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12月1日 Day.10


真っ白な雪が降っている。

ふわふわと踊るように、キラキラした結晶が灰色の空から落ちてくる。

それは俺たちの住む町を覆い隠し、純白の世界を作り上げていく。

今年の初雪。

それは夜の内に地面を隠すと、朝までには止んでいた。

俺は眠気を覚ますため窓を開け、その美しい純白の世界を見た。

まぶしいくらいの白は、光輝いて白銀にも見える。

気の早い小学生たちは、既に雪合戦をしたりと大忙しだ。

楽しそうな笑い声が、俺の口元にも自然笑みを浮かべさせる。


「オラオラオラ餓鬼ども!ウチに勝てたらそこのカフェで好きな物を食わせてやろう!」

「よ~し、負けないぞー!」

「あのオッサン倒せー!」

「ふはははは、ウチはそう簡単に倒せないぜ!何しろいつも魔王に遊ばれてるからな、貴様ら全員ブッ潰すぜ!」


起きて早々に頭が痛くなりそうな光景だ、可愛らしいちびっこの中にウチの馬鹿が紛れ込んで勝手なことぬかしてやがる。

しかもその馬鹿は、小学生の群れに取り囲まれ、四方八方から雪玉のリンチを受けていた。

いやもう、反撃とか出来ないでしょ、雪を拾う動作の度に10発は飛んできてる、あれをリンチと呼ばないなら公開処刑だな。


「ちょ、痛い、グホッ、痛っ、おいっ、冷たい!」

「あはははははは!」

「ぶっとばしてやる~!」

「このガキが、ブッ潰す!」


うわ~、大人気なく本気モードかよ。

飛んできた玉を掴んでは、投げた奴の顔目がけて投げ返す。

あれじゃただの悪漢だろうが、ったく。

俺は大暴れする馬鹿に向けて上から声をかけた。


「おいホカゾノ、あんま調子に乗るな。」

「げっ、兄さん。」

「そこのちびっこたち。今から俺がそいつを止める、その隙にブッ倒せ。」

「マスターありがとー!」

「兄さん、何でそっちの味方なの!?」

「子供を嬲るのは心が痛むが、貴様を嬲ってもまるで痛まないからだ!」

「この鬼畜ー!」

「ふはははは、さぁ踊れ!我が掌の上で!」

「俺たちもいくぞー!」


俺は上からアサルトライフルを、ちびっこたちは四方八方から。

ホカゾノは躊躇いなく容赦なく、無邪気な暴力に蹂躙される。

ホカゾノが雪にまみれて動かなくなると、俺は下に降りてちびっこたちを店内に入れてやった。


「もう少ししたら準備できるから、それまでテーブルで大人しく待つように。わかったかな?」

『はーい!』

「うむ、良い返事だ。」

「マスターには逆らうなってお父さんに言われたー!」

「そうだな、挑む相手を間違えるのは良くない。ウチの連中には挑まないのが賢明だ、無闇に強いからな。」

「ねぇマスター、あの人ほっといて平気?」

「あの馬鹿は例え月が降ってきても死なないから安心しなさい。」

『はーい!』


俺は素直なちびっこたちに微笑みながら、開店の準備を進めていく。

やがて時間になると、キヨシたちが首を傾げながら入ってきた。


「なぁお兄さん、馬鹿は朝もはよから何で雪風呂に浸かってんの?もしかして自殺志願者?」

「似たようなもんだ、俺がやったからな。」

「そりゃ自殺志願者だ。で、このちびっこたちは何?」

「外の馬鹿を葬るお手伝いをしてくれた勇者たちだ、朝飯くらいは出してやらねば。」

「それは素晴らしいぼうやたちだ。お疲れ君たち、ゆっくりしていきたまへ。」

『はーい!』

「なぁなぁ外でホカが伸びてるんだけど。」


続いてやってきたヒロトとカオリにも同じように説明する。

二人も似たような反応をして、同じくちびっこの頭を撫でたりしていた。

開店してからやってくるお客さんは、楽しそうにご飯を食べる子供に和んでくれたようだ。

俺はその間、ちびっこの家に電話を掛ける、心配してると悪いからな。

さて、そろそろ馬鹿を回収するか。

扉を開けて、目の前の歩道を見る。

そこにホカゾノは居らず、代わりに馬鹿デカい雪だるまが出来上がっていた、通行の邪魔この上ない。

雪だるまには小さなメモが刺さっていて、壊さないでね by足長おじさんと書いてあった、この汚い字は間違いなくホカゾノだ。


「……足長くねぇだろボケ。」

「あ、兄さんだ。」


声のする方を向くと、馬鹿が仕事もせずに二つ目の雪だるまを作成している。

俺はにっこりと微笑みかけると、完成している雪だるまの頭を渾身の拳で粉砕した。


「あー!」

「そしてトドメの回し蹴り。」


胴体も見事に破壊され、俺は満足気に笑いかけた。


「さぁ、働け馬鹿。」

「その前に言うべきことがあるだろー!」

「お前の脚は短い!」

「そっちじゃねえよ!?」

「いつまでサボってんだカス。」

「傷心するウチを労れ!」

「あぁ?」

「ごめんなさい。」

「黙れ、そして腐れ!」

「良いの兄さん?ウチ腐るよ?かつてない腐臭が兄さんを襲うよ?」

