1月1日 Day.12
元旦の朝。
新年を飾るに相応しい晴れ、初日の出も素晴らしかった。
馬鹿共は年を越してもばか騒ぎしてたが、新年早々俺による鉄槌を食らった。
ヒロトだけはチケットで回避、早速使ったな、これじゃ一年なんてとてももたないだろ。
キッチン、つまり二階の自宅の方。
俺はきちんとお雑煮を用意している、他はかったりぃからパス、別に食べたいわけでもないだろうし。
数の子とかかまぼこくらいは買ってきて皿に切り分けてある、まぁ摘む程度だな。
「おはよーカズくん、改めてあけおめ~。」
「おはようカオリ、あけおめ。」
「おぉ~、お雑煮の匂いがするね。美味そう。」
「餅はたくさん買っといたから遠慮せず食べな、しっかり食べて一年の英気を養え。」
「ならば俺は四つ!」
「ウチなんて五つ!」
「負けるか六つ!」
「七つだ!」
「はよッス、俺は一つでいいです。」
「あたしは二つね。」
何でこいつらこんなに元気なのか、いっそ怖いわ。
俺は大量の餅をオーブンに入れて、しっかり火を通してからお雑煮に入れた、馬鹿二人は丼。
騒がしく始まった新年。
なら発散させねばなるまい。
「飯食ったら縁日行くぞ、そろそろ出店も始まってる頃だろ。」
「キヨシ!射的で勝負だぜ!」
「おっしゃー!乗ってやる!」
「俺は金魚すくいでもしようかな。」
「あたしは綿飴とか食べよう。」
「みんな乗り気だな。んじゃ片付けたら準備しとけよ。」
各々お雑煮を食べ終わり準備開始、馬鹿二人は案の定餅が多すぎて苦戦、元旦から胃袋虐めるなよ。
玄関に集まった俺たちは、一人残らず完全防寒、誰も着付けとかできないからな。
太陽がキラキラと眩しい雪道を、五人連れだって歩く。
目指すは神社の境内、実はちょっとだけ俺の店からも援助してる。
前の二人は腹痛から回復し、既にくるくるとはしゃぎ回ってる、騒ぎを起こさなきゃ良いんだが。
段々と道行く人が増えてきて、やがて神社の前に到着した。
「ウチには今、神が宿っている!縁日制覇の神が!」
「神が宿ってるなら神社入れないな。」
「やっぱいない、いつも通り。」
「あっはっは、俺は神など降臨しなくとも貴様ごときに負けはしない!」
「言ってろ馬鹿めが!では先にたこ焼き屋に着いたほうが勝ちだ!」
「おい止めろ、人がたくさんいる中で走るな。」
「レディ……。」
「ゴー!」
「聞きゃしねぇ。」
二人は人混みの隙間を擦り抜けて、出店の道へと飛び込んでいった。
賑やかな話し声や、ソースや甘い匂いが漂ってくる、腹が減ってくるよ。
「俺はホカ達と一緒にいるよ。」
「気を遣ってくれるのか?」
「ありがとうヒロトくん。」
「んじゃ、急いで探します。確かたこ焼き屋にとか言ってたし。」
急ぐと言いつつゆったりと歩いていくのはヒロトらしいな、まぁ爆発でもしない限りは大丈夫だろう。
俺はカオリの手を取ると、二人で出店を見て回り始めた。
「何処に行きたい?綿飴とか食べるか?」
「食べる食べる~。」
「なら探しに行こうか、匂いを辿って。」
「おぉ~!」
提灯の明かりって何かわくわくさせてくれるよな、楽しい事が起こりそうな雰囲気と言うか。
綿飴はすぐに見付かって、二人で分け合いながら回っていく。
暫く回ってると、案の定というか、馬鹿共の声が聞こえてきた。
「ウチの実力はまだまだこんなもんじゃないぜ!」
「はっ、馬鹿は実力差ってのも判らないらしいな!」
「もう何度目だよお前ら。」
「相変わらず馬鹿だなお前ら。」
ん?
何か今の誰だ?
