!」
「クゥゥン!」
子犬に似てもにつかない鳴き声が、紫の雷によって打ち消されていく。
チッ、地球のためにも早々にくたばれボケ。
「私は夢を見ているのでしょうか!?まるでファンタジーの世界に迷い込んだような技が放たれました!あれで生き残れる人間がいるのでしょうか!」
体育館の床は砕け、何ヶ所も焦げ目がついている。
着地したキヨシは相当の体力を使ったのか、肩で息をしながらホカゾノを見た。
破壊の中心でボロボロとなったホカゾノが、大の字うつ伏せで倒れている。
「おぉっと、ホカゾノ選手ダウン!遂に決着か!?」
「まだじゃ、奴はまだ生きている。」
「いや死んだらまずいだろジジイ。」
「………ふっふっふ、ウチはまだ戦えるぜー!」
ゆっくりとホカゾノが体を起こす、なんてタフさだあいつ。
だがこちらも相当に効いたらしい、足元がふらついている。
あと一撃、それで勝負が決まるだろう。
「甘いぜキヨシ、痛みで技が鈍ったぞ?」
「は?お前何言って……。」
直後、キヨシの槍が真っ二つに折れた。
カランカランと音を立てて、赤い槍が床に落ちる。
「突きの一回一回、同じ場所を殴り続けた。」
「チッ、気付かなかった。」
「まぁお陰で余計にダメージを負ったけどな。」
「ってことは。」
キヨシは槍を置き、拳を構える。
「やっぱ男なら!」
「拳を握って殴り合いだろ!」
その言葉に会場が沸く。
熱い戦いの最後を飾る、一発の拳。
それが今、放たれようとしている。
刹那の静寂。
無音で放たれた二つの拳は、中央で激突した。
衝撃で拳が痛む。
だが闘志は折れない。
弾かれ、滑りながら左右へと離れた。
勝利への咆哮が木霊する。
「ウオォォォ!」
「ウラァァァァァア!」
たったの一歩で辿り着く最高速。
技も何もない。
ただ拳が答えを決める。
同時の踏み込み………。
終焉が鳴った。
吹き飛んだのはキヨシ。
背中を思い切り舞台へとぶつけ、床に落ちる。
「勝者、ホカゾノ!」
「よっしゃー!!」
鼓膜が破けるかと思うくらいの歓声が、体育館を満たした。
爆発のように拍手が響き、両者を讃える。
最高の漢の闘いだったと。
ホカゾノも手を振り返すが、疲れ果てたのか倒れこんだ。
キヨシも一緒に急ぎ担架で医務室へと運ばれていく。
「武神同士の戦いは遂に幕を閉じました!人間とは思えぬほど激しい戦いを制したのは、ホカゾノ選手!両者とも武器は折れ、奥義を受け、なお倒れぬその闘志!同じ男として興奮で奮えてしまいます!」
俺も十分に堪能させてもらった、中々やるじゃないか二人とも、良く闘った。
またこの試合で気合いを入れられただろう、他の選手も知らず知らずの内に拳を握り締めている。
シカマも緋結華も自分の武器を掴み、素直に感動しているようだ。
こりゃあ単なる市内武道大会じゃ終わらないだろうな。
俺は審判を勤めるジジイを見る。
向こうもこちらを見て、口元に笑みを浮かべた。
あぁそうだよな。
俺もあんたも、間違いなく戦闘狂だ。
だからこそ強い奴を育てようとする、自分を倒しうる逸材にするために。
なぁ小峰宗十郎?
あんたも闘いたいよな?
アイツらの戦いを見て、あの熱い勝負の決着を間近で感じて、疼かないはずがないんだ。
俺もあんたもさっきから刀の柄から手が離れないでいる。
さぁ、俺も本気を出す時が来たみたいだな。
喜べ小峰宗十郎。
俺は久しぶりにやる気らしいぞ!




