1月22日 Day.13-2
「これはまた、凄い人だな。」
「経済効果高そうだね~。」
「酒は何処に売ってるの?」
「キヨシ、あっちでたこ焼き売ってるぜ!」
「いい匂いだ、食欲をそそる!」
「受付が先だ馬鹿共!揃って行かなきゃいけねぇんだよ!」
「すぐに試合開始らしいね、ヒロトはあたしと一緒に席取りに行こうか。」
「了解です。」
「じゃあ頑張ってね三人共!」
「俺は敗けないさ。」
「お兄さんとの戦いがメインだ、他はおまけだぜ!」
「本命の前の肩慣らしってね。」
「あまり大声で言うなそういうこと、睨まれるぞ。」
むしろ既に周りからは注目を集めてしまっている、てか若いのが多いな、やっぱ各街の精鋭ってところか、場所によっては予選まで開催するくらい本気らしいからな。
「敗ける要素が見当たらないくらい弱そうだ、やる気が萎えるぜ!」
「おいおいキヨシ、ホントのこと言ったら傷ついちゃうだろ?あ、でもどうせウチらにやられるから一緒か。」
「黙れアホ、余計な手間こさえるな。そういうことは試合の時に言え。」
やれやれ、こいつらの挑発ほど神経逆撫でする言葉もないな。
………結構な強さの奴もいるみたいだ、用心しておこう。
俺たちは体育館入り口に設置された受付で選手登録を行い、選手の証である腕章を取り付けた。
意外に市営といえど広いらしく、各街の選手に一部屋あてがわれた。
参加したのは四つの街、選手は12人になる。
戦いは総当たり戦、一番勝ち星を取った選手が所属する街が優勝となり、優勝選手には賞金十万円が贈呈される仕組みだ。
武器の使用は可、但し刃物は刃を潰した模造品に限る。
過度の攻撃や暴言は厳重注意、二度目から失格、明らかに危険だとされる物、ルール規定外品の所持は即失格。
こんなところか、まぁ普通にルール付きの喧嘩に近いな、グローブも着けないし武器もありなんだから、単に死なないってだけだ。
更に言えばこの大会では多少の怪我は自己責任、治療費も自分で出さなきゃならない、ウチの馬鹿共はナイフ刺さっても自己再生するだろうけど。
さて、そろそろ一回戦開始かな。
俺たちは運動ホールに集まると、各街ごとに整列した。
舞台に市長が立つと、観客も含めて皆が静まる。
「この度はこの柿崎体育館にお越しいただき、誠にありがとうございます。面倒な私の話は飛ばしましょう、皆さんが観に来たのは私ではないでしょうから。では選手の皆さん………良い戦いを!」
館内に歓声が響き渡る、やるな市長、これだけ判りやすい言葉ならまた票が集まるだろうな。
すると舞台裏から和服に刀を差した老人が出てきた、あのジジイまだ生きてんのかよ。
老人は荘厳な顔つきで選手を見渡し、俺を見て一瞬顔が引きつった。
だけどそのままマイクを取ると、歳の割りに張りのある声がスピーカーから響く。
「ワシは小峰宗十郎、小峰剣術道場の師範代である。本日は試合の審判として馳せ参じた、皆正々堂々と戦うが良い!」
「ねぇねぇ兄さん、あのじいさんって…。」
「黙ってねぇと斬られるぞ。」
「貴様、ワシの台詞を邪魔するか?」
小峰老人はいつの間にか抜刀状態でホカゾノの前に立ち、首筋に刃を向けていた。
相変わらず化け物じいさんだ、ホカゾノが動けないくらいだしな。
「すみませんでしたー!」
「それで良い、理解力は大事なことだ。それよりカズタカ、何故お前がアマチュアの大会に参加しとるのじゃ!」
「頼まれたからだジジイ。それより演説は良いのかよ、皆待ってるぞ。」
「そうだったな、ワシとしたことが。後で控え室に行くからな、待っておれ。」
「はいはい判ったから、舞台に戻れジジイ。」
また一瞬で消えると、納刀した状態で舞台に戻っていた。
二言三言喋ると、
「誰あのご老人は、兄さんばりに人間じゃないよ?」