懐かしい声が聞こえたような。
「よ~ヒロイ、遅かったな!」
「は?いやいや、何故お前がここに居る!?」
「偶然だって、ご都合主義とも言うけど。」
「こんな田舎の縁日に元旦から偶然ふらっと現われるとか怖いわ!」
「おぉ、確かにそうだな。」
「久し振りだねシカマくん。」
「アベさんも久し振り…ってヒロイだったね今は。」
「呼びやすい方で良いよ~。」
「じゃあ兄貴、久し振りにあれやるか!」
「毎回やってるよなこれ、いくぞ弟よ!」
力強くハイタッチ、昔から会った時と別れる時には毎回やってたな、懐かしい話だ。
「てかこの射的珍しいな、エアライフルでやるなんて。普通コルク銃だろ?」
「まぁ珍しいわ、何しろこの射的のライフル提供したの俺だしな。」
「……納得だわ。」
「どうりで見たことあると思ったよ、店の備品か。」
「いや兄さんの私物だろ。」
「店の備品って…お前のカフェは軍事基地か何かか?」
「普通の洋風カフェだよ。」
「いやいやお兄さん、銃とか刀を調度品みたいに置いてる店は異常だから。」
「誰のせいで置く羽目になったと思う?」
「おいホカゾノ!お兄さん困ってるぞ!」
「絶対ウチだけのせいじゃないって!」
「いいから早く撃てよホカ、オジサン困ってるぞ。」
「この二人は迷惑しか掛けないね。」
「よしホカゾノ、これでラストだな!」
「11回目にして勝利とは、我ながら遊びすぎたぜ!」
「もうそんなやってんの!?」
「ヒロイ、こいつらちゃんと躾けろよ。」
「すまない、何も言い返せないな。」
「カズくんのせいじゃないと思う。」
「間違いなくこの二人が悪い、成長してない。」
「倒すぜあのオッサンを!」
「倒したらウチらの奴隷にしてやるぜ!」
「やめんか馬鹿!」
「でも確かにお手伝いさんは欲しいね……頑張って二人共!」
「カオリ!?」
「いい加減冗談も程々にしとけよ、オッサン困ってるぞ。」
「厄介な客に絡まれてるよなあのオッサン、可哀想に。」
「オッサンオッサン言うなよ、可哀想に。」
「ホカゾノ、一斉射撃だ!」
「ファイアー!」
「このたわけ!冗談も大概にせぇやー!」
腰のホルスターからガバメントを抜くと、容赦なく二人の頭に撃ちこんでやった。
怯える哀れなオッサンに迷惑料を払い、頭を抱えて蹲る馬鹿共を引き摺っていく、今日はシカマが居たから楽だよ。
ずるずると二人を引き摺りながら出店を回っていると、おみくじを引く建物に辿り着いた。
せっかく来たんだし引かない手はないよな。
「すみません、おみくじ六人で。」
「はい、六百円だよ。」
「ほらお前ら、一人一回引け。」
「一番槍は貰ったー!」
キヨシが意気揚々と八角形の木筒をガシャガシャ振った、ありゃ箱が壊れそうだな。
細長い棒が出てきて、そこに書いてある番号のおみくじを受け取る、ちょっとドキドキする瞬間だ、どんなクールくんも大抵は内心気になってしょうがない。
キヨシがテンション高くおみくじの糊を剥がしていく、ちょっと破れてるぞー。
「俺は………大吉だ!」
「こらこら不正はいかんぞキヨっちゃん。」
「弟くん、見え透いた嘘は止めろよ。」
「キヨシ、俺は信じてるぜ……本当のことを言えよ、笑わないから。」
「オレ、暫く会わなかったけど、キヨシは嘘つきじゃなかったはずだ。」
「みんな辛辣すぎだよ、キヨシくんは嘘ついてないよ。キヨシくん、読み間違いとかしてない?」
「カオリの言葉が一番心を抉ります。」
「あはっ?」
「まぁまぁ嘘つきはほっといて。」