「あぁうん早く腐れよ。」

「酷い!もう少し悩んでよ!」

「………はい、どうぞ。」

「悩むの一瞬!?もういいよ、働くよ。」

「初めからそう言えば良いんだよボケ。」

「これは立派な虐めだと思う。」

「なんだテメェ、まだぐだぐだとぬかすのか?」

「すいませんね。」

「とりあえず厨房行って昼の準備だ、忙しくなるかは判らないが。」

「この雪じゃ外に出るのも億劫だからね。」

「せっかくだしこの雪を利用するか。」

「え、どうすんの?」

「昼のピークが終わってから始めるから、まずは店に戻るぞ。」


案の定昼はそれほど混まなかった、まぁこの雪じゃ仕方ないだろう。

さて、ここからは楽しいイベントといこうか。

俺は店の前に一枚の看板を出した。

――雪玉当てゲーム!ウチの従業員に三回投げて一回でも当たれば飲み物一杯無料サービス!お一人様一回まで!

よし、後は呼び込みをかけよう、名前が売れれば問題ない。


「いらっしゃいませー!只今本日限定のイベントを開催しております!よろしければ是非一度遊んでみて下さいませ!」

「そこのお兄さん、ちょっと遊んでいけよ!」

「飲み物一杯無料だよー!」

「面白そうなことやってるな。」

「お、何かまた騒いでるなあの集団は。」


騒ぎを聞きつけて、続々と人が集まってくる、ノリが良い人達だ。

一通り集まったところで俺は前に出る。


「それじゃルールの説明をしますよ。まず雪玉は三個まで、大きさは自由、投げるタイミングも自由、一度に複数投げてもいいし、投げれるなら雪だるまみたいな大きさでも構いません。但し中に物を入れたりは禁止、石とか入れたら流石に化け物でも痛いです。」

「そうだぞ~。いくら神の如く慈愛に満ちたウチでもちょっと痛いパンチとかしちゃうぞ~。」

「死にたくなかったら余計なことはすんなよな、お兄さんとの約束だぜ!」

「このように血気盛んな馬鹿共ですので、自重していただけたらと思います。投げる距離は10メートル、子供は半分の5メートルにしましょう。では私が試してみます、やってみたいと思う方はあちらにある受付に名前をお願いします。」


俺はカオリが用意したテーブルを示すと、早速ホカゾノと向き合う。


「兄さん、ウチに当てるなんてさせないよ。」

「おいおい、これはデモってやつだ、お前が避けたらダメじゃないか?」

「だがあえてウチは避ける!兄さんに当てられるなんて何か尺に触るぜ!」

「………なら避けれないようにする、覚悟を決めろ。」


調子に乗ったうつけには灸を据えてやろう。


「食らえ!我が渾身の雪だるまの下半身!」

「下半身デカっ!?」

「……サイテー。」

「くたばれ……ゴミがー!」


俺は2メートルはありそうな雪玉を、ジャンプして上から片手で思い切り投げ込んだ。

ホカゾノは回避の為に身構える、ふふん、馬鹿を罠に嵌めるのは容易いぜ。

更に俺は石のように硬くした小さな雪玉を、先に投げた雪玉に投げる。

一点突破、初めから脆く作った雪玉は派手に砕け、欠片は雨のようにホカゾノへと降り注いだ。

不意討ち、更に広範囲攻撃。

ルールは破ってない、使った雪玉は二つだけだ、誰もやらないだろうが。

当然雪玉の欠片は命中し、ホカゾノは悔しそうに唸った。


「このようにとにかく当てれば良いので、頭を使って頑張ってください。」

「何十キロもある雪玉を10メートルも投げれる化け物は兄さんくらいだ!」

「おやおや、負け犬がみっともなく言い訳してるわ、ぷぷっ。」

「マジもうぜってー当たらねえ!」

「大丈夫ですお客様。こいつ人間離れした身体能力はありますが、頭は救いようがないくらい空っぽですので、策に嵌めれば勝てますよ~。」

「おっしゃ、なら俺からやらせてもらうぜ!」


熱いお兄さんが早速チャレンジ、他の人も結構参加してくれそうだ。

存分に身体を動かせるし、ついでに鍛練にもなって一石二鳥だ、暇を持て余すよりはマシだろう。


「俺は昔野球部のピッチャーだったんだ!食らえ俺の速球!」

「ヘイヘイ、カマンッ!ウチに当てたら我らが兄さんの熱い抱擁を受ける権利をやるぜ!」

「あんな化け物に抱擁されたら死ぬわ!」

「お客様……頑張って当ててくださいね。」

「ちょっ、マスター、落ち着いてくれよ。」

「あーあ、余計なこと言うから。」


恐怖に打ち勝てずピッチャー凡退。

その後もちびっこや商店街の熱いオッサン達が次々にチャレンジ、中にはガチで当ててく人もいたくらいだ。

俺が使った手を実践してる人もいた、かなりのコントロールだ、雪玉が小さい分当てるのは難しいだろうに。

50人くらいチャレンジして、当てたのはその内15人くらい、結構頭を使った人が多かった。

しかし、ふふふ。

お陰で店の前は随分雪が減った、これで雪かきも楽になるぜ。

真の勝者は俺って感じだな、あはははははは!


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