「小峰宗十郎、こっちに来た頃に目を付けられてずっと勧誘されてんの。」
「何に?」
「剣術道場師範代、あのじいさんの相手、道場の跡継ぎと色々な、しつこいじいさんだ。」
「はぁ、意外とお兄さんって大変なのね。」
「まったくだ、馬鹿共の相手もしなくちゃいけないしな。」
「言われてるぞキヨシ。」
「は?お前だろホカゾノ。」
「ウゼェ。」
「それでは早速第一試合に入ります、各選手は所定の椅子にて待機願います。最初の選手は椚町の春川選手と並木町の三田村選手、両者中央へ!」
「俺たちはあっちの席に行こう、他の奴の戦いもちゃんと見ておけ。」
「でもあれは微妙じゃね?」
「普通にしたら弱くはないけど、強くもないじゃん。あれじゃ技術が介入する余地もない、ただの打たれ強さだよ。」
「ふむ、ただ雑魚と貶さないだけマシか。」
両者素手での格闘戦か。
まぁあれは腕自慢と言うより力自慢、洗練されたものでもないな、戦い方も喧嘩と変わらない、相手が武器とか持ってたらダメだろうな。
下手に武器とか持たず正解だろうな、怪我させるだけだし。
はぁ、やっぱ参加辞退すりゃ良かった。
「勝者、椚町の春川選手!」
「ハァ……ハァ。」
「あれはもう戦えないっしょ、体力なさすぎ。」
「自分に対して危害を加えようとしている者との対峙は、ただそれだけでも極度の緊張をするからな。結果常に全力で身体を動かす事になり、必要以上に体力を浪費するんだ。」
「ウチらは慣れてるから普段通りだけどね。」
「第二試合!木野塚町のヒロイキヨシ選手対椿町の武蔵選手!互いに中央へ!」
「おっしゃー!」
「やり過ぎるなよ?」
「ブッ潰せキヨシ!」
「キヨシ君頑張れー!」
客席からもカオリの声援、ヒロトは日本酒持ってる。
武蔵選手は刀か、名前に見合う実力かお手並み拝見。
小峰老人が互いを見やり、声高らかに言い放つ。
「いざ尋常に………初め!」
「はぁぁぁぁあ!」
「うわ、遅いな。お兄さんよか全然遅い。」
キヨシは相手の踏み込み斬りをバックステップで避けると、槍を高く真上に投げた。
相手は槍に目を向け、身体は隙だらけ、はぁ。
「月の裏側までぶっ飛びやがれー!」
渾身の回し蹴り、容赦してやれよ。
武蔵って選手は何が起きたのかも判らないまま舞台に向かってぶっ飛んだ、ありゃもう戦闘不能だな、いや戦意喪失か。
でも刀だけは手から離していない、ちゃんと侍じゃないか、そこは誉めるよ。
「勝負あり!勝者ヒロイキヨシ!」
「あと100年修行してきな。」
「武蔵選手を医務室へ、ダメージ自体は大したことないじゃろ。」
「圧倒的!これが彼のカフェに属する武神の実力なのか!?」
「いやいやあんま誉めるなって。」
「この戦いをふまえ大会辞退者が出るかも知れません!それほどに圧倒的だカフェ・フラトレス!」
「もはやウチらの所属が木野塚町じゃなくなってるよ。」
「まぁ正直虐めだからなこれ。」
「第二試合から既に優勝確定な気がします、いかがですか小峰さん?」
「ワシが各町に一度だけ代理として出るかの、じゃなければつまらない試合になろうて。」
「おぉっと意外な展開だ!審判自ら剣を取ります!」
「面白いじゃん、負けねぇよ俺は!」
「結局戦いたいだけかあのジジイ。」
「兄さん以外にも楽しめそうな相手だ、ワクワクしてきた!」
「市長のOKサインも出ました!各町に小峰宗十郎さんが参戦、確実にフラトレスの方々にぶつけてくるでしょう!」
「ではワシが試合中はフラトレスの奴らに審判を任ずるぞ、不正な判断は下すなよ?」
「かったりぃな、まぁ仕方ないか。」
「初開催から波乱の幕開けです!これは会場が大いに盛り上がるでしょう!」
「つか俺らの独壇場になりつつあるぞ、恨みを買わなきゃ良いんだが。」