「俺は嘘ついてないから、見てみろし!」
みんなで確認する、確かに大吉だ、擦っても透かしても火で炙っても……燃えちった。
「おいお兄さん、何しやがんの!?」
「さぁホカゾノ、早く引きなさい。」
「はーい。」
「クソ兄貴は俺の話を聞きなさい!」
「ウチは小吉だった、まぁ悪くはないな。」
「うん、凄い絶妙なラインだな。」
「見栄も張らず、実にちょうど良いね。」
「会わないうちに成長したなホカゾノ。」
「よく判らないけど、なんか小吉ごときでスゲー誉められた。」
「それよりあのお兄さんおみくじ燃やしやがったよ!?誰か俺の話も聞いて!」
「あたし引きま~す。」
「カオリさんは良いの引きそうだな、ヒロイの姓を手に入れた女性だし。」
「俺もヒロイだから大吉か~。」
「カオリ、例外もあるぞ。」
「酷い!」
「最近キヨシが扱い悪くてウチは助かるな。」
「大吉だ~、ラッキー!」
「流石だ、おめでとう。」
「やっぱヒロイの嫁は強いな。」
「兄さんは大狂を引くな。」
「お、面白いなそれ。」
「とりあえずヒロイ、一緒に引くか。」
「おう、せっかくだし良いのが引きたいな。」
俺とシカマで同時に引く。
「オレは中吉、悪くない気分だな。」
「俺は………勇往邁進。」
「どしたのカズくん、何だったの?」
「だから勇往邁進。」
「兄さん何をはぐらかしてんの?もしかして大凶だったの?」
「うわ、あんだけ偉そうに言って自分は大凶とかダサっ!」
「黙れボケナス!勇往邁進だと何度言えば判るんだ?」
「ちょっと見せてくれ。」
「ほら、もはや凶とか吉ですらなく、勇往邁進なんだ。」
「ホントだ、むしろ凄いな!」
「ヒロイさんおみくじ引いたのにおみくじじゃないな。」
「カズくんの好きな言葉じゃん、良かったね。」
「ある意味大吉より嬉しいな。」
「勇往邁進って何?」
「困難をものともしないで恐れず立ち向かうことだ。」
「キヨシ達には絶対ないな。」
「シカマさんに同意、こいつら逃げる。」
「失礼な!ウチだってやるときゃ戦うさ!」
「俺の実力はお兄さんの実力の1割を軽く凌駕するぜ!」
「それって雑魚じゃん!」
「ふふん、そこは知略と創意工夫に満ちあふれたこの頭脳で上回るさ!」
「この前のクイズ散々だったよねキヨシくん。」
「あぁ、ずたぼろだったな。」
「あれは酷かった。」
「ウチでも何個か判ったよ。」
「キヨシって頭良かったっけ?」
「私は虐めを受けている!虐め反対!」
「これは愛だよ弟くん。」
「歪んだ愛などいらぬ!」
「じゃあ本格的に虐めようか。」
「無視だな、無視。」
「さて、リンゴ飴でも食べ行くか。」
「俺は焼き鳥食べよう。」
「弟虐めてそんなに楽しいか!」
「………。」
「早速無視!?」
ぐだぐだとしてるのは変わらない、このテンションずっと続くのか。
それからそりゃもう飲み食いしたよ、たこ焼き屋は大繁盛だろうけど。
「どちらがより多く食えるか勝負だ!」
「ウチが負けるか!焼きそば五人前を食った胃袋を舐めるなよ!ほら兄さん、かかってこい!」
「そろそろ朝のお雑煮がかま首もたげる頃だろう。この勝負、勝機はないぞ馬鹿め!」
「あんな前菜じゃ小腹も膨れねぇぜ!お兄さんは無様に負けるのさ!」
「負け惜しみはこちらの番号まで~てね!」
「はっ、小僧ども、泣いて謝ろうと許さぬぞ。」
この街の人間は勝負事が好きなのか、周りにはギャラリーが集まってきて大騒ぎ。
シカマとの別れ際まではしゃぎまくった一日だった。
今年もまだまだ楽しくなりそうだな。