「さて続いて第三試合!椚町の大塚選手対椿町の木崎選手!両者中央へ!」
「いざ尋常に………初め!」
それから二試合、フラトレスチームは後回しにされた、盛り上げるための対策かねこれは。
今のところ椚町が一番勝率が高いな、武蔵選手は復帰できてないようだ可哀想に。
「次で午前の部最終試合になります!椿町の武蔵選手対木野塚町のホカゾノ選手!ですが武蔵選手は戦闘不能のため、急遽代理の選手になります!」
「この状況で代理になるとは勇者がいるもんだな!あっはっは!」
「椿町の武蔵選手に代わりまして、シカマ選手!」
「何ぃ!?」
「よぉお前ら、正月ぶりだな。」
控え室の方からシカマが現れ、手には弓を持っている。
てか遂に来たって感じだな、こりゃ激しい大会になりそうだ。
「ホカゾノ敗けたな。」
「御愁傷様ホカゾノ。」
「シカマくん頑張れー!」
「おぅ!」
「カオリさんはせめてウチを応援して!」
「両者中央へ!」
「さて、準備運動を始めますか!」
「今は一人の男としてシカマさんを倒します。」
「言うじゃん、手加減しないぜ?」
「あっはっは、ブッ潰す!」
「いざ尋常に………初め!」
「一撃で眠れホカゾノ!我流弓拳術・剛掌打!」
シカマは張り詰めた弓を放つように、高速の掌打を放つ。
体育館が揺れ動く衝撃、直撃したら相当なダメージになる。
……けどあれは。
「その程度の威力と速度、毎日兄さんにボコられてりゃ見えるようになるんですよ!」
「へぇ、流石に真正面からじゃ受けられるか。」
「年間ボコられ回数が365回を余裕で凌駕するウチを舐めないで下さいよ!」
………や、得意気に語るなよ。
「それに単純な力比べなら、ウチは兄さんさえも越える!」
「化け物め、化け物レベルの狩人と呼ばれたオレの技の冴えを見せてやる!」
「我流・龍葬斬!」
「甘い!降り注げ破魔矢!」
暴風を生む斬撃を躱し、シカマは空中から雨のように矢を放つ。
暴風と豪雨、二つの災害が真っ向から衝突する。
弓兵の矢はそのことごとくを斬り落とされ、剣士はその間合いに捕らえられない。
しかし矢はいずれ尽きる。
それまで耐えれば剣士にも勝機が見えてくる、互いに近距離戦となれば刀を持つホカゾノこそ有利だ。
まぁシカマはそこまで甘くない。
ホカゾノは高く跳び上がると、落下の勢いをつけて斬りかかる。
「我流・月光斬!」
「跳ぶのを待ってたんだよ!我流・崩天弓!」
残りの矢と必殺の斬撃が空中で弾けた。
着地するホカゾノは右肩を押さえ、シカマの弓は真っ二つに折れてしまっている。
単純に考えればホカゾノの勝利だろう。
だが小峰老人は未だ判定を下さない、戦いはまだ終わっていない。
シカマは折れた弓を床に置くと、拳を握ってファイティングポーズをとる。
ホカゾノは矢の当たった右肩から手を外し刀を握り直すも、すぐに刀身を鞘に戻した。
「勝負あり!勝者シカマ!」
「おっしゃー!」
「くっそー!」
「遂に激しい戦いに終止符が打たれました!何と大会開始から最強と呼ばれたフラトレスチームを打ち破ったのは、急遽代理として参加したシカマ選手だ!」
会場が歓声と拍手で割れるような音に満たされる、確かに一番楽しい試合だったな。
「互いに人とは思えない動きでした!小峰さん、いかがでしたか?」
「十分に鍛練を積めばあれくらいは可能じゃが、特にシカマ選手の精密さは感服するものがあった。ホカゾノ選手も良く凌いだが、若干敗けてしまったようじゃな。だが勝負は無情、勝者のみが生き残る世界じゃ、次の試合も楽しめそうじゃの。」
「ありがとうございました、では午後1時まで休憩となります、皆さましっかりとご休憩なさってください。」
さぁて、俺もそろそろ身体を温めてしまうかな。




